DIABETES NEWS No.189
 
No.189 2024 Summer・Autumn

週1回投与型基礎インスリン "インスリンイコデク"
(Insulin icodec)の
有効性と安全性

東京女子医科大学  内科学講座 /
糖尿病・代謝内科学分野
助教
望月 翔太
東京女子医科大学  内科学講座 /
糖尿病・代謝内科学分野
准教授
三浦 順之助

 1921年にインスリンが発見されて今年で103 年経ちますが、この間に様々なインスリン製剤が開発されてきました。本稿ではこれまでのインスリンで作用時間が最も長い週1回投与の基礎インスリン製剤イコデク(以下イコデク)の有効性と安全性について、イコデクの第 3 相試.験.プログラムである ONWARDS 試験の結果に基づき述べたいと思います。ONWARDS 試験は1 型糖尿病または2 型糖尿病の成人患者 4,000 例以上を対象とした6つのグローバル試験です。


 インスリン投与歴のない2型糖尿病患者492人を対象とした臨床試験(ONWARDS   1)では、イコデク群とインスリングラルギンU100(以下グラルギン )群を 1:1 に無作為に割り付け、52 週のHbA1c値を比較しました。イコデク群は8.50%から6.93%、グラルギン群は8.44%から7.12%に減少し、イコデクの非劣性(p<0.001)および優越性(p=0.02)が確認されました。48 週~52 週の血糖値の目標範囲内(70~180mg/dL)の時間は、イコデク群 71.9 %、グラルギン群 66.9%でありイコデク群で有意に高値でした(p<0.001)。52週のレベル2(臨床的に重要)またはレベル 3(重度)の低血糖の割合はイコデク群で0.30件/人年、グラルギン群で0.16件/人年(推定発生率比 1.64;95%CI 0.98~2.75)であり、両群で同程度と報告されました(N Engl J Med 389: 297-308, 2023)。(以下デグルデク)1日 1回投与+プラセボ週 1回投与群( デグルデク群)に、1:1で無作為に割り付け、26 週後のHbA1c 値を比較しました。イコデク群でベースラインの8.6 % から7.0 % に、デグルデク群では 8.5%から7.2%まで低下し、イコデク群のデグルデク群に対する非劣性が示されました。レベル 2 と 3を合わせた低血糖の発生率は、26週まではイコデク群で有意に高値(0.35件vs.0.12件、p=0.01)でしたが、31 週では有意差は認めませんでした(0.31 件vs.0.15 件同順 、 p=0.11)(JAMA  330:228-237, 2023)。


 最後に1型糖尿病患者を対象とした『ONWARDS 6』では、日本を含む 12カ国 99施設の 582人がイコデク群(n=290)とデグルデク群(n=292)に無作為に割り付けられました。26 週後のHbA1cのベースラインからの 推定平均変化率はそれぞれ-0.47%、-0.51%で、イコデ クのデグルデクに対する非劣性が確認されました。しかし、レベル2または 3の低血糖の発生率はイコデク群で有意に高値でした(イコデク群:19.9%、デグルデク群:10.4%、p<0.0001 )( Lancet 402:1636-1647,2023)。


 以上の結果から、イコデクの血糖改善効果は1型・2型糖尿病患者ともに従来の基礎インスリンと比較し非劣性もしくは優越性を示しました。一方で1型糖尿病患者への投与では低血糖が増加する可能性も確認されました。近年高齢化が進み、糖尿病をもつ高齢者のインスリン注射手技の取得、打ち忘れや打ち間違い、低血糖への対応などが問題となっています。イコデクの登場により、介護の現場では週 1 回の訪問看護の際に看護師に注射してもらう、または家族も週 1 回であれば注射できるというケースもあり、インスリン療法の選択の幅がひろがってきました。ただし、シックデイで食事摂取量が減った場合の低血糖対策は必要です。イコデクの使用にあたっては、患者背景含めリスクとベネフィットを十分検討したうえで使用することが大切です。


 

心血管病発症予防を考慮した
GLP-1受容体作動薬
の使い方:
SGLT2阻害薬との比較

東京女子医科大学  内科学講座 /
糖尿病・代謝内科学分野
助教
山本 唯
東京女子医科大学  内科学講座 /
糖尿病・代謝内科学分野
講師
花井 豪

 現在本邦では、Gastric Inhibitory Polypeptide (GIP)/ Glucagon Like Peptide-1 (GLP-1) 受容体作動薬であるチルゼパチドを含む注射薬 7剤、経口薬1剤、計8種類のGLP-1受容体作動薬 (GLP-1RA)が使用可能となっています。LEADER trialをはじめとした、これまでの大規模ランダム化比較試験 (RCT) において、GLP-1RAの心血管病発症抑制効果が明らかにされています (Diabetes Care 2024 ; 47 (Suppl.1):S179-S218)。これを踏まえ、日本糖尿病学会からのコンセンサスステートメント「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム」では、心血管疾患を合併した2型糖尿病患者において、sodium glucose co-transporter 2 阻害薬 ( SGLT2i ) に次いで、GLP-1RAが推奨されています ( 糖尿病 2022 ; 65:419-34)。本稿では、最近BMJ誌に掲載された RCTのシステマティックレビューおよびメタ解析 (BMJ 2023;382:e074068) を中心に、GLP-1RAの心血管病発症抑制効果について、さらにはSGLT2iとの比較について考えてみたいと思います。


◆ GLP-1RAはすべての心血管病発症を抑制?

 上述のBMJ 論文は、GLP-1RA 、SGLT2i 、その他の糖尿病治療薬、非ステロイド型ミネ ラルコルチコイド受容体拮抗薬の効果を検証し、24週以上の追跡期間を有する816のRCT 、計471,038 名の2 型糖尿病患者を対象としています。なお、この論文では、network  meta- analysis という手法が用いられ、直接的な薬剤間比較に加え、間接的な薬剤間比較を可能にしています。また、チルゼパチドは、その他のGLP-1RAと分けて解析が行われています。

 このメタ解析において、GLP-1RAは、標準治療 (対照群) に比し、大規模RCTの主要評価項目3-point MACEの3つの構成因子である、心血管死、非致死性心筋梗塞、 非致死性脳卒中の発症をいずれも10~15% 程度有意に抑制していました。さらに、心不全による入院、末期腎不全の発症も同程度抑制していました (B M J 2023;382:e074068)。他のメタ解析でも、概ね同様の結果が報告されています  ( Lancet   Diabetes Endocrinol  2021;9:653-62、 J  Clin  Endocrinol Metab 2023;108:1806-12)。


◆ SGLT2iの心血管病発症抑制効果

 では、SGLT2i についてはどうでしょうか。 SGLT2i もGLP-1RAと同様、心血管死、非致死性心筋梗塞の発症リスクを 10~15 % 程度有意に低下させていました。心不全による入院および末期腎不全発症に関しては、30~35 % そのリスクを軽減していました。一方、非致死性脳卒中の発症については、オッズ比 0.99 ( 95 % 信頼区間 0.88-1.11) と、脳卒中発症抑制効果は認めませんでした (BMJ 2023;382:e074068)。脳卒中に関しては、別のメタ解析でも同様の結果が報告されており(J Clin Endocrinol Metab 2023;108:2134-40 Cardiovasc  Diabetol  2023;22:57 ) 、現状では、「 SGLT2iに脳卒中発症抑制効果はない」と言わざるを得ません。


◆ おわりに

 GLP-1RAの脳卒中発症抑制効果は、SGLT2i にない特徴であり、脳卒中治療ガイドライン 2021〔改訂2023〕(編集:日本脳卒中学会脳卒中ガイドライン委員会)でもその旨が記載されています。一方、SGLT2iは、その強い心・腎不全発症抑制効果から、少なくとも心疾患や腎症を有する糖尿病患者さんでは、GLP-1RAより先んじて使用されるべきかもしれません。

 我々糖尿病医は、心血管病発症予防効果と一括りにするのではなく、個々の患者さんの病態にあわせたadditional  benefit を考慮し、GLP-1RA 、 SGLT2iを選択していく必要があると思われます。


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