DIABETES NEWS No.4
    No.
     1985 
     WINTER 
 

 新聞でもご存知の通り、いよいよヒト・インスリンが、来年には発売されることになりました。
 ここで、注意しなければならない幾つかのことがらがありますので、箇条書きにしてあげてみます。
(1)今度、発売されるインスリンには、ブタ・インスリンから作ったヒト・インスリンと、大腸菌を利用して作ったヒト・インスリンとの2種類がありますが、両者の差は全くありません。
(2)ヒト・インスリンが使えると、血管や神経の合併症が良くなってしまう、血糖の動揺がなくなり安定する、なかには糖尿病が治ってしまうという過大な期待を持っている患者さんがいますが、従来のブタ・インスリンと、それほどの変化はありません。全く別の原因で蕁麻疹が出たのに、ヒトのインスリンを使っていなかったからと考えた患者さんがいました。過大な希望を持つことは大変危険です。
(3)私どもは、すでに何年間もヒト・インスリン製剤を使って来て、充分な経験がありますが、注意しておきたいこととして、同じ名前のインスリンでも、ヒト・インスリンの方が作用時間が短くなるということがあります。ウルトラレンテでもレンテなみの作用時間であったり、従来1日1回のインスリン注射をヒト・インスリンでは2回の方が良いこともおこります。
(4)なお、今度、ヒト・インスリンの発売に当って、従来のU40(1mL40単位)のほか、U100(1mL100単位)の製剤が出る可能性があります。日本以外の国では、U100 が普通です。国際化にむけて必要なことですが、日本ではインスリンといえば U40 であると思いこんでいる患者さんが少なくありません。同じ1mLで2倍半の力を持つ U100 には、充分に気をつける必要があります。
 


糖尿病者の動脈硬化の特徴
 欧米では、動脈硬化、特に心筋梗塞による死亡が死因の約50%を占め、糖尿病があると、更に心筋梗塞の危険率が高いことが古くから知られています。日本では、現在でも心筋梗塞による死亡は、欧米ほどではありませんが、食生活の欧米化に伴って増加しています。
 糖尿病患者に特有な動脈硬化、心筋障害、脳血管障害があるわけではありません。しかし、糖尿病患者では、若い40歳未満でも心筋梗塞で死亡する例があり、胸痛などがなくても、知らないうちに心筋梗塞を起こしていることがあります。脳血管障害については、非糖尿病者に比べて、脳出血より脳軟化、それも多発性脳軟化が多く、麻痺の恢復が悪くて、痴呆状態になる例が多いことが知られています。

血糖値以外の動脈硬化を促進する要因
  動脈硬化についての、この様な糖尿病患者の特徴は、血糖の高いこととともに、脂質代謝異常、高血圧、肥満などとも関係があるようです。したがって、糖尿病思者の治療は、食事療法、運動療法をよく指導し、さらに血糖や血清脂質、体重、血圧を管理することが重要です。

糖尿病による血管障害を防ぐためには
 ある程度(早朝空腹時血糖値 140~150mg/dL 程度に)血糖値が下っていれば、糖尿病症状はなくなり、糖尿病昏睡の危険はありません。しかし糖尿病をよくコントロールして血管障害を防ぐには、より血糖を正常化したいのです。インスリンや内服剤だけで無理に血糖を下げようとすれば、低血糖になりやすく、体重は増加しやすく、心筋梗塞や脳軟化の危険を増加させていると思われます。
 私どもの外来には、食事その他の日常生活がよく管理されていて、インスリン注射をつづけながら、80歳過ぎてもなお元気な患者が、数多く通院しています。
 


"足をみる"の原則
 糖尿病の診察にあたっては、内科医でも検眼鏡を片手に"必ず眼底検査を行え"というのが一つの原則でありますが、もう一つの原則に"必ず靴下を脱がせて足をみる"というのがあります。痛みの感覚を失った糖尿病性神経症の人が足の壊疽に気づかず二次感染をおこして重篤な状態になっていることがあるからです。
 昔の教科書には、日本人には糖尿病性壊疽が少ないと書かれていましたが、最近大変増加しています。その理由として食生活の西欧化、各種ストレス、平均寿命の延長に伴う動脈硬化の増加などがあげられます。

糖尿病性壊疽の発生機序
 (1) 1分間

 (2) 3分間

 (3) 6分間

この体操は10分間を1回としてつづけて3回行います。
 糖尿病性壊疽の発生機序は、大別して (1) 神経障害、(2) 血行障害、(3) 前2者の混合型に分けられます。欧米では (2) によるものが圧倒的に多く、わが国では (3) の混合型が多いとされています。神経障害性は、知覚神経障害とともに血管運動神経が障害されておこるわけですが、足背動脈に脈が触れるのが特徴です。血行障害によるものは動脈硬化の強い症例に多く、下肢動脈の拍動が触れず、間歇性破行を示す事や、突然下肢の痛みが出現することを特徴とします。
 わが国で冬季に糖尿病壊疽の多い理由は、こたつにあたる習慣があり、知覚鈍麻のためにしばしば裂傷をおこす機会が多いことや、湯タンポによる火傷が以外に多いからであります。やけど以外の糖尿病性壊疽は、主として体の重みのかかっている足底部や、趾間に好発します。深爪、水虫、新しい靴による靴ずれ、きつい草履の鼻緒ずれ、足趾の外傷、バラの棘や針などの棘傷、きゅうくつな足袋、鶏眼、たこなども壊疽を作るきっかけになっています。

予防と日常生活の注意
 糖尿病性壊疽の予防は、糖尿病のコントロールをよくして神経障害が出ないようにしておくことが先決ですが、下肢を清潔に保って足の手入れを行うことも大切です。とくに、農作業や水産業に従事する人達には、足の清潔や循環をよくする指導を行うことが予防に連がります。また、真夏に暑い砂浜を素足で歩かない、禁煙を守るなども壊疽の予防に大切な心掛けです。

初期治療が予後を大きく左右する
 壊疽ができた場合は、初期治療が大きく予後に影響するといわれています。血糖のコントロールはいうまでもなく、局所の安静、抗生物質による感染症治療、血行促進剤の使用等で多くは治癒します。これに加えて、図に示すようなバーガー体操は、壊疽の補助療法として大変有効で、早期に適切な治療を行えば、壊疽で下肢を切断しなければならない例はめったにないものです。

このページの先頭へ