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No.81 | | 2004 July/August |
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第47回日本糖尿病学会年次学術集会の初日、私は「糖尿病センターにおける臨床と研究」と題して、会長講演を行いました。まず初めに、私自身が糖尿病の臨床医として学んできました総合内科 (東大第三内科)、内分泌代謝科 (自治医大)、そして糖尿病センター (東京女子医大) における30年余の歩みを振り返るとともに、多くのことを学ぶことができた異常インスリン血症の症例に関する研究を紹介しました。
次に、わが国の医科大学で唯一の糖尿病センターとして1975年に開設された東京女子医大糖尿病センターの沿革を述べ、糖尿病患者さんの初期治療から重症合併症に苦しむ患者さんまでトータルケアをめざして発展してきた診療体制を紹介しました。すなわち、糖尿病一般診療のほか、眼科、小児・ヤング、腎症、妊婦、フットケア、肥満・高脂血症、神経障害などの専門外来をもち、緊密なチーム医療体制を確立し、外来患者数1日400名、定期通院患者数約15,000名、入院患者数年間1,200名に及ぶわが国随一の診療実績の一端を報告しました。
臨床研究においては、1型糖尿病患者の良好な治療成績、1,000分娩を超えた糖尿病妊婦、内科との緊密な連携により良好な成績を達成している網膜症治療、血液透析・CAPD・腎移植の多数例の治療成績、QOL の著しい改善を果たした膵移植症例、切断にいたった足壊疽症例の背景因子の分析、さらに当センターにおける糖尿病患者さんの死因調査など長年に亘るセンターの臨床実績を報告しました。
長年に亘る MODY 症例の遺伝子に関する研究成果と罹患同胞対法を用いた2型糖尿病の疾患感受性遺伝子研究の歩み、さらに糖尿病性腎症の疾患感受性遺伝子の一つを同定した最新の成果についても紹介しました。
このように当センターでは各分野で膨大な臨床データが蓄積されています。今後データベースの構築をより一層進めるとともに、データマイニングの手法を駆使して新たな発見を目指す糖尿病センターの臨床研究の展望を述べて結びとしました。
学会が多くの参加者を得て盛会裡に終えたことを心から感謝いたします。
第47回日本糖尿病学会年次学術集会は、5月13日~15日の3日間、東京国際フォーラムをメイン会場に開催されました。幸い3日間とも"学会日和"に恵まれ、史上最多の8,500名を超える多くの医師・研究者・コメディカルスタッフの参加を得て、盛会裡に終了しました。学会の準備・運営を担当した糖尿病センタースタッフ一同ホッとしているところです。合計1,565題もの演題の発表と活発な討論が行われましたので、参加者の方にはそれぞれ多くのものを学んでいただいたものと思います。
岩本安彦会長は、「糖尿病センターにおける臨床と研究」と題する会長講演の中で、糖尿病患者のトータルケアを目指し、メディカル・コメディカル一体となってチーム医療を実践している東京女子医大糖尿病センターの幅広い臨床の実績と臨床に根ざした研究の成果を報告されました。
特別講演の演者として海外からお招きした Bell教授、Todd教授は、それぞれ2型糖尿病と1型糖尿病の遺伝因子を中心に、最新のデータを交えてご報告いただき、ホールAを埋めた多くの聴衆に大きな感銘を与えました。浅島教授は「器官形成と形づくり」と題して、哺乳類における膵臓、腎臓、心臓など重要な臓器の器官形成に関する最先端の研究成果を発表され、再生医療への臨床応用が間近いことを示されました。3名の先生方の特別講演は、まさに「根治の時代への扉を開く」とした学会のメインテーマにふさわしい素晴らしいものでした。
シンポジウム、ワークショップ、プレナリーレクチャー、パネルディスカッション、教育講演では、糖尿病学の基礎ならびに糖尿病の臨床の分野で現在もっとも注目されている重要なテーマを取り上げました。座長と演者の先生方には、それぞれのテーマのねらいをよくご理解いただき、最新のデータの発表と活発な討議が行われました。
今回の学会では、30名を超える海外招待演者の発表があり、国際色も一段と豊かになりました。
口演、ポスター会場でも、熱心な討議が行われましたが、年々コメディカルの参加・発表が多くなってきました。
学会3日目の夕方に行われた市民公開講座では、国際フォーラムホールAを埋めた多くの参加者が最後まで熱心に聴講しました。
葛谷 健先生は糖尿病の治療の進歩についてわかりやすく話されました。キャスターの小倉智昭氏は、「糖尿病はお友達」と題する特別講演の中で、インスリン治療を行って、よいコントロールを保っているご自身の経験を中心に熱心に話され、多くの聴衆に勇気を与えました。
「北原白秋を唱う」と題する第2部では、錦織 健さん、名古屋木実さんの素晴らしい歌声にすべての人々が魅了されました。皆様のご協力、ご支援によって、記憶に残る市民公開講座になりました。
学会期間中に合計33のランチョンセミナーとイブニングセミナーが開催されました。これらのセミナーは学会抄録集にくわしく掲載されていませんので、ここでその模様を報告いたします。
入場整理券を早朝(第1日は7:30、第2日と3日は7:45)より発行しました。大きな混乱もなくひとり1枚あて整理券を発行でき、3日間とも10時すぎにはすべてではらってしまいました。
Continuous glucose monitoring system (CGMS)、それをさらに改良した closed loop のモニタリング、人工膵臓の進歩、種々の SMBG デバイスの大規模調査による比較研究の発表にはメデイカル、コメデイカルともに人気があったようです。医療者と患者では評価する基準に相違があることがはじめてあきらかとなりました。
食後高血糖、食後高脂血症、大血管障害、それへの介入の仕方、薬剤の使い方に関するセミナーも数多くありましたが、いずれの会場も満員で、多くの参加者に興味をもたれました。
糖尿病性腎症の進展阻止は糖尿病診療に従事する者の究極の目標ですが、レニンアンギオテンシン系からの最近の知見を交えたセミナーにも多くの参加者がありました。
合併症の発症機序の分子生物学的解明が進み、治療薬の開発に着手していることは学会のシンポジウム『新薬の最前線』でもとりあげられましたように、イブニングセミナーでも高い関心を集めました。
また、昨今話題となっている境界型の心血管系への影響に関するセミナーにはランチョンセミナーでもそうであったように、多くの参加者が集まりました。心血管系合併症は、日本の糖尿病患者あるいは予備軍といわれる群の合併症として特に QOL に直結するものですが、2004年の時点の参加者の高い関心度の一面をみたような気がしました。
展示会場はポスター会場のとなりに位置していたためか、多くの参加者の通り道、ブースへの寄り道となりました。3日間とも多くの参加者が展示会場に足を運ばれました。
今回は糖尿病センター自身も会場入り口の左側にブースを開設しました。書籍とともに、糖尿病センターの沿革、2型糖尿病における死因の推移、発症年齢ごとの30歳未満発症若年糖尿病患者数、経口糖尿病薬の治療状況、網膜症の5年良性化率、末期糖尿病性腎不全の治療状況、耐糖能異常合併妊婦の分娩数の年次推移、フットケア外来の疾患数の各パネルが展示されました。
今学会を記念して作成された「糖尿病と上手につきあうために」と題する患者教育用 PDF ファイルも展示され、好評でした。糖尿病センター英文パンフや Diabetes News もバックナンバーをそろえ展示されましたが、多くの参加者に興味深く読まれ、持って帰っていただきました。