DIABETES NEWS No.75
 
No.75 2003 July/August

第46回糖尿病学会総会は盛会裡に終了
 第46回日本糖尿病学会年次学術集会は、5月22~24日、小林正会長(富山医科薬科大)の下、富山市で開催され、盛会裡に終了しました。総会では、最先端の基礎的研究から療養指導に関するさまざまな問題まで、幅広いテーマが活発に議論されました。総会へのコメディカルの参加も年々増加しています。

第47回総会の準備を進めるにあたって
「糖尿病根治の時代への扉を開く」―これは昨年の日本糖尿病学会評議員会で、第47回年次学術集会の会長に指名されて、来年の総会が糖尿病患者さんにとって新しい時代への幕開けとなればとの期待を込めて考えたキャッチフレーズです。
 糖尿病患者さんが置かれた状況の歴史は、古くは昏睡の時代、感染症の時代を経て、今は長く続く「合併症の時代」から抜け出せないでいます。昏睡の時代はインスリンの発見によって、感染症の時代は、抗生物質の発見によって、それぞれ脱却することに成功しました。
 現時点における糖尿病治療の目標は、特有の細小血管症を予防し、併発しやすい大血管症を予防することによって、糖尿病をもたない人と同様な生活の質 (QOL) を保ち、寿命を全うすることにあります。「合併症の時代」に別れを告げることができるような大きな成果が発表、論議される学術集会にしたいと願っています。
 糖尿病とその合併症の発症機序・遺伝因子・病態・治療および予防、糖尿病の療養指導・患者教育など幅広いテーマについて、特別講演、シンポジウム、ワークショップ、教育講演などを企画し、参加者の幅広いニーズに応えるように準備を進めて参ります。

糖尿病患者さんとともに
 このたび、第47回総会に向けてポスターを作成しました。糖尿病患者さんを中心に医師・コメディカルが手を差しのべてともに新しい時代へ向かうイメージを表現しています(こちらをご参照下さい)。
 


全国調査の目的
 現在、日本糖尿病・妊娠学会(理事長:大森安恵)では全国約800の日本産科婦人科学会専門医研修施設を対象に糖代謝異常妊娠の全国調査を行っています。
 この調査は、糖尿病と妊娠に関する分野における先駆者である当センター前所長の大森安恵先生により1976年以後5年毎に行われてきた糖尿病妊婦の全国調査を引き継いで行われることになったもので、わが国における糖代謝異常妊娠の実態を知ることができる貴重な全国調査です。

これまでの調査からわかったこと
 1976年大森らはわが国における糖尿病妊婦の実態を知ることを目的に、はじめて全国の200床以上のベッドを有する病院を対象にアンケート調査を行いました。その結果、糖尿病合併妊婦では周産期死亡率 (10.8%)、児奇形 (5.7%) や低血糖 (13.6%) などの新生児合併症が高率であることが判明し、妊娠時の糖尿病治療を厳格に行わなければならないことが再認識されました。
 その後、計5回の調査が終了し、1971年~1995年の結果が大森により報告されました。周産期死亡率は5回目には 2.2%と1回目より改善しましたが、児の奇形は 6.7%と変わりなく、妊娠前から血糖コントロールを良い状態に保って妊娠にそなえる計画妊娠の徹底に取り組まなければならないことが明らかになりました。

なぜ妊娠が糖尿病と関連するのか
 妊娠時には胎盤で血糖値を上げやすいホルモン(インスリン拮抗ホルモン)が産生されるため、血糖値が上昇しやすくなります。糖尿病体質の妊婦さんでは、妊娠初期から末期にいくにつれて膵臓のインスリン産生が多くなり、血糖値が上がらないように調節されています。しかし、妊娠前から糖尿病のある場合には妊娠中に糖尿病が悪化し、糖尿病になりやすい体質をもった妊婦さんでは妊娠中に血糖値が上昇してきます。
 このように妊娠中の糖代謝異常(血糖値が高くなる状態)には、妊娠前から糖尿病があって妊娠した場合(糖尿病合併妊娠)と、妊娠中に発症あるいは初めて発見された場合(妊娠糖尿病)があります。

今調査で明らかにされること
 現在行われている全国調査では以前の調査と異なり、「糖尿病合併妊娠」と「妊娠糖尿病」の両者について調査を行っています。
 事務局は当センター(産科側世話人:豊田長康‐三重大学産婦人科、内科側世話人:佐中眞由実)となっており、現在の回収率は約20%に過ぎませんが、わが国での糖代謝異常妊娠の実態を知り、また糖代謝異常のある妊婦さんが元気な赤ちゃんに恵まれるためには、今後どのように取り組むべきかを見極めるためにも重要な調査です。日本糖尿病・妊娠学会で今年中に結果を報告する予定となっております。
 


2型糖尿病の発症早期にみられる食後高血糖
 最近、2型糖尿病の発症早期における食後血糖管理の重要性が注目されています。発症早期には、膵β細胞のインスリン分泌能はまだそれほど低下しておらず、食事の直後におこるインスリンの追加分泌だけが不足している状態です。そのため食後数時間の血糖値が正常域を超えて高くなる"食後高血糖"を呈するようになります。食後高血糖が持続するとインスリン作用が悪くなるインスリン抵抗性という状態を増強させるため、夜中のインスリン分泌(基礎分泌)が減少し、食前(空腹時)の高血糖までみられるようになります。

動脈硬化の危険因子としての重要性
 食後高血糖が続くと、網膜症、腎症、神経障害など糖尿病に特有の細小血管症が進展しやすくなります。また、食後高血糖に伴なう高インスリン血症が肥満を助長し、高脂血症や高血圧症ともあいまって、動脈硬化の危険因子となることが報告されています。
 United Kingdom Prospective Diabetes Study の結果、血管合併症の発症率が血糖のコントロール状況とよく関連していたことが明らかとなりました。経過中の平均 HbA1Cが1%下がるごとに、糖尿病細小血管症の発症リスクが 37%、心筋梗塞のリスクも14%減少するなどの結果が示されました。その後、この研究の研究者らは、糖尿病の合併症発症のリスクは平均 HbA1C値でなく食後高血糖の程度に依存している可能性を指摘しました。さらに、2型糖尿病発症間もない患者さんを約11年間追跡したドイツの研究では、朝食後1時間の血糖値の上昇が心筋梗塞の発症や総死亡の増加に関連することが指摘されました。このようなさまざまな研究の結果、最近では HbA1Cと最も深く関わっているのは、食前血糖ではなく食後血糖であり、血糖コントロールの指標として、空腹時血糖値とともに食後血糖値を重視すべきといわれています。

食後血糖値の上昇はどうやって抑えるのか?
 食後血糖値の上昇を抑えるためには、食事療法や運動療法をきちんと行うことが重要です。食事療法のこつは、早食い、まとめ食い、糖質過多、高脂肪食をやめて、ゆっくりよくかんで、食物繊維を多く食べることです。しかし、そのような努力を実践しても食後血糖値が180mg/dl、HbA1Cが 6.5%を超えるような場合は、薬物による積極的な治療が必要と考えられています。これは、食後2時間血糖値180mg/dl 以下であれば細小血管症の発症、進展を抑制できたという報告があるからです。また、心血管系疾患の予防には、さらに低い血糖コントロールをめざす必要がある可能性も指摘されています。
 薬物療法として、速効型インスリン分泌促進薬、α-グルコシダーゼ阻害薬、SU薬の少量投与などの方法があげられます。状況に応じて治療方法を変更、選択していくことになります。
第47回

日本糖尿病学会年次学術集会

糖尿病根治の時代への扉を開く


 

・会期:2004年5月13日(木)~15日(土)

・会場:東京国際フォーラム

・会長:岩本 安彦

 

事務局/東京女子医科大学糖尿病センター
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