DIABETES NEWS No.94
 
No.94 2006 September/October

第22回日本糖尿病・妊娠学会
 糖尿病とくに2型糖尿病の患者数が増加し、発症年齢も若くなってきています。その結果、妊娠可能な年齢の糖尿病女性が増えてきて、実際に私たちが妊娠糖尿病や糖尿病妊婦さんの診療にあたる機会は増加しているように思います。
 日本糖尿病・妊娠学会の年次学術集会は、糖尿病と妊娠をめぐるさまざまな問題について、内科医・産科医・小児科医および糖尿病妊婦の診療を支えるコメディカルスタッフが一堂に会し、熱心に討議する大切な場です。
 今年の日本糖尿病・妊娠学会は、来る11月24日(金)・25日(土) の2日間、東京の日本都市センターで開催されます。私は本学会の会長を仰せつかり、鋭意準備を進めております。

プログラムの概要
 海外からの招請講演の演者として David Hadden 先生をお迎えし、"Hyperglycaemia and Pregnancy Outcome ― the historical background to Gestational Diabetes Mellitus"と題するご講演をいただきます。妊娠糖尿病(GDM)の歴史や現在進行中の"HAPO Study"の背景などについてご発表いただく予定です。
 Mathiesen 先生には、妊婦におけるインスリンアスパルトの臨床成績について、9月の欧州糖尿病学会で発表されます最新の知見も含めてご報告いただきます。

子宮内環境と児の将来
 近年、子宮内環境が胎児に与えるさまざまな影響、とくに児の将来の疾病の発症との関連に関する研究の成果が注目されています。本学会の特別講演では、大谷浩教授が膵臓を含む器官発生と子宮内環境に関して、さらに教育講演では、「成人病胎児期発症説から耐糖能異常を考える」と題して、福岡秀興先生にお話しいただきます。ご期待下さい。

多彩な学術プログラム
 コメディカルの立場から「糖代謝異常妊娠の看護」について、福井トシ子先生に教育講演をお願いいたしました。その他、シンポジウム「小児期発症1型および2型糖尿病の妊娠前管理―問題点と対策―」、ワークショップ「糖尿病腎症の妊娠許容条件および分娩後の母体予後」などいずれも重要なテーマで活発な討論が行われます。多くの皆様の参加をお待ちしています。
 第22回 日本糖尿病・妊娠学会の詳細はこちらを参照ください。
 


失明の原因疾患順位が変わった
 糖尿病網膜症は、糖尿病性腎症・神経障害とならび糖尿病の3大慢性合併症のひとつです。糖尿病性腎症はわが国における透析導入の原因疾患のトップであり、糖尿病網膜症は成人における失明の原因疾患のトップとされていました。
 ところが、最新の視覚障害実態調査では視覚障害の主原因疾患の第一位は緑内障であり、次いで糖尿病網膜症、網膜色素変性症、黄斑変性症、高度近視の順であったと報告されました。
 遂に、糖尿病網膜症は成人中途失明の原因疾患のトップの座を緑内障に譲ることとなりました。この結果が糖尿病に関わる我々に大きな驚きと感慨を与えたことは言うまでもありません。

従来の失明の原因疾患順位
 糖尿病網膜症がこれまで成人中途失明の原因疾患のトップであったという根拠は、1991年7月に当時の厚生省が発行した厚生の指標の「わが国における視覚障害の現況」という報告から得ていました。この研究では、昭和63年度に障害者手帳を新規に交付された18歳以上の視覚障害者15,893名のうち、8県の視覚障害者2,161名を対象に調査がされました。
 その結果、視覚障害の主たる原因の第一位は糖尿病網膜症で、推定障害者数は2,986名で全体の18.3%を占めていました。以下、白内障が2,549名15.6%、緑内障が2,360名14.5%、網膜色素変性症が1,991名12.2%、高度近視が1,749名10.7%、視神経・網脈絡膜萎縮が1,591名9.8%の順でした。

どのような調査がなされたか
 その後、全国規模の調査は障害者のプライバシー保護の観点から15年間行われていませんでした。一方で、WHO と国際失明予防機構(IAPB)は世界の予防・治療可能な失明者を根絶することを目的として、1999年に VISION 2020 を立ち上げました。
 そこで、日本の視覚障害の実態に関する知見を得ることが求められました。厚生労働省難治性疾患克服研究事業「網膜脈絡膜・視神経萎縮症に関する研究」として実態調査が開始され、このたび平成17年度研究報告書としてまとまり、「わが国における視覚障害の現状」が発表されたわけです。
 今回の調査では、1991年の調査と同じように、最近1年間の視覚障害新規認定者2,034名(全国新規交付総数に対する抽出比率は12.4%)を対象に行われました。その結果、視覚障害の主原因疾患は、緑内障20.7%、糖尿病網膜症19.0%、網膜色素変性症13.7%、黄斑変性症9.1%、高度近視7.8%となり、前回の調査に比べて、緑内障、黄斑変性症が増加して、糖尿病網膜症は、推定障害者数は微増したものの、第一位の座を譲ったのです。

糖尿病センターにおける治療成績
 当センターにおける網膜症の治療成績では、網膜光凝固を必要とする網膜症の78%が鎮静化し、硝子体手術により78%で0.1以上、51%で0.5以上の矯正視力が得られるようになっています。
 糖尿病患者数は増加する一途にもかかわらず網膜症の治療成績が向上しているのは、内科と眼科の連携がより強固になり、眼科未受診の患者さんが減る一方で、網膜光凝固や硝子体手術などの糖尿病網膜症の治療法が確立して、失明を免れるケースが増えてきた結果ではないかと推測されます。
 


GLP-1 はインクレチンのひとつ
 食物の経口摂取により消化管から分泌され、膵β細胞からのインスリン分泌を促すペプチドホルモンとして GLP-1 (Glucagon-Like Peptide-1) と GIP (Gastric Inhibitory Polypeptide)が知られており、インクレチンと総称します。経静脈ブドウ糖負荷より経口負荷のほうが50~70%インスリン分泌が増強されるのは、まさしくこれらのホルモンの作用によるものです。
 GIP は上部小腸K細胞から、GLP-1 は下部小腸L細胞から分泌されますが、最近、GLP-1 も GIP も小腸全体から分泌され、両方を分泌する細胞も存在し、両方は相加的に作用することがわかってきました。
 GLP-1 は糖刺激によるインスリン分泌刺激が GIP より大きく、膵臓のβ細胞の増殖や分化誘導にも関与し、さらにグルカゴンの分泌を抑制、胃排出を遅延し、食欲も低下させる作用をもちます。また、2型糖尿病患者では GIP 分泌は保持されていますが作用が減弱している一方で、GLP-1 は分泌低下はみられるもののその作用は保たれていることが示されています。そのため2型糖尿病患者には GLP-1 投与がより大きな効果を発揮することが期待されます。

臨床試験中の GLP-1 アナログと DPP-IV 阻害薬
 現在、生理活性を持続させた持続型 GLP-1 アナログや、GLP-1 を不活性化する酵素 DiPeptidyl Peptidase-IV (DPP-IV)の阻害薬が血糖降下薬として開発されてきました。我が国においても臨床試験が行なわれています。
 これまでの海外での結果によると、膵臓β細胞からのインスリン分泌が増加し、HbA1C が 0.7-1%改善し、しかし体重増加は認めなかったと報告されています。GLP-1 のインスリン分泌増強は血糖値に依存するので、低血糖をおこしにくい血糖降下薬として垂涎の的です。
 しかし、副作用として吐気をはじめとする消化器症状があります。それでも欧米では肥満2型糖尿病の治療においてチアゾリジン薬に準ずる薬剤として位置づけられつつあります。
 日本で第1相が終了しているリラグルチド(持続型 GLP-1 アナログ)は、2型糖尿病を対象にした平尾氏の報告によると、5μg/kg の2週間投与法、5μg/kg 1週間投与さらに10μg/kg の1週間投与法の両投与方法でも血糖は順調に低下し、低血糖はおこらず、インスリン分泌は1.5から2倍に増加(特に初期分泌の出現もおこる)したことが示されています。

GLP-1 分泌調節からの他の創薬は?
 最近、脂肪酸、特に不飽和脂肪酸をリガンドとし、腸管に特異的に発現するオーファンレセプター GPR(G Protein coupled Receptor)120 が見いだされました。この受容体を介して遊離脂肪酸によっても腸内分泌細胞からの GLP-1分泌が促進されることが報告されました。
 今後、これら腸管細胞におけるGLP-1 分泌のセンサーの側面からの創薬も期待されます。

このページの先頭へ