◆ | ADA と EASD のコンセンサスステートメント |
米国糖尿病学会 (ADA) は、毎年1月発行の Diabetes 増刊号で、糖尿病診療に関する方針を発表しています。今年の2型糖尿病の治療の項では、昨年夏、Diabetes と Diabetologia に同時掲載されました2型糖尿病の治療に関する ADA と欧州糖尿病学会 (EASD) のコンセンサスステートメントの内容も一部再掲されました。そこには肥満2型糖尿病の治療に関する欧米での方針が示されており、彼我の糖尿病治療の差を考える上で参考になると思います。
欧米の2型糖尿病患者の多くは肥満しておりアルゴリズムのチャートからαグルコシダーゼ阻害薬やグリニド薬が除かれ、単純化されています。単独療法の効果と、利点・欠点をまとめた表では、ステップ1(初期治療)とステップ2(追加治療)に分け、各治療法(薬)の HbA1C低下効果と特徴が簡潔にまとめられています。生活習慣是正治療では HbA1Cが1~2%低下すること、利点は低コストで多くの利益をもたらすこと、欠点としてはその効果は多くの場合1年で失われることとされています。その理由に、減量が困難なこと、一度減量しても再び体重が増加すること、疾患自体が進行性であり、コントロールの目標値に達し、維持するのは困難であることを挙げ、「従って診断と同時に、生活習慣是正とともに、メトホルミン投与を開始すべきである」と述べています。メトホルミンが第一選択薬とされる理由として、効果が十分に期待できること、体重増加や低血糖がみられないこと、低コストであることなどがあげられています。通常の投与量は1,700mg/日、最大量は3g/日とわが国の認可量に比べ著しく多い点に留意する必要があります。
生活習慣是正とメトホルミン治療によって良好なコントロールが達成できない場合の次のステップとしては、インスリン導入、スルホニル尿素薬の追加、チアゾリジン薬の追加の3通りのフローが示されていますが、それらの明らかな選択基準は示されていません。その次のステップは作用機序の異なる経口薬をさらに追加するか、インスリン導入(または強化インスリン療法への移行)になります。
2型糖尿病に対する欧米での治療方針は、病態の違いを考えるとそのまま日本人2型糖尿病の治療方針として適切か否かは、十分検討する必要があります。
ED(勃起障害)を訴える糖尿病男性のすべてが糖尿病性 ED ではありませんが、薬剤性、心因性、内分泌性 ED などを除き、約9割は糖尿病性 ED です。糖尿病男性の3~5割に糖尿病性 ED がみられ、高頻度の糖尿病合併症です。
◆ | 糖尿病性 ED における PDE5 阻害薬の効果 |
糖尿病性 ED の治療第1選択は PDE5 (phosphodiesterase type 5) 阻害薬です。クエン酸シルデナフィル(25mg, 50mg,1×必要1時間前)の国内発売から8年が経過し、その有効性と安全性は国内外ですでに確認され、糖尿病性 ED の約8割に臨床的有効性が認められます。
糖尿病性 ED における PDE5 阻害薬の効果は性欲があり、勃起機能が残存し、ED 期間が4年以下、糖尿病合併症が高度でない例ほど期待できます。反対に、パートナーとの関係が悪く、心理的緊張の強いときや疲労時での効果は良くありません。シルデナフィル無効例の8割は不適切な使用法が原因で、短時間の再教育で解決できるという報告があります。その教育とは、1)服用20~30分後の適切な性的刺激が必要で、それにはパートナーとの良好な関係が重要です。2)使用当初1~2回の失敗に諦めず、5回以上は試します。3)食直前や直後の服用では薬の効果が半減しますので、食後2時間以上あけて服用し、高脂肪食や過度の飲酒や喫煙を控えます。
第2の PDE5 阻害薬である塩酸バルデナフィル(5mg, 10mg,1×必要1時間前)の特性はシルデナフィルに大変似て、バルデナフィル10mg はシルデナフィル50mg に相当します。糖尿病と脊髄損傷を対象にバルデナフィル20mg の処方が年内にも国内で承認される予定で、シルデナフィル50mg で効果不十分な例はバルデナフィル20mg を試みるとよいかもしれません。バルデナフィルはシルデナフィルより価格が1割ほど安く、食事の影響を受けにくいという利点がある一方、バルデナフィルの生物学的利用率は15%と低く、肝解毒酵素の影響を受け易いので、併用禁忌薬の種類がシルデナフィルより多いことに注意します。
第3の PDE5 阻害薬であるタダラフィルは半減期が14 時間、丸2日間有効な長時間作用型です。連日の性行為を希望する人やパートナーとのタイミングがとれにくい人に向いていますが、薬効が消退しにくいという欠点もあります。本邦では年内に承認、発売予定です。
格安の PDE5 阻害薬が個人輸入で入手可能ですが、品質に問題があり、慎重にお願いします。これらの治療が無効、または不適応のときは陰圧式勃起補助具、陰茎海綿体内注射法、手術療法があり、もし希望があれば ED 専門の泌尿器科を紹介します。ED 診療は自由診療であり、保険診療録と別カルテにすれば、同一診療日の同科でも混合診療ができます。
日本の ED 患者数が1,100 万人を超える今日、多くの一般医が ED をありふれた疾患として治療して下さい。PDE5 阻害薬ほど安全で有効な薬はないと思います。
日本透析医学会の統計調査(2006年)によりますと、2005年12月31日現在、わが国で透析療法を受けている腎不全患者総数は 25万7,756人であり、前年に比べ約1万人も増加しています。このような腎不全患者の増加は全世界的な傾向であり、医療経済の点でも深刻な問題となっています。
2002年に米国腎臓財団 (National Kidney Foun-dation:NKF) は、chronic kidney disease(CKD、日本腎臓学会は「慢性腎臓病」と呼称)という新しい概念を提唱し、その診断の標準化を目的として、糸球体濾過量(GFR)に基づく CKD の病期分類を提唱しました(K/DOQI)。さらに2004 年には CKD の全世界的なコンセンサス作りのために、Kidney Disease:Improving Global Outcome(KDIGO)の国際的ワーキンググループが組織されました。K/DOQI、KDIGO、いずれのガイドラインにおいても、GFR の算出は、蓄尿の必要なクレアチニン・クリアランスではなく、血清クレアチニン値、年齢、性、および人種(黒人あるいはそれ以外)から計算される Modification of Diet in Renal Disease(MDRD)Study での簡易 GFR 推算値が採用されています。
MDRD 簡易式の日本人への応用
―Japan Chronic Kidney Disease Initiative (JCKDI) ―
Cr 値(Jaffe 法)= Cr 値(酵素法+0.2 mg/dl)
GFR =186.3× Cr -1.154×Age -0.203×0.742(女性の場合のみ)×0.881 |
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これらを受けて、2005年の第48 回日本腎臓学会総会において、慢性腎臓病対策小委員会から、日本人に適合した試験的な GFR 算出式が発表されました。これにはまず、クレアチニン値は酵素法で測定した値に 0.2mg/dl を加えた上で、日本人としての人種係数を 0.881 とすることが提言されました。この換算式は、GFR の gold standard といわれるイヌリン・クリアランスに比べ、腎機能が低い症例では高く、腎機能正常域では低く計算されることが指摘されており、現在その再評価が行われています。
CKD は、その原因は問わず、「(1) 腎障害を示す異常所見(蛋白尿、または腎障害を示唆する蛋白尿以外の血液・尿検査異常ならびに画像異常など)の存在か、(2) GFR が60 ml/min/1.73m2未満、のいずれかが3ヶ月以上続く場合」と定義されます。同委員会の調査では、わが国でこの基準に該当するのは全人口の18.7%(約2,000 万人)と推定されています。加えて、CKD は透析患者の予備軍であるのみならず、心血管事故や死亡への新たな危険因子であることも明らかにされています。
世界的な CKD に対する関心を集めるために、国際腎臓学会(ISN)と腎臓財団国際協会(IFKF)は共同で、2006年より毎年3月第2木曜日(今年は3月8日)を World Kidney Day(世界腎臓デー)と制定し、世界中で CKD 啓発イベントが行われるようになりました。
◆ | 尿中アルブミンの測定と GFR の算出が必須項目 |
CKD の最も多い原疾患は糖尿病性腎症と考えられます。その早期診断として、尿中アルブミンの測定が重要であることは言うまでもありません。それに加えて、上記簡易式によって GFR を算出し、その低下がないかどうかを知ることは、腎不全予防の上で重要な指標となると考えられます。