DIABETES NEWS No.74
 
No.74 2003 May/June

患者様中心の医療
 本学病院に昨年秋に発足した「病院新生を考える審議会」では、病院組織の改革、リスクマネージメント、患者様中心の医療支援の3つの柱について、作業部会での検討が進み、このほど答申がまとめられました。
 センター制のあり方が論議されている中、糖尿病センターが従来にも増してセンターとしての優れた機能を発揮し、「患者様中心の医療」実現のための大きな柱として、さらに発展を遂げることは極めて重要です。

内科と眼科の緊密な連携
 例えば、増殖網膜症に苦しむ患者さんの外来診療では、これまで同じフロアーにある糖尿病内科と糖尿病眼科が緊密な連携のもとに治療を行ってきました。このような体制は総合外来センター(新外来棟)においても引続き維持されます。そして、患者様が硝子体手術などのために糖尿病センターの病棟に入院する場合には、1人の患者さんに内科医と眼科医が担当医としてチームを組み、内科医は糖尿病コントロールを中心とした全身管理を行い、眼科医は手術に専念いたします。このような診療体制は開設以来「患者様中心の医療」を実践してきました糖尿病センターならではの体制です。

糖尿病センターの目標
 糖尿病という疾患の奥の深さに関心を持ち、糖尿病とその合併症に苦しむ方々の診療に熱意を持った多くの若い医師達が、今春も糖尿病センターに入局します。組織の活性化と発展にとって、若い力の結集は不可欠であります。
 糖尿病センターは、今後もより一層、
1)糖尿病患者様の初期療養指導の充実・強化をはかる、
2)糖尿病患者様の病態、病期、合併症の多様性に対応しうる専門的で質の高い医療を提供する、
3)第一線の先生方との医療連携を推進・強化し、地域全体の糖尿病の診療の質の向上に力を尽くすことを目指してまいります。
 そして、糖尿病センターが、「新生・女子医大病院」においても大きな柱となるように医師・コメディカルスタッフ一丸となってチーム医療を実践し、糖尿病のトータルケアをめざして全力を注ぐ所存です。
 


世界の子どもの1型糖尿病発症率
 子ども、一般的には15歳未満、の1型糖尿病の発症率は世界の国々で大きく異なります。1番発症率の高い国はフインランドで、15歳未満人口10万人当たり年間約40人です。男子に多く、毎年増加の傾向がありかつ発症年齢が若くなり、乳幼児の症例が増え大きな問題になっています。日本人の発症率は世界でも低い国に入り先の数値は年間2.0 - 2.5人位です。なぜこの様に大きな違いがあるかはまだはっきりわかっていません。

1型糖尿病の発症原因
 1型糖尿病は発症しやすい体質(素因)があり、その様な体質を持った子どもに何らかの環境因子が作用して、膵β細胞に障害を与え、引き続く自己免疫性の機序で膵β細胞が破壊され発症すると云われています。素因、体質として一番重要なものは HLA 遺伝子で広く研究が進められています。

環境因子と糖尿病
 1型糖尿病の引き金になる環境因子として、牛乳蛋白質とウイルス感染が上げられています。
1)牛乳と1型糖尿病
 以前から母乳栄養の割合と1型糖尿病の発症には負の相関があると報告されています。母乳栄養の割合が減ると、10年くらいの時間を経て1型糖尿病の発症が増えるとの報告です。また、牛乳消費量と1型糖尿病の発症率には正の相関があるとも報告されています。もちろんこの説を支持しない報告も多くあります。牛乳に含まれるウシアルブミンに対して産生された抗体や牛乳に含まれるカゼインという蛋白質を介して膵β細胞が障害されるのではないかと考えられています。乳牛の改良が発症率の低下に繋がると考えています。
 牛乳だけですべて原因が解明されるわけではないので、注意深いさらなる研究が必要となります。何れにせよ、発症率の高い国では、出来るだけ母乳栄養で育てるようにとの勧告が出されています。
2)ウイルス感染と1型糖尿病
 以前から感染症に引き続き1型糖尿病が発症したとの報告があります。先天性風疹症候群の子は3-4歳頃高率に1型糖尿病が発症すると報告されています。これはインフルエンザのように1型糖尿病が他人にうつるといったウイルス感染ではありません。ウイルス感染後に自己免疫機序などを介して膵β細胞破壊をおこすと考えられています。
 エンテロウイルスは夏に流行する腸管系ウイルスでコクサッキー、エコー、ポリオウイルスなどがあります。主な病気はヘルパンギーナ、急性出血性結膜炎、小児麻痺などです。最近、エンテロウイルスの構造蛋白遺伝子の解析が進み、1型糖尿病をはじめとする特定の疾患をいろいろな経路を介して引き起こすことが明らかにされました。すなわち、分子系統解析による分類が可能になってきました。もし、1型糖尿病の患児から分離されるウイルス遺伝子の一部が、特定の構造蛋白を有することが明らかにされたら、ワクチンによるウイルス感染の防止、発症の予防も可能になるかもしれません。
 


新外来棟に新しくできるコーナー
 前号に岩本所長が完成間近の総合外来センターの概要を述べましたが、この号が皆様の目に触れるころは、そろそろ引っ越しがはじまります。
 総合外来センターにはいくつかの"目玉商品"があります。その一つが医療情報館です。読みやすい医学書やパンフレット、インターネットで医療情報を見ることができる医療情報のコーナーです。1階のまさしく目玉商品でしょう。『からだ情報館』と名付けました。総合受付の反対側に位置し、152m2(約50畳)の広さです。大きなガラスと観葉植物に囲まれた、他とは別のすがすがしい空間になるように、設定しております。

どんなときに利用したらいい?
 病院で説明されたときはよく理解できたつもりでも帰宅して説明された内容を反芻しますと、わからなくなることがよくあります。そんなとき、この情報館でもう一度調べることができます。もしかしたら、説明された医師の書いた本も並んでいるかもしれません。耳から理解したことをもう一度やさしく書かれた本で理解したり、ビデオで理解したり、インターネットから情報を得たりと、多用途の目的に使用できるようになります。
 たとえば、手術の術式など一度聞いてもよくわからないものです。これもわかりやすく書いた本を並べたいと思っています。このような本は個人で購入する必要はないので、やはり公のコーナーで見ることができるようになっているべきでしょう。

インターネットで入手する情報は病院まで行かなくても?
 たしかに24時間いつでもほしい情報が自宅で入手できる時代になりました。しかし、医療の情報は、とくに正しい、新しい、わかりやすい情報を入手することは簡単ではありません。隔靴掻痒の感を覚えている方も多いと思います。専属の司書が皆さまのご希望に応じた情報を入手する仕方をお教えすることになっています。

どんなものが利用できるか
 医学辞書、少し高価な正しく病気を解説した本のシリーズ、製薬メーカー各社が提供しているパンフレット(薬の飲みかた、在宅器具の操作方法など)や書籍など、良いものはすべて収集、陳列することになっています。東京女子医科大学病院のスタッフも、多くの患者さん向けの書籍やパンフレットを書いたり、講演ビデオを作成しております。無償で提供していただくことになっています。

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