DIABETES NEWS No.11
    No.11
     1987 
     AUTUMN 
 

 医療の進歩にしたがって、病気の内容や治療体制が変化しているにもかかわらず、私たちの考え方はなかなか改まりません。かつては、急な発熱や腹痛が、患者さんの受診の主なきっかけでした。そこで、医院や病院はいつでも駆け込めるところでなければなりませんでした。
 ところが、文明の進歩とともに病気の内容は変化しました。もちろん、今でも急性疾患はあります。しかしたとえば、数日以内に必ず死亡した糖尿病性昏睡は、2~3日の治療で 100%治癒するようになりました。一方、インスリン依存型糖尿病の患者さんでも、医師の協力のもとにインスリン自己注射を中心とする治療を続ければ、非糖尿病者と同様の生活と寿命を持つことのできる時代に入りました。
 この糖尿病治療は、患者さんの日常生活そのものであり、数十年あるいは、それ以上に及ぶものです。ところが、わずかに6年前には、自己注射は公認されておらず、したがって法律を守れば、医院の近くに住むか、一生入院を続けなければなりませんでした。
 今日、このような慢性疾患が増加し、急を要しないが、医師と接触の必要のある患者数が増加しましたので、この接触方法が問題です。
 私が昭和35年に渡米した時、欧米では、友人でも必ず予め電話か手紙で日時を約束してから訪問するのが常識だと教えられました。この習慣は私たちの日本の生活にもかなり定着し、予約なしに訪れて用が足りるのは、デパートぐらいになりました。
 現在、患者さんの大きな苦痛は、"数時間待って3分診療"であると聞きます。病気、しかも寸秒を急ぐことのない疾患の場合、友人を訪問する時のように、予め医師と接触できる時間を決めておくことが、最良の方法と思われます。
 慢性疾患を有する患者さんの場合、初めて、または、定期的な受診でも、医師と日時をとり決める方が近代的であり、よりよい診療が受けられることは言うまでもありません。日本の診療体系では、予約をとって、主治医からの病状報告があれば、病院の専門医にも知己のように会うことができます。めったに専門医に診てもらえないという苦情は、予約なしの"デパート方式"で病院を受診するためです。
 たった一つのデメリットは、突然病状が悪化した際です。しかし、これには各病院は救急体制をとっており、外来当番の医師は、予約のないことを理由に生死の苦しみを放置することはありません。また、事務担当者が緊急事態に対して予約の有無だけを主張しないように注意しておくことでデメリットは解消されるのです。
 


CAPD を助ける小さな箱
 先年、サンフランシスコの小さい病院を訪れた際に、糖尿病性腎症で透析を必要とする患者の半数近くが、働きながら自分で透析のできる CAPD法を取り入れていました。そこでは、1日4回液を替える時に問題になる手技は、紫外線発生装置を内蔵した小さな箱の中で、交換パックを自動的に交換でき、またこの箱が持ち運びに全く問題とならないほど小さいことから、人生が一変して明るくなったなど、それぞれの患者自身の喜びを聞くことができました。
 それから1年になろうとしていますが、日本では一向にこの箱を入手できそうにありません。メーカー等もその努力はしていません。日本は島国であるので、このような便利な箱を持っている人が、隣に住んでいるわけでもないので、患者さんは知らないのです。

ヨーロッパ諸国の腎症治療の実態
 イギリスの糖尿病性腎症の治療の大半も、CAPD に代表される腹膜透析であり、残りの多くが腎移植であり、現在日本では90%以上を占めている血液透析は、ごくわずかであると聞いています。血液透析は、週に3回の病院通院を必要とするので、その間をぬっての仕事は大変です。
 最近、ヨーロッパの動きの中で注目を惹くのは、膵腎同時移植の成果が良くなったことです。ストックホルムの1984年以降の同時移植の膵生着率66%、ミュンヘンの成績では患者の生存率84%にのぼっています。膵の生着列では従未のインスリン注射から全く開放され、食事も全く自由に、HbA1も全く正常になったといいます。
 フランスの Dubernard によれば、生着膵の機能は4年以上たっても正常であり、膵移植は、いまやインスリン依存型糖尿病にとって比較的安全な治療法となったといっています。膵移植は腎移植に比べ、はるかに困難といわれていたものです。腎の生着については、もはや触れるまでもありません。

今、私たちにできることは
 日本は島国であり、医学の歴史は浅いのです。インスリン自己注射を国が公認したのは、欧米に60年ほど遅れています。恐らく膵腎移植も、今後何十年か遅れることはやむをえないでしょう。それにしても、患者さんにとって、治療法が血液透析だけとは酷い話です。日本糖尿病協会が本年4月に法人化したことを機会に、日本国民の眼を、もっと医療の国際的なレベルに向けさせる努力が必要でしょう。
 ただ、唯一の救いは、患者と医療スタッフとの一体となったチームワーク医療は、世界の一流に近いし、お互いの努力だけでいくらでも向上することができる医療の体制にあります。専門医のコンサルテーションが、日本ほど頻回に可能な国は数少ない、というのが欧米学者の驚きなのです。
 糖尿病性腎症も早期発見と、適切な指導で、その臨床的な進行と増悪を遅らせることが明らかになってきています。新しい糖尿病センター開設とともに、この治療チームによる努力が、透析時期を遅らせることに役立つことを心から願っています。
 


 糖尿病による運動療法の効果は広く知られていますが、その実行はなかなか困難なようです。当センターでは、主に入院患者を対象に、専門のトレーナーによる運動療法を指導しています。その参加者に対するアンケート調査で、98%の人が運動は必要と考えているのに対し、実際に行っていたのは42%でした。実行できない理由として、運動は一人でやるものではないと考えていたり、また、どうしたらよいかわからないということをあげていました。運動に対する関心は高まっているのに、実行するまでに至っていないという現状です。

運動療法の効果と適応
 運動は、次のような効果が期待されています。
 (1) 血糖降下作用(インスリン感受性の増加、末梢での糖利用の促進)
(2) 脂質代謝の改善
(3) 心肺機能の増強による血液循環の改善
(4) 筋力の増強
(5) 肥満・動脈硬化の予防と改善
 しかし、運動療法は諸刃の剣といわれるように、無計画な運動は危険を伴います。糖尿病性自律神経障害の強い例では突然死も考慮しなければなりませんし、増殖性網膜症では眼底出血の増悪、糖尿病性腎症のある患者では急速な腎障害の進行をみることもあるからです。高血圧を合併していれば、運動が昇圧の要因ともなりかねませんし、虚血性心疾患の危険を高めることも考えられます。血糖値が300~400mg/dL 以上ありますとケトーシスが増強され、糖尿病性昏睡の危険が心配されます。

適切な運動とは
 糖尿病患者は、運動療法を始める前に合併症を含めた全身的なチェックが必要です。
 上記のような合併症のない人には、1人でも、どこででもできるという点から、前後にストレッチや体操を組み合わせた歩行運動が勧められます。運動の強度はしゃべりながらでも続けられる程度がよく、その目安として脈拍を測定するのが便利です。体力最大限の運動強度を 100%とすると、体力のある人はその60%前後、体力のない人はその40%前後が適当とされていますので、体力のある人では運動中1分間の脈拍が、40歳代で130、60歳で120前後となるような強さの運動が適当といえます。体力のない人では、40歳代では脈拍 105、60歳代では 100が目安になります。運動の継続時間は20~40分が適当で、1日に2回は行いたいところです。運動の時間帯は食後の血糖上昇を抑える意味から食後1時間前後が効果的です。血糖降下剤やインスリン使用者は低血糖予防のために食前の運動は避ける必要があります。毎日続けられるよう、運動を日常生活の一部とすることが大切です。
 合併症のある方は、筋肉の保持及び血行の促進に役立てるため、軽い散歩や臥位でも可能な足趾、足首の屈伸運動が勧められます。特にバーガー体操(DIABETES NEWS No.4参照)は壊疽の予防に有効です。

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