DIABETES NEWS No.99
 
No.99 2007 July/August

改訂された「糖尿病診療ガイドライン」
 日本糖尿病学会編「科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン」はこの間の新しいエビデンスを多く盛り込み、3年振りに改訂され、このたび南江堂から出版されました。
「糖尿病診療ガイドライン」は、糖尿病の診療における EBM (evidence-based medicine) に基づいた良質な医療を実践する上で役立つように編集されています。「診療ガイドラインの策定作業の方法論」からはじまり、「糖尿病診断の指針」、「糖尿病治療の目標と指針」、「食事療法」など21項目にわたるサブテーマに分けられ、それぞれのテーマごとに、まず簡潔なステートメントが述べられ、次にステートメントについての解説文が多くの文献リストとともにまとめられています。エビデンスとして採用された論文を要約したアブストラクトテーブルも大変役立ちます。

新しく加わったサブテーマ
 改訂にあたって、日本糖尿病学会の診療ガイドライン委員会のメンバーと執筆協力者に加えて多くの査読委員による検討会が開かれました。改訂版では新しいサブテーマとして、「糖尿病における急性代謝失調」と「糖尿病と膵移植」の2項目が追加され、さらに、注目されている「メタボリックシンドローム」が付録としてとりあげられました。

「糖尿病治療ガイド」英語版の刊行
「糖尿病治療ガイド」は、実地医家の方々やコメディカルスタッフの方々が、診療の合間に手軽に読めるガイドブックとして、1999 年に初めて出版され、これまで4回の改訂が重ねられてきました。日本糖尿病学会では、日本における糖尿病診療のスタンダードを、広く海外の人々に知っていただくために「糖尿病治療ガイド2006-2007」の英語版を出版することを決め、翻訳作業を進めてきましたが、このほど「Treatment Guide for Diabetes 2007」として文光堂から出版されました。
 本年11月には、日本糖尿病学会設立50周年を記念して海外からも多くの医師・研究者をお招きして記念式典と国際シンポジウムが開催されます。また、近く日韓糖尿病シンポジウムや IDF の西太平洋地域の会議などが開かれますので、そうした折りにも本書を宣伝して、英語版「食品交換表」に続く学会発行の英文出版物として、広くお読みいただければと願っています。
 


困難な減量に対して
 メタボリックシンドロームは、過食や運動不足による肥満、特に腹部肥満から、アディポサイトカイン分泌異常やインスリン抵抗性を生じ、耐糖能異常、脂質代謝異常、高血圧症などの動脈硬化の危険因子を重複しやすく、心血管疾患の発症頻度を高くします。そのため、メタボリックシンドロームの予防は生活習慣を改善して肥満をなくすことが基本です。
 しかし、中年以降になって今までの習慣を変え、やせることが非常に難しいことは多くの人が経験していると思われます。反対に少しでも体重が減ると、血糖や血圧が改善するのも経験していることでしょう。分かっているけれどもなかなかできないのが体重減量です。
 これまでも抗肥満薬は存在していましたが、なかなか奏効していませんでした。新しい抗肥満薬として選択的カンナビノイド (CB) 1 受容体拮抗薬が注目されていますので、ご紹介します。

カンナビノイド(CB)とその受容体:CB1 と CB2
 そもそも CB は大麻の主成分です。大麻の有名な症状は幻覚や多幸感ですが、実は食欲誘導や制吐作用も認められます。
 我々の体の中には CB に対して2種類の受容体 (CB1、CB2) があります。食欲調節に関与するのは CB1 受容体であり、脳、脂肪組織、消化管、肝臓、骨格筋など中枢や末梢組織に広く分布しています。食欲が増進すると、CB1 受容体を活性化し中枢性に働きます。ですから、CB1 受容体を選択的に阻害すると、中枢性に過食を抑制し体重減少を促すと考えられます。また、末梢組織においてもアディポネクチンの濃度を上昇させインスリン抵抗性の改善作用を持つことも報告されています。

CB1 受容体拮抗薬の薬効
 CB1 受容体拮抗薬はリモナバンという一般名で、北アメリカやヨーロッパの肥満患者さん、高脂血症や糖尿病を合併した肥満患者さんに対して臨床試験が報告されており、すでに欧米の一部では販売されています。リモナバン20mg を1年間投与すると,すべての臨床試験において、プラセボ群に比べて有意に体重が減少し、腹部周囲径の縮小も認めました。さらに、メタボリックシンドロームの構成要素である中性脂肪を低下させ、HDL コレステロールを上昇させました。糖尿病や高脂血症の患者さんでは、血圧の低下、アディポネクチンの上昇、インスリン感受性の改善および CRP の低下が認められました。ヨーロッパの臨床試験では、52.9%を占めたメタボリックシンドローム患者さんの比率がリモナバン20mg 投与1年後には25.8%まで減少しました。
 また、リモナバンには心血管危険因子である喫煙の抑制効果もあると報告されています。
 リモナバンの副作用としては、悪心・嘔吐、めまい、低血圧、鬱などが認められています。また、服用を中止すると効果はなくなるため、継続的に飲み続けることが必要になります。

日本でのリモナバン臨床試験の現状
 現在、日本人におけるリモナバンの臨床試験が始まっています。リモナバンは、日本人にとってもメタボリックシンドロームの改善に有用な抗肥満薬となるか、臨床試験の結果を期待していきたいところです。
 


 糖尿病網膜症(以下網膜症)に対する内科治療の充実と眼科治療の進歩により、網膜症による失明は減少しつつあります。しかしながら、網膜光凝固や硝子体手術がいかに進歩しても失明を完全に防ぐことができないのも事実です。

眼内血管新生を誘導する VEGF と PKCβ
 血管内皮増殖因子 (VEGF:Vascular endothelial growth factor) は血管新生、血管透過性亢進、血流調節作用により、血管増殖、黄斑浮腫、無血管領域形成、血流異常などの網膜症のほとんどの病理的変化に関与することが示唆されており、VEGF は網膜症の発症、進展の重要なサイトカインとして知られています。
 一方、PKC (protein kinase C) も、高血糖により活性化する糖尿病合併症発症促進の重要な因子です。網膜症には PKCβ が重要であることが明らかにされており、PKCβ が活性化されると血管透過性亢進とともに、血管内皮細胞の増殖が誘導され、血管新生が生じます。上記の VEGF は PKCβ の活性化を介して眼内血管新生を誘導します。
 近年、VEGF そのものやそのレセプターをターゲットとした新しい治療薬が臨床応用されつつあります。それらのうち抗VEGF抗体と PKCβ阻害薬について概説します。

抗VEGF抗体の臨床応用
 ベバシズマブ (Avastin(R))は VEGF に対するヒト型のモノクローナル抗体製剤であり、米国で開発されました。2004 年2月、結腸癌、直腸癌に対する薬剤として FDA(米国食品医薬品局)から認可されました。ところが本剤の全身投与により、網膜症による網膜新生血管および VEGF が関与する加齢性黄斑変性による脈絡膜新生血管がともに退縮することが認められ、視力改善や病変の改善をもたらす薬として脚光を浴びるようになりました。
 これまでに、糖尿病網膜症患者さんの硝子体内に Avastin(R)を注入 (0.04 mL) することにより網膜新生血管が退縮し、硝子体出血が早期に吸収されるとの報告や、血管新生緑内障において虹彩新生血管が退縮し、高眼圧が改善されるとの報告、黄斑浮腫の改善により視力が向上したとの報告など多数あります。また硝子体手術前に硝子体内に注入することにより、手術時の出血を減少させることも報告されましたが、これは手術成績の向上にも繋がっていきます。
 欧米では医師の裁量により Avastin(R)の適応外使用がなされており、日本でも本薬剤を使用する施設が増加しています。日本での認可が待たれる薬剤の一つです。

PKCβ特異的阻害薬
 ルボキシスタウリンメシレートは経口投与可能な PKCβ特異的阻害薬です。PKCβ特異的阻害薬の増殖網膜症および糖尿病黄斑浮腫への進展予防効果を検証する臨床試験が現在行われています。また、黄斑浮腫を伴う網膜症患者では、本薬剤投与にて黄斑部網膜厚が軽減すること、有意な視力改善がみられることなどが報告されています。
 今後、これらの薬の EBM が確立し、網膜症の新しい治療となることが期待されます。

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