DIABETES NEWS No.87
 
No.87 2005 July/August

「糖尿病診療の新時代とIT」
 来る8月5日・6日の両日、第5回糖尿病教育資源共有機構の年次学術集会が東京女子医大弥生記念講堂で開催されます。本学術集会は、糖尿病の治療でもっとも重要な患者教育に関して、ITの活用など有効な教育資源の開発をめざして進められている研究を発表する場であります。今回は、私が会長を務めさせていただくことになり、メインテーマとして「糖尿病診療の新時代とIT」を掲げました。

興味深い特別講演のテーマ
 特別講演1として小山博史先生(東京大学)には「情報技術の医療(とくに生活習慣病)への応用」と題してデータマイニングの手法を用いた糖尿病(生活習慣病)の診療と臨床研究の進め方についてお話しいただきます。
 特別講演2では伊藤千賀子先生(広島原対協)に、日本糖尿病学会が日本医師会、日本糖尿病協会と連携して今春スタートした「糖尿病対策推進会議」の活動についてお話しいただくことになりました。
 特別講演3では「個人情報保護に留意した医療情報技術の活用」と題して山本隆一先生(東京大学)に個人情報保護法施行後の医療情報の収集と管理に関する留意点などについてお話しいただきます。いずれもメインテーマにふさわしい時宜を得たご講演です。

充実したシンポジウム
「疫学および医療情報解析からみた日本人糖尿病の現況」と題するシンポジウム1では、女子医大糖尿病センターにおけるデータベースの構築とその分析結果、CoDiC、JDCS および DECODA のデータからみた日本人糖尿病の現況がそれぞれの研究者から発表されます。
 シンポジウム2では「糖尿病療養指導とITの活用」と題して、療養指導を担当するさまざまな職種の方からITを活用した療養指導の工夫とその成果について、さらにシンポジウム3では「在宅医療情報とITの活用」と題して、糖尿病診療や患者教育に有用な在宅医療情報や教育ツールをどのように活用するかについて発表いただきます。
 その他、南昌江先生によるランチョンレクチャーや、一般演題・企業セッションも含めて多くの興味深いデータが発表されますので、多くの医師・コメディカルの皆様のご参加をお待ちしています。
第5回糖尿病教育資源共有機構年次学術集会のプログラム
等の詳細を「お知らせ」のコーナーでご案内しております
 


盛況に開催
 平成17年3月4日~6日の3日間、名古屋市立大学教授小椋祐一郎会長のもとに第11回日本糖尿病眼学会が名古屋で開催されました。まだ肌寒い毎日でしたが、2月には名古屋新国際空港が開港し、3月下旬からの愛知万博の開催を目前に控え、名古屋の街全体が活気に満ちていました。
 糖尿病眼学会は糖尿病の眼合併症について、患者の管理や治療に関与するすべてのスタッフが参加する学会で、今回も眼科医のみでなく多数の内科医やコメデイカルが参加して盛大に開催されました。

「糖尿病網膜症の征圧に向けて」
 今回の学会のメインテーマは「糖尿病網膜症の征圧に向けて」でありました。このテーマを柱にさまざまな側面からプログラムが組まれていました。
 特別講演として、内科側から「膵β細胞研究と糖尿病」、眼科側から「糖尿病網膜症の硝子体手術」が発表されました。海外招待講演として、ジョスリン糖尿病センターのキング先生が「糖尿病網膜症とプロテインキナーゼCの役割」という演題で、PKCの構造、機能、役割などについて詳しく講演されました。PKC阻害薬は網膜症に対する新しい治療薬として、現在世界的に治験が進められており、大いに期待されています。
 トピックスとなるシンポジウムのテーマには、「糖尿病網膜症の分子遺伝学への挑戦」と「硝子体手術」がとりあげられました。これまで網膜症の病態に複数の遺伝子が関連していることが示唆されており、最新の研究成果がわかりやすく解説されました。今後個々の患者に合わせて有効な治療法を選択するオーダーメイド医療を実現するためには、遺伝子情報の意義を検証することが非常に重要であります。
 また、シンポジウム「硝子体手術」では最新の手術適応、手術手技、術中・術後合併症などについて論じられました。将来的には硝子体手術の標準化が行われ、さらに安全性の高い手術が受けられるようになることが期待されます。

新たな治療展開への期待
 これまで糖尿病網膜症に対する治療として、網膜光凝固や硝子体手術などの眼科的治療が主に行なわれてきました。近年、分子生物学や分子遺伝学の進歩に伴い、網膜症の病態が解明されるようになるとともに、新たな診断法や治療法の開発が進み、治療の主体は外科的治療から内科的治療へと移行しつつあります。今回の学会の特徴も、薬物治療単独の演題や手術治療と薬物治療の併用に関する演題が増加していたことです。
 今後、網膜症が進展しやすい人の予後の予測が可能となり、網膜症進展を抑制するための経口薬が開発される日も近いという印象を受けました。
 


 新緑萌える5月12日から3日間、第48回日本糖尿病学術集会が神戸で開催されました。約1500題におよぶ口演やポスター発表に熱心な討論が行われました。

メインテーマは「生命科学が切り開く糖尿病の新たなステージ」
 神戸大学春日雅人学会会長は、インスリンレセプターとシグナリング、GLUT4 の研究など過去および近年の教室の業績から、テーマの信念にまさしく基づいた会長講演をされました。
 ロナルド・カーン博士(ジョスリン糖尿病センター)は、IRS-1とIRS-2 の糖代謝と脂質代謝におけるかかわりの違いを発表され、これらの基礎的研究が現在話題のメタボリックシンドロームの臨床像の解明につながる可能性を示唆した特別講演をされました。リリー賞受賞者の一人金藤秀明先生は、「糖毒性」の原因として酸化ストレスと JNK経路が関与すること、JNK経路は糖尿病ではさまざまな臓器で亢進しており、JNK活性は酸化ストレスによるインスリン転写因子の減少に関与し、これを抑制することにより糖毒性からβ細胞を保護することを示しました。さらに、JNK活性はインスリン抵抗性とも関連しており、新しい治療ターゲットとしての可能性を示唆されました。

メタボリックシンドローム
 4月に日本での診断基準が発表されたメタボリックシンドロームは基礎から疫学調査まで多くの演題が発表されました。北海道の端野・壮瞥町の疫学調査では、40歳以上の男性4人に1人がメタボリックシンドロームであること、新基準でも5人に1人がメタボリックシンドロームと診断されたと発表され、その頻度が決して低くないことが改めて確認されました。高血圧が特に心血管疾患発症に及ぼす影響が大きいことが追跡調査から報告され、インスリン抵抗性があると心血管イベントの発症が3~4倍高くなることも明らかにされました。

糖尿病診療における心理面のケア
 さらに、今回注目されたのは糖尿病患者さんの心理面の問題でした。増加する糖尿病人口、生活習慣を変えるというストレス、1型糖尿病であるという不安、インスリンなど治療に対する不安など、多くの心理面での問題が明らかにされ、心理面のケアが糖尿病診療には欠かせないことがわかってきました。
 糖尿病という疾患についての研究が進歩を重ねても、臨床診療にはそこに病を抱えて生きる人(患者さん)が存在するわけで、糖尿病のような慢性疾患では、完全な治癒にいたる方法を持たない医療がいかにしてかかわるかというのが大きなテーマとなります。そこには患者さんの"生き方"に真正面から向かっていくという大きな課題が存在します。臨床心理、行動科学あるいは実際の症例とさまざまな方向から意見が出され、今後この分野の重要性を痛感しました。

糖尿病診療における2つのベクトル
 今回の学会は、糖尿病の病態や疾患に関する新しい知見、それらの治療への応用などの糖尿病学の進歩とともに、実践するときに必要な糖尿病患者さんへのケアという、かけ離れていますが糖尿病の新たなステージには欠かせない2つの大きな問題をなげかけてくれました。

このページの先頭へ