DIABETES NEWS No.112
  
 No.112 2009 September/October 

 メトホルミンは、スルホニル尿素薬(SU薬)と並んで古くから用いられている経口糖尿病薬で、幅広い「膵外作用」をもつことが特徴です。
メトホルミンの効能・効果と用法・用量の変更
 メトホルミンの効能・効果は、長い間「インスリン非依存型糖尿病(ただし、SU剤が効果不十分な場合あるいは副作用等により使用不適当な場合に限る。)」とされ、用法・用量にも「本剤は SU剤が効果不十分な場合あるいは副作用等により使用不適当な場合にのみ使用すること」と明記されていました。しかし、実際にはメトホルミンを第一選択薬として単独で用いることも行われていました。このたび、効能・効果が「2型糖尿病。ただし、下記のいずれかの治療で十分な効果が得られない場合に限る。(1) 食事療法・運動療法のみ、(2) 食事療法・運動療法に加えてスルホニルウレア剤を使用」に改訂されました。さらに、用法・用量においても上述の「本剤は SU剤が...」との一文が削除されました。これらの改訂によって、2型糖尿病患者の治療において、メトホルミンが第一選択薬として使用ができるようになりました。
 欧米では、メトホルミンが2型糖尿病患者の第一選択薬として確固たる地位を得ています。日本でのメトホルミンの効能・効果と用法・用量の今回の変更は、長い間指摘されていた問題を実態に則した形で解決したものといえます。

メトホルミンとヨード造影剤併用に関する使用上の注意再改訂について
 本年5月、上記の改訂と同時に「使用上の注意」についても重要な改訂が行われました。その中で、メトホルミンの禁忌に「ヨード造影剤を用いて検査を行う患者」の一項が加えられました。しかし、この改訂はヨード造影剤を用いる画像診断・検査の臨床現場に大きな混乱をもたらすことが危惧されたため、7月にはメトホルミンの禁忌の一項から「ヨード造影剤を用いて検査を行う患者」が削除され、「併用注意」の一項に移されることとなりました。そして「併用により乳酸アシドーシスを起こすことがある。ヨード造影剤を用いて検査を行う場合には、本剤の投与を一時的に中止すること」と明記されています。
 また、日本におけるメトホルミンの用量についても、近い将来、現行より高用量の使用が認可されることになると思います。この機会に、あらためてメトホルミンの効果とともに使用上の注意や禁忌についても理解することが大切です。
 


 2009年のアメリカ糖尿病学会は、2005年8月末に大型ハリケーン・カトリーナによって多くの死者と行方不明者を出し壊滅の危機に瀕した町、ニューオーリンズで開催されました。
 空港から市内に入る道中には人気のない住宅や、保険に入るための高床改造工事もなされたが買い手がつかない住宅が林立し、うらぶれた物悲しい印象を受けました。また、新型インフルエンザ流行の脅威も覚めやらない時期でもあり、自然の脅威を改めて痛感した数日でした。

今回のトピックス
 RECORD(Rosiglitazone Evaluated for Cardiovascular Outcome and Regulation of Glycemia in Diabetes)研究の最終報告、ADA が HbA1C値を取り入れた新診断基準を発表したこと、ACCORD(Action to Control Cardiovascular Risk in Diabetes)研究において HbA1C値よりも重篤な低血糖が死亡率増加と関連していたという追加報告、VADT(Veterans Affairs Diabetes Trial)研究における強化療法の良し悪しは罹病期間が重要な判断材料であるというサブ解析報告、そして安定した虚血性心疾患をもつ2型糖尿病患者における迅速な Angioplasty 治療がインスリンを含む薬物治療と同等な予後であったという BARI-2D 研究の報告が大きなものでした。
 大手2社の吸入インスリン治験が中止になった後、唯一開発されていた吸入インスリンはマンカインド社の AFRESA です。この春に米国食品医薬品局(FDA)の承認を得ていますが、吸入デバイスが手のひらに入る大きさ、肺機能に影響しないこと、血中濃度の立ち上がりはこれまでの2社よりも速いと報告されました。
 CGMS(本誌109号参照)は血糖近似値を持続的に測定できるというキャッチフレーズで広まっていますが、CGMS を装着するないし装着させられることの患者さんサイドの心理面を考慮すべきであるとの講演がいち早くなされたことも注目すべきことでした。

RECORD研究の最終報告
 チアゾリジン薬による血糖降下作用と大血管症の発症抑制への期待から、2001年に RECORD研究(Rosiglitazone、Avandia®)と PROactive研究(Pioglitazone, Actos®)という大規模研究が開始されました。
 PROactive研究の結果は 2005年に心血管障害を抑制すると報告された(Lancet 366:1279, 2005)のですが、2007年の RECORD 研究中間報告の発表(New Eng J Med 357:28, 2007)3週前に、多くの同薬剤を用いた臨床研究のメタ解析(New Eng J Med 356:2457, 2007)が発表されました。それは心血管障害とそれによる死亡を増加させるという予想外の結果であり、その後は支持、不支持の論文が次々と発表されました(本誌101 号参照)。
 RECORD研究の最終報告が待たれていたところ、今回ようやく本学会の初日に発表され、発表終了と同時に Lancet のオンライン上で世界に向けても発信されました。平均5.5年追跡した結果、Rosiglitazone群は、対照(メトホルミン/SU薬)群に比べ血糖コントロールは有意に良好、LDL は有意に低下、HDL は有意に上昇、体重は有意に増加、心不全リスクと特に女性の骨折リスクが増加という欠点はありましたが、心血管障害リスクは対照群と同等で心血管リスクを上昇させない、かつ網膜症やフットイベントリスクも同等であると発表されました。

 新薬は新しい薬効を携えて登場するのですが、論文を十分に読み込んで慎重に薬を評価する態度がこれまで以上に求められる時代になりました。

 


 サプリメントは癌患者さんの約40%が服用しているといわれ、その市場はいまや拡大一方で、数兆円に及ぶともいわれています。癌でなくとも、2006年の岡山腎不全食研究会からの報告によると、血液透析中の方の 16.2%がサプリメントを服用しており、その 62.6%は医療スタッフに相談しておらず、また、17.9%の方は「効果がない」と感じているにもかかわらず服用を続けていました。これは、一般には、サプリメントが「副作用の少ない医薬品」のように思われているからかもしれません。

サプリメントは日本では「食品」
 正確には、サプリメントとは、日本では「人が習慣的に食品として摂取しているもの、もしくはその成分」となります。最近はコエンザイムQ10等の例外もありますが、基本的にはサプリメントは医薬品として管理されていません。
 ですから、医薬品の混入や、「糖尿病を治す」、「絶対痩せる」等効能・効果をうたっている記載は、どちらも薬事法違反に当たります。実際過去に、甲状腺末、利尿薬、下剤、食欲抑制薬、血糖降下薬等医薬品を違法に混入させたサプリメントを服用し、死亡した症例の報告もありました。中国のいわゆる「痩せるお茶」にもこうした医薬品混入の報告が数種有り、お茶と書いてあっても注意が必要です。またアメリカでは、日本と違い、漢方薬成分をハーブサプリメントとして扱っているので、注意が必要です。

サプリメントの品質・効果の保証は?
 逆にサプリメントに記載成分が全く含まれていないと摘発された事例もあります。
 サプリメントには (財) 日本健康・栄養食品協会や日本健康食品規格協会の JHFA や GMP という規格基準マーク等が表示されていますが、これらは品質の保証であり、効果の保証ではありません。

合法サプリメントにも副作用が!
 合法的なものでも副作用報告があります。本来、食品中には微量にしか含まれていないものがサプリメントの中に食べものとしてはあり得ないほど大量に含まれていることがあるからです。肝障害・腎障害、皮膚障害をおこしたという報告があります。また用量・用法を守らずに多く服用すると、過剰摂取による毒性が出ることもあります。こういった点では、サプリメントを医療従事者へ薬品情報が回ってこない「医薬品」と考えることもできます。
 医薬品との飲み合わせによって、薬の効果を減弱させたり増強させてしまう場合もあります。医薬品と同じ成分のサプリメントもありますが、成分濃度が違うので、医薬品の代わりにはなりません。また、カリウムなど食事制限を指示されている物質を逆に高濃度に含んでいるサプリメントもあり、こうした注意も必要となります。

上手に補充する
 サプリメントを摂取することで何となく調子が良くなることは私も経験があります。「調子が良くなるはず」と思っただけでも気持ちよいものです。
 サプリメントは食事で摂れていない部分を補充するものと考えて、服用にあたっては、効能・含有物の量の記載を持参し、主治医への相談が必要です。情報がなくても、使用後の副作用兆候など早めに気付いてもらうためです。
 一回の大量購入は、期限切れ服用や、効果がないのに飲み続ける一因になるので、特に注意を。
 中立の立場の情報・内容をよく吟味してください。独立行政法人国立健康・栄養研究所や、四国がんセンターのホームページ等があります。
 

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