DIABETES NEWS No.93
 
No.93 2006 July/August

紹介初診患者さんの受診の目的
 糖尿病センターには多くの医療機関から紹介をいただき、毎年2千人以上の新患患者さんが受診されます。紹介の目的は、糖尿病発症早期の患者さんに対する療養指導、コントロール不良症例(多くの場合、経口薬併用投与中)に対するインスリン導入、慢性合併症(細小血管症、大血管症)の診断と治療、すなわち糖尿病眼科、フットケア、腎症外来とともに、小児・ヤングの1型糖尿病、糖尿病妊婦や挙児希望の糖尿病女性など専門外来に対する多くの紹介もあります。

長くなる通院間隔
 紹介患者さんに対し、それぞれの紹介目的に沿って外来または入院で診療を進めますが、定期的に通院している患者さんで予約枠はすでに一杯となっていることも多く、初診患者さんの2回目以降の予約をとるのは容易ではありません。したがって、再診患者さんの通院間隔は徐々に長くなり、残念ですが1回の診察時間も十分に確保できない状況がみられます。こうした状況の中で、電子カルテによる診療は、多くの素晴らしい利点がある一方で、待ち時間の短縮にはつながっていないのが現状です。

「後方連携」の推進
 多くの患者さんをご紹介いただくのであれば、それとほぼ同数の患者さんを逆に第一線の先生方に紹介する、いわゆる「後方連携」を進めなければ、限られた担当医と診察室で進める外来診療が限界を迎えることは自明のことといえます。
 当センターでは、これまでも、第一線の先生方との医療連携の実現に向けて努力してきましたが、ここにあらためて医療連携の一層の推進をめざしたいと思います。
 当センターでは、8年前から「糖尿病センターとの医療連携の会」を立ち上げ、年3回、糖尿病の診療に関するホットな話題に関する講演と症例呈示による勉強会を重ねてきました。このたび「医療連携の会」に参加いただいている先生方にあらためてアンケートを行いました。今後より一層緊密な連携体制―糖尿病診療ネットワークの構築に向けて前進したいと考えています。よろしくご協力の程お願い致します。
 


YMCの概要
 本年12月、千葉県八千代市に地域医療を支援する中核病院として、東京女子医大八千代医療センター(Yachiyo Medical Center, YMC)が開設されます。YMC の建物は4階建ての外来棟と6階建ての病棟(病床数355床)に分かれます。千葉県で唯一の総合周産期母子医療センターや小児2次・3次医療施設を備え、第3次救急医療センターに準じた救急医療体制を整えます。
 YMC の理念は、「地域社会に信頼される病院として、心温まる医療と急性期・高機能・先進医療との調和を目指します」です。基本方針としては、(1) 本学の理念である「至誠と愛」に基づき皆様に信頼される病院を目指します、(2) 患者様のプライバシーを守り、一人一人の権利を尊重します、(3) 常に最先端の医療技術と知識を用いて、安全で良質の医療を提供します、(4) 患者様にあった最善のチーム医療を行います、(5) 中核病院として地域の診療所、病院等との連携を推進し、皆様の健康を維持・増進します、の5つです。基本構想としては、地域医療機関と機能分担および機能連携を行うこと、また自己完結型医療から地域完結型または地域チーム医療を遂行することを目指しています。

YMC開設準備
 平成17年3月19日に起工式が開催され、建設が急ピッチで進行しています。また、東京女子医大本院内に YMC 開設準備室が設けられ、25以上のワーキンググループに分かれて、ハード面およびソフト面での病院システムの準備が順調に進行しています。平成18年9月末には建物完成、諸検査が行われ、引き渡されます。10月には機器備品等の搬入、10月~11月には病院運用のためのトレーニングやシミュレーションが行われます。12月5日には「YMC 完成披露式典」を予定しており、その後オープンという運びです。

医療連携・チーム医療
 YMC は中核病院であるばかりでなく急性期病院としての性格を有しており、地域の病医院と機能の分担を図りながら、患者様に最善の医療を提供することを心がけます。そのため、医療連携として紹介・逆紹介率の向上、適切な退院計画・退院調整の実施、外来機能や在宅支援機能の強化を図ります。また、東京女子医大本院の各科とも密接な医療連携を構築して、患者様が安心して医療を享受できるようにします。さらに、医師、看護師、薬剤師、栄養士、理学・作業療法士など医療従事者が一丸となって、質の高い医療サービスを提供します。院内にチーム医療室を設けて、積極的にチーム医療を行います。

IT化・電子カルテ
 YMC は東京女子医科大学のグループ病院として、本院などとの診療情報の共有を図っていきます。外来、入院ともに電子カルテシステムを導入し、地域医療機関との円滑な情報共有をはかります。また、診療の安全性確保、医療の質とサービスの向上、高度医療の支援、コスト管理、地域情報ネットワークの構築などの IT 化を進めています。ご期待ください。
 


2型糖尿病とMODY遺伝子の接点
 MODY はご存知のように1種類の遺伝子の変異によって発症する糖尿病で、通常はやせ型で25歳未満に診断され、常染色体優性遺伝を示します。このことから MODY は特殊な糖尿病であり、一般の2型糖尿病とは距離があるように思われるかもしれません。しかし、MODY 遺伝子の多型が一般の2型糖尿病の発症に関わっていることが最近の研究で明らかにされました。
 多型とは「集団の中に一定の頻度で認められる遺伝子配列上の差異」で、1塩基置換は平均して約300塩基に1箇所存在しており、SNP(single nucleotide polymorphism)と同義語です。MODY1の原因である HNF-4α 遺伝子で例えますと、特殊な多型なら1塩基の違いであっても遺伝性の糖尿病(MODY)になり、他の多型なら MODY にならずに2型糖尿病へのかかりやすさが高まる(疾患感受性が高くなる)ように作用することが、複数の人種で示されました。さらにこの感受性多型を有する集団ではインスリン分泌能が有意に低下していることも示され、この多型がβ細胞の機能低下を規定することを介して2型糖尿病感受性に働くことが推測されました。ちなみに MODY のように疾患と多型が1対1で対応する場合には「変異」と呼び、そうでない場合は「多型」として区別します。

疾患感受性と体質
 このように、一種類の変異(多型)では発症には至らないものの、複数の感受性多型(糖尿病にかかり易い型)を有する場合、より糖尿病にかかりやすい体質を獲得していることになり、肥満などの環境要因が加わると糖尿病を発症すると考えられています。なお、これまでの研究の成果より感受性多型の2型糖尿病発症リスクは単独では高くても2倍以下のものがほとんどです。

新たなMODY5遺伝子変異
 MODY 遺伝子は6種類知られています。変異の検索方法は遺伝子を含む狭い領域を細かく調べる方法であり、従来主として遺伝子内の変異のみが報告されてきました。しかし、もっと大きなスケールで調べる comparative genomic hybridization(CGH)という方法によって、父母由来で本来2本あるべき遺伝子の1本がまるまる欠失していることが明らかとなった症例が昨年見い出されました。これは臨床的に MODY5の条件を満足するにもかかわらず遺伝子変異が見つからなかった症例で、実は片親の正常 MODY5遺伝子を引き継いでいるために変異が見つからず、しかし遺伝子の量が 1/2 で合成される蛋白質の量も半分となるため MODY5を発症したと考えられます。MODY と思われる症例の中で従来の変異検索で異常が認められなかった者について、上述の欠失がないかどうかを今後調べていく必要があります。

染色体上の新たな発見
 さらに、後者に関連した知見として、一見全く正常で健康に見える人においても、広い領域の染色体の欠失が存在することが知られるようになってきました。欠失サイズは7~700万塩基で、染色体上に 200箇所以上あると述べられておりますが、遺伝学的意義は今のところ不明です。
 遺伝子配列の解読は既に終了しましたが、このように遺伝子の機能に関わる本質的な課題の解決はこれからです。

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