DIABETES NEWS No.97
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No.97 | | 2007 March/April |
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第41回日本成人病(生活習慣病)学会は、1月13日・14日の2日間、都市センター(東京)で開催されました。本学術集会の参加者の専門分野は、循環器、消化器、代謝(糖尿病・高脂血症・動脈硬化・痛風)さらに癌と幅が広く、また実地医家や産業医の先生方の参加も多いのが特徴です。私が会長を務めました今回は、「生活習慣病の予知と予防」をメインテーマに掲げ、特別講演、教育講演、プレナリーレクチャー、ミートザエキスパート、シンポジウムのすべてに、メインテーマにふさわしい演題が並びました。
小坂樹徳先生は、「2型糖尿病の一次予防」と題する特別講演で、長年に亘る自験データを中心に、内外の一次予防の試験成績を紹介され、生活習慣の是正による肥満の解消の重要性を述べられました。
私は、「増加する若年発症2型糖尿病―成人病の低年齢化への警鐘―」と題する会長講演で、若年発症2型糖尿病をとり上げ、生活習慣の変化による若年肥満の増加、治療の状況、合併症の進展、治療中断の危険性、さらに死亡率や死因に関する糖尿病センターのデータを紹介しました。「食と生活習慣病」、「食事と認知症」、「生活習慣病の診療ガイドライン」、睡眠時無呼吸症候群、うつ病、NASH をとり上げた「産業医のための生活習慣病の予防と治療」と題するシンポジウムなど、メインテーマに沿って、多くの講演が行われ、一般演題の発表も含めて、盛会のうちに終えることができました。
成人病学会を記念して「元気で長生き!―健康寿命を延ばすために―」をテーマに、学会2日目の午後、市民公開講座を開催しました。基調講演(厚労省、石井安彦氏)では国をあげての国民健康づくり運動「健康日本21」について、メタボリックシンドロームの話も含めてわかりやすくお話いただきました。特別講演では、まず元マラソンランナーの増田明美さんが、ウォーキングの楽しさや身体を鍛えることの大切さをご自身の体験を混ぜて、大変わかりやすく講演されました。「脳を知り、脳を鍛える」と題する川島隆太先生(東北大学)のご講演は、冒頭から驚きの連続でした。脳のイメージングの研究成果を中心に、脳の老化を防ぐためにはどうすればよいかなど興味深いご講演は、会場を埋めた約1,000名の参加者の万雷の拍手で終り、記憶に残る素晴らしい講演会となりました。
平均50.6歳、BMI 33.9 の糖代謝異常のある肥満成人1,079人を32年追跡した研究によると、生活習慣に対し強力に介入すると減量がすすみ、糖尿病の発症が有意に減少し、たとえば5kg の体重減少で糖尿病発症危険率は0.42、P<0.0001 であったとの報告があります。2型糖尿病患者の生活習慣に介入して7.8%/年の体重減量が達成されると、aPWV は740→690cm/s へ改善し、たとえば50cm/s の増加は10歳の加齢に相当したという報告もなされました。減量が常識的に良いととらえていた時代から、今日は効果そのものが科学的に実証されつつあります。
昨年12月、ケープタウンで開かれました国際糖尿病会議では肥満が大きな問題としてとりあげられ、現代成人の1/2 は過体重あるいは肥満、1/3 はメタボリックシンドローム、1/4 は糖代謝異常と度々言われました。しかし、現実は厳しく、会議出席者の半数以上が肥満あるいは過体重状態に見え、いかに体重コントロールが難しいかを実感しました。
最近、私は整形外科通院中の肥満高齢者や健康診断希望の比較的若い男性を多く拝見します。体重測定などしたこともなく、肥り出した時期もわからない高齢者が多いのに驚きました。膝や腰に対して減量が有効だからと、朝・晩に体重を測定し記録するノートを渡すのですが、変わらないから書くのをやめたとか、減量を考えるとかえってストレスで食べてしまった、などと言う若い人もいて、半分くらいの人はノートに記録することも減量も放棄してしまいます。一方、減量できた患者さんからは、膝や腰が楽になったと大変喜ばれています。
町を歩いていても、筋肉はどこについているのかと言いたくなるような肥満体型の若い男性を多く見かけるようになり、流行語に挙げられるほどに『メタボリックシンドローム』が巷に氾濫していても、無関心な人が多いのが現実のように思われてなりません。
薬物治療中の糖尿病患者さんでは低血糖の危険を考えると強く減量を勧めがたいところがあります。しかし低血糖を重視して躊躇していると、肥る傾向があります。体重測定・記録を行い、少しでも減量するよう地道に指導し、そして薬の量も調整していくと、血糖コントロールの改善とともに減量できるようです。
そうはいっても最も大切なのは、本人が自分の体重をどうしたいかということです。理想体重から20kg 以上肥っていても、2kg 減れば十分と思っている人もいます。私自身、食事と運動で5年間に約6kg 減量しましたが、昨年4月までは60歳過ぎてBMI 22 などは無理、そんなに痩せたら皺だらけになる、理想体重の10%以内で十分と考えていました。しかし、一念発起してほぼBMI 22 にしてみると、まだまだ余分な脂肪があるのを感じます。減量は自分がその気にならなければできないということでしょう。
健康な体型に対するイメージがない患者さんには、心理的アプローチや身体トレーニングなど栄養指導の他に総合的な対処が必要で、それらに対する保険給付も重要と考えます。
国際糖尿病連合(International Diabetes Federation、IDF)が主催する World Diabetes Congress が2006 年12月3~7日に南アフリカのケープタウンで開催されました。この会議は、世界の糖尿病診療の現状・将来の展望、最先端の基礎・臨床の研究について討議をするために3 年ごとに開催されており、今回は100カ国1万人以上の医師やコメディカルスタッフが参加して、盛大に行われました。
冒頭に行われた会長講演では、1型糖尿病、2型糖尿病、IDF の活動、の3点について述べられました。1型糖尿病は患者数が世界中で漸増しているにもかかわらず、発展途上国や災害地へのインスリンや血糖自己測定器の供給が不十分であるために、いまだに命を落としている人が多いという現状が紹介されました。2型糖尿病は、2007年と2025年の患者数の予想が示され、世界全体では2億4,600万人から3億8,000 万人へと55%増加すること、日本を含む西太平洋地域では6,700万人から9,940万人へと48%の増加、南アメリカは1,620万人から3,270万人へと102% の増加、ヨーロッパは5,320万人から6,421万人へと21%の増加、北米は2,820万人から4,050万人へと43%の増加など、発展途上国での増加率が著しいことが示されました。数の増加とともに、発症が若年化していることが問題であることも示され、今後行うべき対策としては、合併症や予防の知識の啓発、医療機関での治療のガイドライン作成などが特に重要であることが述べられました。IDF の活動については、糖尿病の撲滅を目指して、啓発活動(広告、パンフレット)に多額の資金を投じること、最新の研究成果を早期に診療に結びつける役割を果たすことなどが重要であるとのことでした。
会場には、各国の糖尿病学会・協会の展示ブースが設けられ、世界中の糖尿病の現状が一目でわかる工夫も凝らされていました。今回は南アフリカで開催されたこともあり、アフリカ各国からの展示が多く、素足での生活のために足壊疽が大きな問題であることなどが紹介されており興味深いものでした。
こうした世界の現状に比べると、日本の医療水準は非常に高いレベルにあり、患者さんにとってはもちろんのこと、われわれ医療者にとっても幸せなことだと思います。ただ、いくら医療水準が高くても、糖尿病の治療の成否は、病気を正しく理解し、適切な指導のもとでの食事・運動療法の実践にかかっていることに変わりはないことも実感しました。
ケープタウン市は、標高約1,000m の文字通りテーブルの形をしたテーブルマウンテンがすぐ背後に迫り、大航海時代にヨーロッパ人が目指した喜望峰にも近い、非常に美しい都市でした。治安状態も良く、4 年後にはサッカーのワールドカップも開催される予定で、ぜひとも訪れるべき価値のある町だという印象を持ちました。
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