DIABETES NEWS No.8
    No.
     1986 
     WINTER 
 

 完成間近となりました東京女子医大糖尿病センターの新しい建物は、現在の外来から道路を挟んで斜め前に全容を現しました。新しいセンターは、昭和62年3月23日オープンの予定で、現在、内部の整備が急がれています。
 このセンターの建物は、今から13年前に構想されたものですが、完成は今日になりました。また、糖尿病センターそのものの発足から11年余りが経過しました。
 糖尿病センターの必要性を、ひとことでいえば、病気にかかっていても、より充実した人生を求めたいという願いを、少しでも満たすためであるといえます。一病息災という言葉の実践のためともいえます。きざな表現ですが、英語の quality of life を高めるための方法を求め、実行するために、このような施設が求められたともいえます。
 血糖コントロールその他の方法によって、合併症を防ぐための患者さんとのチームワーク、合併症の重症化を防ぐための各専門家を混じえたチームワーク、さらに進展してしまった合併症を持つ患者さんの quality of life の向上、各種の人生と各種の複雑な治療を要する病態を持つそれぞれの患者さんと闘病して行くチームワーク、と考えてみますと、内科のみならず、眼科、小児科、産婦人科と、数えあげると実に各種の専門医、看護婦、栄養士、その他多くの人々の存在が必要となります。これら専門家の活動する場、さらに充実した患者さんの教育や入院の場が求められることになります。
 13年の遅れは、それだけの長い間の経験と科学の進歩を取入れるためには、むしろプラスとなったかも知れません。今度の新建築で、今まで患者さんに負担して頂いた空間的な狭さによる御迷惑のお詫びが少しでも出来れば幸せであると思います。それにつけても、皆様からの御意見、御忠告を頂いて、よりいっそうの改善をして行きたいと念願しています。
 


血糖値が高いと重症になリやすい
 寒さに向かいますと、呼吸器感染症がふえてきます。一般に糖尿病患者は、感染症を起こしやすく、重症になりやすいといわれます。感染症が引き金になって、糖尿病状態が急激に悪化し、糖尿病昏睡を引き起こすことが20~30%もあると報告されています。尿路感染症を併発したため急激に腎機能が悪化して、透析療法の導入を余儀なくされるケースも増えています。このような点から、糖尿病患者の感染症は、出来るだけさけなければなりませんし、早期発見、早期治療に努めなければなりません。
 感染症を予防するために一番大切なことは、良好な血糖コントロールです。血糖値が 200mg/dl 以上になると、白血球の貪食能や遊走能及び免疫能の低下が起こり、細菌に対する生体の防御機能が低下して、感染症をおこしやすく、また重症化しやすくなると考えられています。

治療対策のたて方
 重症な感染症を併発しますと、インスリンが効きにくくなって、血糖が直ちに上昇し、コントロールが乱れます。発熱や脱水が加わりますと、症状は悪化してケトーシスを起こしやすくなり、敗血症の危険も考えられます。こんな場合には、直ちに感染症の治療とともに、輸液(まず生理的食塩水で)と速効型インスリンの少量持続点滴注入を行わなければなりません。
 感染症がそれほど重症でない場合でも、決して軽視してはなりません。やはり、即刻感染症の治療と同時にインスリン皮下注射を行って、すみやかに、血糖を出来るだけ正常近くにコントロールする必要があります。
 感染症がさらに軽症で、急性炎症症状を伴っていない場合には、血糖コントロールに十分注意しながら感染症の治療を加えて様子をみることが出来ます。

インスリン治療の注意点
 感染症で、悪心や嘔吐などの消化器症状が出現したために食欲がなくなった場合に、今まで毎日行っていたインスリン注射を勝手に中断してしまうことは、大変危険です。こんな時には、脱水と感染症のために血糖コントロールは悪化しているはずですから緊急対策を必要とします。血糖自己測定が出来るならば、その値を主治医に連絡して、適切なインスリン量を指示してもらうことが大切です。また、日頃から感染症にかかった時のインスリン注射の増量法を、主治医に教えてもらっておくことも大切です。
 糖尿病における感染症の治療は、適切な栄養、インスリン治療、抗生物質による治療の3つを、適切にかつ強力に行うことが必須です。
 


食事療法に始まり、食事療法に終わる
 糖尿病患者にとって何が最もつらいことかといえば、それは「食事療法を一生涯続けなければならない」ということでしょう。糖尿病の治療は、極言すれば「食事療法に始まり、食事療法に終わる」ものだとさえいえます。しかし、その食事療法は、いってみれば「いままでの悪い習慣を改めよう」というものですから、何らかの苦痛を伴わないはずがありません。

治療に対する動機づけ
 したがって、患者がまず、自分自身で「なぜ食事療法をしなければならないのか」ということを実感し、自分の意思でそれを実行に移すのでなければ、長続きしません。「医師から指示されたので、やらないわけにはゆかない」というような受け身の姿勢では、食事療法は決してうまくゆかないものです。
 食事療法への動機づけのためには、「糖尿病とはどういう病気なのか」「ほっておいたらどうなるものか」「どのように治療すればよくなるか」ということを、患者に十分理解してもらう必要があります。運動療法の動機づけについても、全く同じことがいえます。ここに患者教育(学習)の意義があるのです。

知識を行動に移す患者教育
 患者教育は、ただ知識をつめこめばよいというものではなく、まして、分かっても分からなくても、一定のスケジュールで、一方通行の講義をすればよいというものでもありません。
 知識教育は、患者が「どうしても知っていなければならないこと」「どうしても実行しなければならないこと」だけを勉強してもらえば十分であり、むしろ、「学んだ知識を生活態度の中にとりいれ、行動に移す」指導の方がはるかに大切です。患者が医療側の指示を実行に移すにあたって、どういうことに困難を感じているかを聞き出し、親身になって一緒に工夫することが、患者教育の出発点となります。

糖尿病センターの患者教育
 東京女子医大糖尿病センターでは、外来において、随時、医師、ティーチングナース、栄養士などによる患者教育を行うと同時に、1週間のスケジュールによる教育入院制度を設けています。教育入院では、主治医による個別指導とともに、毎日、昼食時に栄養士による食事指導や糖尿病教室を開いて、必要な知識教育を行っています。明年3月の新センター開設を機に、教育入院ベットを増やし、また、患者が在室のまま、専用チャネルによる教育ビデオを見て何時でも勉強できるようにする予定です。

このページの先頭へ