DIABETES NEWS No.22
    No.22
     1990 
     SUMMER 
 

変りやすい血圧
 血圧は、緊張しているか、リラックスしているかで常に変化します。はじめての病院に来られた場合、必ずといってよいほど、いつもより高くなっています。落着いて静かに呼吸をしていただくだけで、かなり下ってしまいます。収縮期血圧で、20mmHg くらい下ってしまう患者さんは少なくありません。また2回目、3回目目とお会いする回数がふえるにつれて下って行きます。

変りやすい血糖
 血糖は、深呼吸で下るというものではありませんが、常に変化しているという点では血圧と同様といえます。ある教授の方を、はじめて診察した時、血糖値 420mg/dL でした。お話によりますと昨日まではアルコールも飲まれ、3,000kcal くらいの食事で、診察の前に昼食もたくさん食べて甘いジュースも飲んで来られたということです。診たところお元気そのものでしたので、その日の夕刻から食事療法だけで治療を開始しましたところ、短期間のうちに血糖は正常範囲に入ってしまいました。
 また肥満した軽いインスリン非依存型糖尿病の患者さんでしたが、極度の砂糖の摂取を続け糖尿病昏睡を起こしてしまいました。この方は、その時だけインスリン療法を行い、昏睡が治ったあとは食事療法だけで、1ヵ月後にはブドウ糖負荷試験でも糖尿病とはいえないほど良くなりました。

暁現象一血糖値と採血時の関係
 暁現象のことは、薬とくにインスリン療法の患者さんに教育する項目になっています。血糖は、夜中から午前4時の間に最低になり、午前5時ころから9時にかけては絶食にもかかわらず上昇します。50~200mg/dL も高くなって行きますので、空腹時血糖といっても、その時刻をはっきりする必要があります。当然、インスリンの効果も、朝早く注射した時は、遅く注射した時よりも、はるかに良く現われます。血糖値は大切ですが、それがどのような時に採血されたものであるかを知ることが極めて重要なのです。
 


二種類の糖尿病
 糖尿病は一般に、自分の体内でつくられるインスリンの生成・分泌が不十分なために発症するインスリン依存性糖尿病と、インスリン分泌は若干低下しインスリンの主に筋肉での作用不足が著明なインスリン非依存性糖尿病にわけられています。インスリン依存性糖尿病の中でも特に膵のランゲルハンス島(ここでインスリンが生成分泌される)に対する抗体やインスリン自己抗体等が出現するものをI型糖尿病といい、自己抗体の存在しないインスリン非依存性糖尿病を I I 型糖尿病と称する事もあります。
 インスリン依存性、非依存性糖尿病といっても典型的な症例は別として、中間型にはどちらとも決めがたいものが存在します。インスリン依存性糖尿病の治療にはもちろんインスリン注射が絶対に必要ですが、インスリン非依存性糖尿病では食事療法単独、血糖降下剤、インスリン注射等により症状が改善されるものなどさまざまで、日本では糖尿病の大部分はインスリン非依存性に属します。

症状の違いによる診断
 インスリン依存性糖尿病の診断は、また非依存性糖尿病との鑑別という事にもなります。まず第一に、症状が異ります。インスリン依存性糖尿病では口渇、多飲、多尿、るいそう等の症状がみられますが、インスリン非依存性糖尿病では肥満者が多く、糖尿病性合併症(視力障害、手足のしびれ)心血管障害、人間ドック等で発見されます。後者では遺伝が濃厚で、一般に本人以外にも親威に糖尿病がみられます。

グルカゴン負荷テストによる診断
 インスリン依存性糖尿病ではインスリン分泌力の低下が著明ですから、インスリン分泌力をしらべてこの差を診断に用いています。通常はグルカゴン負荷テストといって空腹時にグルカゴン1mg を静注し、静注前と6分後の血中C-ペプチド(膵よりインスリンと共に分泌される)を測定しますと、インスリン依存性糖尿病では多く空腹時が 0.5ng/mL 以下、グルカゴン静注6分値は1ng/mL 以下となり、インスリン非依存性では空腹時が 0.5ng/mL 以上、6分値が1ng/mL 以上となります。

尿中C-ペプチド量による診断
 C-ペプチドは尿中にも分泌されますので、尿中に分泌されたC-ペプチドの一日量を比較しますと、前者では 20μg/日以下、後者では 30μg/日以上と報告されています。
 インスリン依存性、非依存性の診断は最終的には、今までの経過や検査データ等を含めて綜合的に行われています。
 


普及とともに利用法もさまざま
 家庭における血糖の自己測定は、測定機器が安価で容易に入手出来るようになったことと、健保の適用が認められたため、かなり広く普及して来ています。
 血糖自己測定の効用は、Diabetes News 14号15号にものべましたように、かなり多岐にわたっています。自分で測った血糖値を知ることによって、糖尿病への理解を深める方や、良いコントロールヘの動機づけになった方、自己測定をする日は、食事に充分気をつけるので究極的にはコントロールが目にみえてよくなる方など人によってその利用法も異なっています。

受診回数をへらしたり、シックデイ・ルールの基礎データになる
 自宅から病院が遠いので、月1回受診することができない人は、決められた時間帯に血糖を測り、受診回数をへらすこともできます。
 かぜをひいて高熱が出たり、下痢や腹痛があって食事が食べられないとき、インスリン量をどの程度注射すればよいか、いわゆるシックデイ・ルールに関して主治医に相談するとき、自己測定の血糖値があると注射量を算出するのにとても便利です。低血糖をおそれるあまりたべすぎていた人達は、実際に血糖を測ってみると、それが低血糖でなかったり、逆に低血糖を未然に防ぐことができたり、血糖自己測定の果す役割は、例をあげればきりがありません。

糖尿病妊婦の治療には不可欠
 とくに糖尿病妊婦の治療の目標である血糖正常化に、血糖の自己測定はなくてはならない手段です。妊婦は健常な新生児を生むため、妊娠中正常血糖を保たなければなりませんが、妊娠が進み胎盤が大きくなるにつれて、糖尿病状態は悪化していきます。この時、1日のどの時間帯にどのインスリンをふやして血糖を正常にさせるかの判断の情報を提供するのが血糖の自己測定です。
 1週間に1~2回1日血糖を測定することが大変役立ちます。1日血糖とは、毎食前と毎食後2時間、就寝前の1日7回血糖を測ることです。HbA1、ヒトインスリンとともに血糖自己測定の一般普及は、糖尿病妊婦に最も大きく貢献しているといえるかもしれません。
 
自己測定の習慣だけではコントロールの改善にならない
妊娠中および分娩後1年間の平均 HbA1の比較
(妊娠初期より1週5回以上測定)
 しかし、ここに一つの問題があります。図は妊娠が終って1年経った人達の HbA1を、自己測定統計群と中止群に分けて調査した結果を示します。全例妊娠中9%以下の HbA1を保っていた人々が、非妊婦となって分娩後1年経つと、血糖自己測定を続けている人でも中止群でも、同じように HbA1が悪化する人がいるということです。言い換えれば、自己測定は習慣上行っているが、コントロールを良くすることに役立てない人がいるということです。同じ成績は、小児やヤング糖尿病でもいえます。測定した血糖値を読みこなせる患者教育が、もっと必要かもしれません。

このページの先頭へ