DIABETES NEWS No.77
 
No.77 2003 November/December

5年振りの糖尿病実態調査
 このたび、昨年秋に実施された、糖尿病実態調査の速報が厚生労働省より発表されました。それによりますと、「糖尿病を強く疑われる人」が約740万人、「糖尿病の可能性を否定できない人」が約880万人と、平成9年の調査に比べて、それぞれ50万人、200万人増えていることが明らかとなりました。この調査では HbA1Cの値をもとに、6.1%以上を「糖尿病が強く疑われる人」、5.6%以上6.1%未満を「糖尿病の可能性を否定できない人」(予備軍) と判定したものです。前回の調査に比べて、とくに軽症の段階にある人達の増加が目立ちます。

高齢化社会と糖尿病人口の増加
「糖尿病が強く疑われる人」のうち、現在糖尿病の治療を受けている人の割合は、約50%であり、5年前の調査に比べて若干、その比率は増えたものの、まだようやく半分という状況には変わりありません。とくに、「糖尿病が強く疑われる人」のうち、健診を受けたことがある人では、約55%が治療を受けていますが、健診を受けたことのない人では、約10%しか治療を受けていないことが明らかになりました。
 今回の調査結果を年齢階級別にみると、男女ともに、60歳以上で「予備軍」の増加が目立ちます。高齢化社会がますます進んでいるだけに、高齢者における「予備軍」の増加は、大きな問題です。

糖尿病の情報はどこから入手?
 糖尿病の予防や治療に関する情報源についても興味深い結果が得られました。情報源のトップはテレビ・ラジオで、男性では 64%、女性では 74%の人達が糖尿病に関する情報をテレビ・ラジオから得ていると回答しています。次が新聞であり、病院・診療所と答えた人は男性で 26%、女性で 21%でした。
 糖尿病に関する知識に対する認識も調査しています。「正しい食生活と運動習慣は糖尿病の予防に効果がある」を正しいと回答した人は 94%ともっとも多かったのに対し、「太っていると糖尿病になりやすい」を間違っていると回答した人は 24%に達していました。
 今年も糖尿病週間を迎えます。医療人は、あらゆる機会を通じて正しい知識を普及させる努力を傾けなければなりません。
 


 3年に1回開催される国際糖尿病連合 (International Diabetes Federation, IDF) 会議は、本年8月24-29日にパリの国際会議場で開催されました。「基礎研究」、「ホルモン代謝」、「1型・子ども・妊娠」、「2型・肥満・インスリン抵抗性」、「合併症」、「治療」、「糖尿病ライフ」、「ヘルスケア」、「糖尿病教育」に別れてプログラムが進みました。「糖尿病ライフ」にはもっとも多い4つの会場があてられていました。
 IDF には前半だけ参加して、その後フランス・ブルターニュ地方のサンマロで開催された国際小児思春期糖尿病会議 (International Society for Pediatric and Adolescent Diabetes, ISPAD) にも前半だけ参加しました。この会議では1型糖尿病の成因研究と予防研究、合併症、インスリン治療、治療の質のコントロール、2型糖尿病の疫学などに亘って討議が行なわれました。

1型糖尿病の成因について
 日本の1型糖尿病の発症率はほぼ一定ですが、北欧では直線的に増加しており、この原因の究明に昨今力が注がれています。日本では1型糖尿病は2型糖尿病に比べて遺伝的背景はとても少ないのですが、北欧ではそうもいえなくなってきているともいえましょう。特に父親が12歳以下で1型糖尿病を発症した場合、子どもに1型糖尿病をより発症しやすいという結果がでています。また、環境因子として、たとえば生後3か月までにグルテン含有の食物に曝されると1型糖尿病特異的自己抗体が陽性になりやすいという結果もでました(HLA3/4を持つ場合はさらに頻度上昇)。
 もっと大局的立場に立って遺伝的背景を眺めてみますと、公衆衛生が昔と比べて良くなってくるにつれて外界に対して我々の防御機構は低下していることが考えられ、このことがたとえば1型糖尿病のような疾患の発症率を増加させていることも窺えるようです。

1型糖尿病の予防について
 この研究ではアメリカが群を抜いています (DPT-1) 。1型糖尿病患者さんの兄弟など近親者に対して、インスリンの皮下注射やインスリンの経口投与によって1型糖尿病の発症を予防しようと積極的に前向き試験が行なわれましたが、残念ながらいずれも否定的な結果に終りました。しかし、世界中の研究者たちはインスリン以外でなにか良い予防薬がないかと、精力的に模索しています。

インスリンポンプと頻回注射の比較
 海外では子どもでもインスリンポンプ使用者は10-20%を占めます(3ml のカートリッジをそのまま使用する小さいポンプ機器も展示されていました)。ところが持効型インスリン(日本でもたぶん年内には市場に出てきます)が登場して以来、ポンプ療法と頻回注射療法の比較が多く行なわれるようになっています。発表はいずれも両者の血糖コントロールや低血糖の頻度には差がない、というものでした。
 


細胞を異常増殖させる因子
 糖尿病においては増殖網膜症にいたりますと、新生血管が失明という大きな損失をもたらします。これらの"異常な増殖"を誘導しているものは何か? これまで世界中の多くの科学者によって探究されてきました。その結果、VEGF (血管内皮増殖因子) や HGF (肝細胞増殖因子) 、その他いくつかの増殖因子が関与していることが判明しました。

新生血管増殖を逆手にとる
 新生血管増殖を阻止すべく、臨床ではこれまでいくつものアプローチがなされてきました。一方、新生血管増殖を"悪いもの"として対処してきた風潮のなかで、米国のタフツ大学教授はこれを逆手にとって、血管増殖に関連する因子が下肢潰瘍に効くのではないかと考え、『コロンブスの卵』的発想でこれを実行しました。突然思いついたのではなく、虚血状態にこれらの因子を使用すると新生血管が産生され増殖することを基礎的な動物実験で確認したのです。潰瘍の治癒促進とともに高度虚血肢の治療への可能性を実証したのです。この治療は本邦ではパテント使用などの問題があり、順調に進みませんでした。その間に大阪大学で肝硬変に対する HGF の研究から、この因子が下肢虚血にも有効であると報告されました。本年末には HGF を用いた臨床応用へ大きく進むことが計画されています。

画期的な治療の発見 ―骨髄細胞―
 遺伝子治療とは別の革新的な治療も報告されました。患者本人の骨髄細胞の中に、末梢血管を導くような細胞と血管新生をおこす細胞が存在することが解明されたのです。この治療はすでに多数の施設で行われ、高度先進医療のひとつとなりました。
 麻酔下で採取された自己の骨髄細胞から、単核球を取り出し、虚血下肢へ筋肉注射しますと、新生血管が形成されます。また末梢血からも造血幹細胞だけを採取することが機器の発達により可能となり、さらに多くの患者さんへの応用門戸が開かれました。

切断から再生へ
 従来、血行再建術の適応外であった高度下肢血流障害の治療は下肢切断が殆どでありました。糖尿病に合併した下肢血流障害の患者さんが増加している今日、これらの斬新な治療法は"なんにでも効く"ような響きを持ちますが、やはり適応外や無効例もあります。正しい知識の習得と動脈硬化症を進行させないような日々の努力がもっとも大事であります。

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