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2002年に「糖尿病」に発表されました「科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン」から約2年。日本糖尿病学会では最新の文献、新しいエビデンスを積極的に検索し、さらにいくつかの新しい項目を追加し、本年5月に開催された日本糖尿病学会の折に単行本として新たに出版しました(南江堂)。
◆ 糖尿病診療ガイドラインの改訂
2004年版「診療ガイドライン」では、はじめに「糖尿病診断の指針」の項が付け加えられ、1999年に改訂されました診断と分類に関する内容がまとめられました。さらに、「糖尿病合併妊婦と妊娠糖尿病」、「小児・思春期糖尿病」、「高齢者の糖尿病」が加わり、ライフステージ別の診療ガイドラインが整いました。「糖尿病の療養指導」の項では、患者教育、チーム医療、療養指導士制度、血糖自己測定の有用性などについての EBM がまとめられています。最後に、「糖尿病の発症予防」の項を設け、最近の一次予防の試験成果をふまえて解説を加えています。これらの記述の大幅な増加によって、充実したガイドラインとなりました。
◆ 新項目の追加で充実した内容に
診療ガイドラインの作成は、糖尿病診療の質の向上につながるものでなければなりません。各項目ごとに簡潔なステートメントにまとめられていますが、それぞれの勧告の強さ(グレード)と根拠となった文献(エビデンス)のレベルも参考になります。多くの文献のエッセンスをまとめた解説文とアブストラクトテーブルは、忙しい診療の合間にも読んでいただくのに便利です。
◆ ガイドラインをどう活かすか
しかし、本ガイドラインで取り上げられているエビデンスの多くは海外のデータであること、すなわち人種差や体格差(BMI の著しい違い)、薬剤の用量の差などに留意しなければなりません。今後、日本における糖尿病診療に関するデータ(エビデンス)に基づいたガイドラインの改訂を進める必要があります。
東京女子医科大学創立百周年事業として総合外来センターがオープンし、早いもので一年がたちました。一つの外来として均整の取れた質の高い医療を提供する目的で、すべての診療科が総合外来センターに統合されました。さらに電子カルテが導入されて、それまでの診療科目ごとに異なっていた診療情報をオンラインシステムで共有できるようになりました。
◆ オープンは2003年7月22日
従来の糖尿病センターは、糖尿病代謝内科、糖尿病眼科、血糖測定、生理検査、放射線、薬剤部、会計が一つのフロアで完結することができる日本で初めての施設でしたので、総合外来センターに統合されることは、患者様に不便をかけることになるのではないかと大変心配していました。総合外来センターの準備期間から、医局員は毎日のようにどのようにしたら患者様の動線が少なく、より良い医療サービスを受けられるか話し合っていました。日曜ごとの、患者様になりきってのリハーサルも今では懐かしい思い出となりました。
◆ 糖尿病センターの特色を活かして
オープン直後は総合外来センターのシステムに患者様も医師も慣れないため、慎重を期して、予約数を減らしたり、通路に人を配置するなど行っていました。患者様からは、診療までの動線が長くなった、電子カルテ導入により医師の操作に時間がかかり待ち時間が長くなった、番号制で表示が見にくいなど、さまざまなご意見をいただきました。
一方、時間がたつにつれ、新しくきれいで気持ちがよい、他科との併診が手続き的にも距離的にも楽になった、静かで落ち着いているなどのコメントもいただけるようになりました。医師が電子カルテシステムの操作にも慣れてきたこと、少しずつですが外来のシステムを簡便化することにより、患者様も糖尿病センターの時代とほぼ同じ人数診察ができるようになりました。
電子カルテは、真正性、見読性、保存性の確保という三原則に基づき導入されています。実際に、他科で行われた検査を閲覧でき、診察や投薬内容も手紙を書かなくても電子カルテ上ですくにわかるようになり、情報を患者様と共有できるようになりました。
◆ 電子カルテの利点
糖尿病が国民病と呼ばれるまでに多くなった今、三大合併症ばかりではなく、あらゆる疾患を合併する頻度が高くなって来ていますので、糖尿病の患者様にとって総合外来センターの理念は時代にあった進歩と言えるでしょう。医師側からは、予約や会計にまつわる仕事が増えたこと、まだまだ操作の簡便化が必要なことなど問題があり、漸次改良している段階です。
糖尿病センターでは、毎月1回、外来および病棟の各部門の代表が集まり問題点を出し合い、解決策を話し合っております。まだまだ改善すべき点が残っておりますので、患者様の意見を多く取り入れ、よりよい総合外来センターを作っていきたいと思います。
◆ 糖尿病センターのさらなる充実のために
我が国の医師数は、人口10万人対200人を超え、医師供給体制は量的な面で充足されてきました。しかし、地方における医師不足、小児医療体制の不備等の問題に加え、医療機関における事故が絶えないことなどから、昨今国民の医療安全に対する信頼が揺らいでいます。その一方で、医師に対して、多様な診療科と地域保健・医療等の素養が備わっていること、医療に向けられる意識やニーズの変容に的確に応えられることなどが求められています。これらを踏まえ、このたび、36年振りに臨床研修制度の抜本的な改革が行われ、2004年4月から新制度が導入されました。新研修制度は、"医師と患者及びその家族との間で十分なコミュニケーションをとった上で総合的に診療できる医師を育成すること"、また、医療の基本として"医療安全への配慮が身に着いた医師の育成"を目指しています。
◆ 臨床研修制度改革の背景
新制度では、臨床研修病院が研修医を全国的に公募し、研修希望者が主体的に研修病院を選択し、研修病院が行う試験(試験内容は病院により異なるが、女子医大では、筆記と面接)を受験し、研修先が決定されます。研修医の身分と待遇はそこで保障されます。研修時間は1日8時間、週5日勤務が原則ですが、その詳細は各診療科に一任されます。現実には例年通りの就業状況と大差ありません。一方、新制度では、研修終了後の入局者確保という点では確実性がないため、実際に指導する医師の側に戸惑いがあることは否めません。また、研修医と指導医の両者が独立してその研修内容を研修中・終了後に、卒後臨床評価システム(Evaluation system of Postgraduate Clinical Training : EPOC)に沿って評価することになっています。
◆ 新制度の実際
新研修システムが開始され、早や、3ヶ月が経過しました。新システムは、いまだ流動的な事項もあり、その都度、フレキシブルに対応せざるを得ず、病棟医一同手探りで前進中といえます。このような混沌の中、先ごろ糖尿病センターをローテートした4名の研修医が第一期の研修を終了しました。当初の1ヶ月間は、全体のオリエンテーション等に充てられたため、実質的な研修期間はたった2ヶ月でしたが、4組のペア("研修医―指導医")とも、よく学びあえたのではないか思っております。本制度は、我々指導する立場の者に対して、研修医の意欲、向上心、使命感を昂揚させるような指導法を考えさせられるものであり、また、教えつつ自分も学ぶことの重要性を再認識させるものでもあります。
◆ 第1期を終えて