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No.88 | | 2005 September/October |
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第24回関東甲信越糖尿病セミナーは、来る10月16日(日)に東京のシェーンバッハサボーと全共連ビルで開催されます。本セミナーは年1回、糖尿病患者さんと家族、療養指導にあたる医師・コメディカルスタッフが一堂に会し、糖尿病に関する正しい知識を学ぶためのものです。関東甲信越の1都9県持ち回りで担当することになっており、今回は7年振りの東京都支部の主催で、東糖協の田和会長と私とが世話人を務めることになりました。
今回のセミナーのメインテーマとして、「備えあれば憂いなし」を掲げることと致しました。このテーマにはメッセージとして次の3つのことが込められています。
第1のメッセージは、糖尿病のさまざまな合併症、すなわち網膜症、腎症および神経障害など特有の細小血管合併症の発症と進展を抑え、糖尿病患者さんに併発することの多い心筋梗塞、脳梗塞および下肢の閉塞性動脈硬化症などの動脈硬化性疾患の発症・進展を抑えるためには、十分な備え、すなわち良いコントロールを長期間にわたって保つことが必要であることです。
第2のメッセージとしては、糖尿病そのものの発症予防に関することです。糖尿病の発症につながるさまざまなリスク(危険)因子をもつ人では、適切な食事を心がける、運動不足を解消する、肥満を是正するなどの「備え」によって、糖尿病発症(憂い)を防ぐことが出来るのです。
昨年は「災」が1年を象徴する文字であったように、地球規模で大きな災害に見舞われた1年でした。新潟中越地震の大被害を眼のあたりにして開かれました本セミナーのプログラム委員会では、大災害に対する糖尿病医療の備えについてきちんと討論することが提案され、メインテーマにふさわしいシンポジウムを開催することに致しました。
そのほか糖尿病の予防や治療に関する講演、華道家として活躍中の假屋崎氏の特別講演、糖尿病療養指導士の活躍についてのシンポジウム、さらには聴衆参加型の企画や「患者さん大いに語る」と題するパネル討論など、多彩なプログラムを用意しました。
多数の皆様のご参加をお待ちしています。
「お知らせ」のコーナーに本セミナーの概要を掲載してあります |
今年のアメリカ糖尿病学会 (ADA) は6月10日からアメリカ西海岸の San Diego で開催されました。6月は寒流が流れるために底冷えする彼地でした。
1型糖尿病と2型糖尿病という病型診断はかならずしもいつも明確にできるわけではありません。今年は1型糖尿病の成因の中にインスリン抵抗性が関与していないか、インスリン抵抗性が膵臓β細胞破壊に関与していないか討論されました。2型糖尿病人口の増加に伴い、その土壌の上に1型糖尿病が発症してくる可能性を討論しようというものです。また、肥満してくる1型糖尿病患者さんが高血圧や高脂血症を併発し、血糖コントロールがまずますでも糖尿病性合併症を発症することが明らかにされてきて、metabolic syndrome という概念との相違についても疑問がなげかけられました。
米国で GLP-1 製剤が臨床の場に登場しはじめたこともあり、GLP-1 は多くの参加者の関心を集めました。糖分摂取による高血糖のみ抑えること、β細胞を再生させること、食欲を抑えることなどが魅力的な点です。GLP-1 製剤は注射薬ですが、GLP-1 の血中濃度を上昇させる DPP-4 阻害薬は経口薬です。
インスリンパウダーや液体インスリンをミクロ粒子にした吸入インスリン製剤ももうすぐ臨床の場に登場してくるようです。血中濃度は超速効型インスリンと同じ立ち上がりで、超速効型より長めに持続します。食前インスリン製剤としての有用性が1型糖尿病患者さんにおいても2型糖尿病患者さんにおいても魅力的です。
約10年間の DCCT 終了後に、強化インスリン療法群と従来インスリン療法群はともに強化インスリン療法を行なうようになった(DCCT 後の HbA1Cは両群で有意差なし)わけですが、DCCT 後の合併症頻度を比較したのが本研究です。これまでも過去の強化療法群の細小血管合併症頻度の低さが注目をあびてきましたが、10年経過した今大血管障害においても過去の強化療法群の大きな危険減少率が報告されました (42%)。過去の血糖コントロールの"良さ"が合併症頻度の低さとしてその後も継続することを metabolic memory といいます。約10年の過去の良好な血糖コントロールの影響がその後10年も続くということはだれもこれまで想像だにしていませんでした。この病態究明にも多くの眼が注がれています。
HbA1Cに加えて血清脂質(中性脂肪、HDL)も改善する Muraglitazar (α/γ PPAR Activator) の報告や、さらに血圧も改善する CB-1 受容体ブロッカーの報告もありました。
◆ | 炎症反応を抑えることも大きな糖尿病治療ポイントに |
最後に、糖尿病の発症にも合併症発症にも炎症反応が原因のひとつとなっていることも明らかにされてきました。血糖コントロールとともに、酸化ストレスをはじめ炎症反応をおこしうるいろいろな物質を抑えていくことも重要であることが認識されてきました。
インスリン分泌が枯渇した1型糖尿病に対する根治療法として、これまでは臓器移植としての膵移植が主に行われ、2003年までに世界中で2万件をこえる膵移植が行われています。わが国では、1984年以降現在までに 37例の膵移植が行われており、特に脳死移植法施行後の膵移植では良好な成績が示されています。一方膵臓から膵島を分離し、これを糖尿病患者さんに移植する膵島移植は、局所麻酔下に行われることから膵移植に比べて安全であり、現在注目されている治療法です。
膵島移植の成績は、1999年までの生着率は 41%と不良でしたが、2000年にカナダのアルバータ大学において「エドモントンプロトコール」という方法で膵島移植を実施したところ、1年インスリン離脱率 80%以上という極めて良好な成績が報告されました。わが国では2004年4月7日、京都大学で初めての心停止ドナーからの膵島移植が実施され、成功しました。以後現在まで、同大学、国立病院機構千葉東病院および神戸大学の3施設で10数件の膵島移植が行われています。このなかで特筆すべきは、今年の1月19日に京都大学で行われた生体膵島移植です。
生体膵島移植をうけたのは27歳の女性でした。4歳のときに慢性膵炎に罹患後15歳でインスリン依存状態となり、1日平均28単位(0.56単位/kg)のインスリンを使用していましたが血糖の日内変動は極めて不安定で、高頻度に低血糖昏睡を起こしていました。移植前の HbA1Cは 9.9%でした。56歳の正常耐糖能の母親から摘出された膵臓の一部から膵島が分離され、局所麻酔下に膵島が門脈内に注入・移植されました。移植の22日後にインスリン治療からの離脱が可能となり、移植膵島から分泌されるインスリンによって血糖日内変動はほぼ正常化し、経口ブドウ糖負荷試験での血糖反応は正常となりました。この生体提供者からの膵島移植は世界初の成功例であり、内外で大変注目されています。
一方膵島移植の長期成績は、現時点では不明です。膵島移植をうけた患者さんのほとんどが、一時的にインスリン治療からの離脱が可能となった後に、移植膵島の減少あるいは機能低下によって、再度移植が必要となるのが現状です。わが国では臓器提供数が欧米に比べて極めて少ないことから、再移植がすぐに可能とならないことが問題点としてあげられます。また生体膵島移植では、提供者における臓器摘出のリスクを十分考慮する必要があります。外科手術に伴う合併症に加え、膵島移植では、一部の膵を摘出された提供者に将来糖尿病が発症する可能性は必ずしも否定できません。
今回の生体膵島移植は、現行の強化インスリン治療では高血糖と低血糖を繰り返し、著しく損なわれた QOL を改善する目的で、やむを得ず行われたのものと思われます。移植をうけた患者さんおよび提供者の経過を慎重に観察する必要があり、その有効性および提供者の安全性の確認が生体膵島移植の重要な課題といえます。