DIABETES NEWS No.15
    No.15
     1988 
     AUTUMN 
 

PHD 教育システムの効果
 アメリカにおける糖尿病教育の一つの特徴は、アメリカ政府が腰をあげて実行に乗り出していることであると思います。すでに政府のそのようなシステムの一つが、アメリカの20の州で動き出しています。このシステムは Public Health Division (PHD) の教育システムといわれます。
 先日、アメリカの糖尿病学者 Dr.Sims とその奥さん(自分自身が糖尿病であり、同時に National Standard for Diabetes Patient Education Program という国をあげてのもう一つの新しい糖尿病患者教育システムの生みの親の一人)とお話しした時、前述の PHD のシステムをうまく運営しているマイアミ州では、糖尿病患者の入院回数も入院日数も従来より明らかに減少し、医療費も明らかに減ったとのことでした。教育にかかる費用は、本当の医療費よりも、はるかに少ないといえます。

さらに進んだ教育プログラム
 もっと大切なことは、何も知らなくて重大な合併症の起こった場合と、教育の徹底によって合併症を防いだ場合とでは、患者さんの quality of life が全く異なることです。
 前述の Mrs.Sims たちは、さらに政府に働きかけて、PHD のシステムをより進めた形の National Standards for Diabetes Patient Education Program を作りあげました。これを全アメリカに浸透させ、アメリカにおける糖尿病の患者教育を、もっと進めて糖尿病による障害を防ぐことに役立てたいと言っていました。

遅れている日本政府の対応
 ひるがえって日本の状態をみますと、わが国の政府は、まだこれに類する患者教育システムを作ることに向けて、スタートしていません。
 日本でも、早く全国的な規模で、すなわち小学生も含む国民全体のレベルで、糖尿病に関する知識の普及をはかれば、どれほど糖尿病患者さんの予後を良くするか、はかり知れないものがあります。
 


腎症初期の食事療法
 臨床的に糖尿病性腎症の診断がつけられる以前の、尿中微量アルブミン排泄増加期は、腎症への進展を予知出来る大切な時期です。そのため、この時期における治療に最近とくに関心が持たれるようになりました。しかし、この時期から腎症出現まではかなり長期にわたるのですから、患者さん各々の状態を充分に把握して治療を行うことが必要です。
 血糖コントロール、肥満の程度なども充分に考慮して総カロリーは決めます。蛋白摂取量は 0.8~1.2g/kg とし、総カロリーの約20%までとします。蛋白質は生物価の高いもの、例えば鶏卵、さんま、いわしなどを選びます。炭水化物は 50~60%とし、なるべく glycemic index が低く、食物線維含有量の多いものを選ぶようにします。脂質は 30%以下で特に飽和脂肪酸をふくむ食品は 10%以下にします。高血圧症は無くても食塩摂取も減らしはじめる方がよいといわれています。
 持続的蛋白尿出現により臨床的に腎症が明らかになっても、まだクレアチニンクリアランス 50mL/min 以上の場合もほぼ同様の食事でよいと考えられますが、蛋白量は 0.8g/kg 以下には制限した方がよいようです。

腎機能低下期の食事療法
 血清クレアチニン値が上昇し始めたら、蛋白質は更に制限する必要があります。そのためには総カロリーは35~40kcal/kg に増加し、蛋白質は 0.6g/kg 以下に減らします。生物価の高い蛋白を選ぶことはもちろんですが、一般的には 0.6g/kg 以下の蛋白制限時には必須アミノ酸製剤の補給が必要とされています。また、尿中への排泄蛋白量はそれを補給するとされています。更に腎不全が高度になると 0.4g/kg といった制限を加えることもありますが、糖尿病性腎症の末期には自律神経障害による gastroenteropathy も加わって食欲不振が増強することもあります。この様な時には早目に透析を導入すべきとされています。

糖尿病患者と腎食
 腎食は、長年カロリー制限、甘物を避ける食習慣を守っていた糖尿病患者さんには、受入れにかなり抵抗があることを医師は考慮する必要があります。急激な食事療法の変更に医療不信に陥ったり、血糖悪化を恐れて実際には充分なカロリー摂取を行わず異化亢進状態が更に進んでいる場合もあります。患者さんが理解出来るよう何度も説明すると同時に、全身状態、生化学データ、窒素バランスなどを見ながら、徐々に目標の食事に近づける方がよいでしょう。
 


自己血糖測定のメリット
 家庭における自己血糖測定によって、糖尿病は通常の生活の中で高血糖を抑え、低血糖を防止するという血糖コントロールが容易に行えるようになりました。自己血糖測定は血糖正常化のためのよき手段といえます。治療する側にとっても、治療される側にとっても自己血糖測定には、次のようなメリットがあります。
 (1) 血糖正常化に対する動機づけとなる。
(2) 食事療法が適切かどうか確認できる。
(3) インスリン療法を的確に行える。
(4) 高血糖や低血糖により早く対処できる。
(5) 尿糖検査の成績の評価が正しくできる。
すでに 683名を指導
 私達外来看護婦は、毎日外来で自己血糖測定を患者さんに教える役割をもっています。昭和58年5月から、63年6月現在まで、私達はすでに 683名の患者さんに自己血糖測定の指導を行ってきました。それらの患者さんの多くはインスリン療法を行っていますが、中には経口糖尿病薬を内服している方も含まれています。

妊婦や小児糖尿病者の指導では
 特に妊娠中や小児糖尿病の患者さんは、ほとんど自己血糖測定をしています。患者さんからは食後の血糖を測定することで食事に対する自己規制ができ、又自覚症状でしかわからなかった低血糖がわかるようになったといった意見が寄せられています。指導後、患者さんの手技が適切かどうかの確認が必要であり、時に、HbA1値や来院時の血糖値と自己血糖測定値が大きく異なっている場合もみられ、主治医から再指導の依頼があることもあります。
 しかし妊婦の方は正常血糖を保つことを強く教えられていますので、自己測定の値も大変信頼できるものです。正しい自己血糖測定を実施し、血糖の正常化に努めることは、患者さんの合併症を予防していく上でも重要なことといえるでしょう。

方法と測定器の紹介
 自己血糖測定の方法は以下の通りです。
 (1) 必要物品の準備(専用の試験紙、消毒綿、拭きとりに使うもの、穿刺用具)
(2) 清潔にした手指をよくマッサージする。
(3) アルコール綿で消毒後、指の外側を穿刺針でさし、血液をだす。
(4) 専用の試験紙に血液をのせ、器械の設定時間に従い操作する。
 なお、血糖測定には、測定器(下表)を使用する方法と、血糖を色調で表わす目視法を利用する方法があります。
種々な自己血糖測定器
器 械 名レフロラックスIIグルコスターグルコスキャンシステム3000トーエコーII
試 験 紙BMテスト20-800Rグルコスティックスセラペーパーダイアトロール
時間 (秒)120秒50秒60秒120秒
拭き取り脱脂綿ティッシュペーパー専用濾紙脱脂綿
穿刺用具オートクリックスユニレッターIIペンレット
校  正バーコードスイッチテストテープ(試薬)スイッチ


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