DIABETES NEWS No.86
 
No.86 2005 May/June

さまざまな経口糖尿病薬
 経口糖尿病薬はインスリン分泌促進薬、インスリン抵抗性改善薬、食後高血糖改善薬に大別することが出来ます。日本糖尿病学会編の「治療ガイド」にはそれぞれの経口薬の作用、特徴、使用上の注意点などが簡潔にまとめられています。また、「診療ガイドライン」にはエビデンスとなった報告、文献とともに指針がステートメントとしてコンパクトに示されています。患者さんの高血糖の程度、インスリン分泌低下の程度、インスリン抵抗性の有無などを勘案して、どう使い分けて、よりよいコントロールを達成するかは、医師の腕のふるいどころといえます。

病態に応じた経口薬の使い分け
 空腹時血糖値はあまり高くないけれども、食後高血糖が目立つような患者さんには、αグルコシダーゼ阻害(αGI)薬と速効型インスリン分泌促進薬がよい適応です。両者の使い分けには、副作用の有無や忍容性などがポイントになると思います。
 インスリン抵抗性が目立つ患者さんには、ビグアナイド薬とチアゾリジン薬がよい適応です。これらの使い分けも、実際に効果があるかどうかとともに副作用の有無が大切なポイントです。
 スルホニル尿素(SU)薬は、血糖低下作用が強力であり、空腹時血糖が高く、コントロールが不十分な患者さんには、もっとも効果が期待できる薬です。SU薬は他の経口糖尿病薬に比べて、用量の幅が広いことも特徴です。SU薬の使用にあたっては、思わぬ低血糖を避けるためにも少量から開始する方が安全です。血糖値が高いからといって、中用量や高用量から開始するのは慎重にすべきです。SU薬と速効型インスリン分泌促進薬はともにSU受容体を介して作用するため、併用については意味がなく、認められていません。

経口薬治療の効果をあげるために
 経口薬による治療がよりよい効果をあげるには、食事療法と運動療法の実践が何よりも大切です。コントロールが不十分な場合、経口薬の用量を増やしたり、他の作用機序をもつ経口薬の併用へと進むのが一般的ですが、常に、食事療法と運動療法を実践しているか再検討すべきです。食事療法と運動療法を実践しているにもかかわらず、経口薬の効果が不十分な場合には、漫然と経口薬治療を続けず、インスリン治療への切り替えを躊躇しないことが大切です。
 


小児思春期糖尿病というカテゴリーはなぜ必要か
 小児および思春期に多く発症する1型糖尿病は、小児科領域でも内科領域でも患者数が多くはありません。インスリン治療に精通する知識が医療側に十分に必要とされること、治療が患者の成長とともに診療科が小児科から内科にキャリーオーバーしていくこと、糖尿病性合併症が18歳以降に発症してくることなどから、これまで地域によっては内科医が中心に診療し、またある地域では小児科医が中心に診療してきた歴史があります。

診療科や職種を超えてのディスカッションの場の必要性
 小児期に発症あるいは思春期に発症したとしても、その後の長い人生をインスリン治療による良好な血糖コントロールとともに、十分に満足のいく人生を歩んでいただくことが、患者さんはもとより我々医療者の究極の目標です。
 しかし、小児科医は糖尿病性合併症に精通する機会が乏しく、一方で内科医は多くの大人の2型糖尿病の治療に精通している関係上、糖尿病性合併症には小児科医より精通する機会が多いということがあります。一方、小児科医は成長する子どもの診療には慣れていますが、合併症が発症してくる年代には小児科医の手を離れていることが多く、小児科時代の血糖コントロールのアウトカムを知り得る機会が乏しいのも事実です。
 また、各地区サマーキャンプや全国規模の1型糖尿病患者さんの集会もありますが、全国規模で、小児期思春期や20代の1型糖尿病や2型糖尿病の患者さんのQOLの改善のために、どのようにしていったらよいかのコンセンサスを得る機会が多くの主治医に乏しいのも、今の日本の現状でもあります。

小児思春期糖尿病研究会の趣旨
 そこで、小児・思春期(ヤングともいう)1型糖尿病の診療に携わる医療者やコメディカルがともに集まって意見の交換をしようという趣旨の会が発足し、「小児糖尿病カンファランス」として、長らく開催されてきました。1993年に発表されたDCCT以後、ますます1型糖尿病の血糖コントロールの重要性が見直されて、この会は1995年から「小児思春期糖尿病研究会」として新たに出発することとなり、今年11年目を迎えます。
 第11回の小児思春期糖尿病研究会は7月17日(日)、東京コンファランスセンター・品川で開催されます。東京女子医科大学糖尿病センターの内潟が代表世話人としてお世話することになりました。

今年の会の趣向
 今年の会は、10代や20代で発症してくる2型糖尿病にどのように対処していくかという点、大人になっていく小児期発症1型糖尿病の患者さんのヤングの会の現状、さらに東京慈恵会医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科田嶼教授による小児期発症1型糖尿病の予後について、世界的視野での状況と日本の現状、さらに予後の未来について特別講演をしていただくことにいたしました。
 


盛会だった会場
 今年の「糖尿病学の進歩」は第39回を迎え、山形大学教授富永真琴会長のもとに2月18日、19日の2日間仙台で開催されました。数日前に降った雪も積もっており、東京から来てみると北国らしい風情が感じられました。会場は美しい欅並木を通り抜けた公園内にある仙台国際センターです。
 参加者数は初日の夕刻で約3000名と伝えられていましたが、糖尿病療養指導士制度も第1回目の更新時期を迎え、多数のコメディカルの参加者が目立ちました。会場はどこもほぼ満席であり、展示会場もにぎわっていました。
 各会場入り口では、参加者にアンケート用紙が配布され、各々の講演が理解しやすかったかなどを評価するシステムが取られていました。忙しい中で時間を割いて参加している医療従事者側の立場に立てば、このようなフィードバックによって、今後の満足度の高いプログラムに活かそうとする姿勢は大変望ましいと思います。次回は来年2月に金沢で、次々回は少し早めの来年の秋に札幌で開催される予定です。

「心血管疾患への挑戦」
 今回のテーマは「糖尿病治療の新時代・心血管疾患への挑戦」であり、ほぼ全てのプログラムがこのテーマを基軸として構成されていました。テーマを絞って多角的にシンポジウムやレクチャーが組まれていたことから、この分野での論点が網羅されており、知識を整理するには極めて充実した内容でした。
 糖尿病の日常診療において、神経障害、網膜症および腎症の管理は当然ですが、さらに特に注意を払う必要があるのは、狭心症、一過性脳虚血発作、ラクナ梗塞、下肢閉塞性動脈疾患などの動脈硬化性疾患の予防です。血糖コントロールは必要条件ですが、十分条件ではないことがどの会場でも繰り返し強調されていました。このような動脈硬化性疾患は生命予後に直接影響するだけでなく、日常生活の質や国民医療費に大きく響いてきます。糖尿病診療に携わる医療従事者は HbA1Cだけでなく、血圧、脂質管理の重要性をよく理解している必要があります。その意味ではこのような話題は何度強調されても多すぎることはないでしょう

新しい知識とこれまでの知識の整理
「糖尿病専門医に必要な心血管疾患の診断に関する検査」では、BNP が心不全のマーカーであるだけでなく、同時に炎症マーカーとしても意義を有するという興味深い発表や、外科手術後に併発する肺塞栓の予知マーカーとしてフィブリンモノマーが非常に優れており、実際に外科手術前に測定すると予知感度は TAT 以上であったという新しい報告などを伺いました。また、研究者向けのレクチャーではアディポサイトカイン、SREBP などのレビューがあり、知識を整理するためによい機会でした。
 糖尿病学会年次学術集会とは異なり、極めてコンパクトに運営されていることから、「糖尿病学の進歩」という名称にある通り、糖尿病の知識の Up-date には大変適した会であると感じました。

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