DIABETES NEWS No.73
 
No.73 2003 March/April

総合外来センター完成へ
 東京女子医科大学創立100周年記念事業として進められていた新総合外来棟がいよいよ3月には完成の運びとなりました。税務大学校の跡地に建設された新総合外来棟は、地下3階、地上5階建てで、延床面積42,000m2に及ぶ巨大な建物です。本学病院の外来は、従来1号館、2号館、東病棟、心研、消化器病センター、脳神経センターおよび糖尿病センターと幅広く分かれていました。新外来棟のコンセプトとしては、外来部門の統合であり、神経精神科、夜間救急外来、透析外来などを除く外来診療がすべて新外来棟にまとまることになりました。4月30日の開院を目指して、現在、急ピッチで仕上げの段階が進行中です。

新外来棟における糖尿病センター
 糖尿病センターの外来は、新外来棟の3階に移り、従来と同様、内科と眼科が一体となった糖尿病センターの外来を形成することになります。血糖値や HbA1Cの測定は、中央検査部で行われることになりますが、中検の採血の窓口は多く、従来と同様にリアルタイムのデータに基づいた診療を行います。
 糖尿病センターとしては、外来部門と病棟が遠くなるなど不便をお掛けする点もあると思います。一方では、これまで狭い待合室でご迷惑をかけていましたが、新外来棟ではゆっくりとした待合用のスペースが確保されることになります。フットケアも同じフロアーで診療を行うことができるようになりました。さらに、他科を受診される場合にも、これまでに比べて大変便利になるものと思います。

電子カルテの全面的導入
 新外来棟では従来の診療録(カルテ)が廃止され、電子カルテが導入されます。これについても現在、全力を挙げて準備が進められています。開院当初は、すべてが新しい方式で運営されるため、ご迷惑をお掛けすることもあるかと思います。従来にも増して、医療連携を円滑に行い、返書管理を徹底し、いわゆる逆紹介も積極的に行っていく予定です。

※ DIABETES NEWS はNo.73 より若干リニューアルを試みました。よりタイムリーな内容の記事を発信するため、これまでの季刊から、年6回発行に致します。引き続きご愛読いただければ幸甚です。
 


糖尿病性腎症に対する関心の高さ
 2002年11月1日から4日まで、アメリカのフィラデルフィアで開催された American Society of Nephrology 2002 Annual Meeting に参加しました。一昨年のサンフランシスコで開催された Annual Meeting は、国際腎臓学会との合同開催であり、多分ほとんど全部の演題がアクセプトされたにも関わらず、9月11日の同時多発テロの直後であったため、ポスター発表のキャンセルも目立ち、日本人参加者も例年に比べて少ない印象でした。しかし昨年はポスター会場も大変混雑しており、多くの日本人も参加していました。
 腎臓領域の学会ですが、例年糖尿病あるいは糖尿病性腎症に関する口演、ポスター発表は多く、昨年も腎症発症機序の解明を目的とした基礎的な研究から、大規模臨床試験の報告、糖尿病性腎不全に対する透析療法、腎・膵移植など、内容が例年同様多岐にわたり、nephrologist の糖尿病性腎症に対する関心の高さが伺えました。

アンギオテンシン受容体拮抗薬 (ARB) に関する大規模臨床試験
 一昨年は、糖尿病性腎症に対するアンギオテンシン受容体拮抗薬 (ARB) の効果を検討した3つの大規模臨床試験 (IDNT, RENAAL, IRMA2) の結果が、9月20日発行の N Engl J Med に同時掲載され、話題を呼びましたが、昨年はそれらの二次解析の報告が目立ちました。
 Irbesartan Diabetic Nephropathy Trial (IDNT) は、顕性腎症期の糖尿病患者を、 ARB である irbesartan(わが国では未発売)群、カルシウム拮抗薬である amlodipine 群、およびプラセボ群の3群に分類し、比較検討した大規模試験です。Irbesartan 群の腎症の進展および腎不全到達度が amlodipine およびプラセボ群に比べて有意に低かったことはすでに報告されています (N Engl J Med 2001; 345:851-860)。二次エンドポイントとして、心血管系疾患に対する効果を解析した結果が今回報告されましたが、腎症の結果とは異なり、irbesartan は心血管系のエンドポイントに対しては amlodipine とあまり差がないようでした。別の解析では、この IDNT や RENAAL とも、貧血が腎機能増悪の独立した危険因子であることが明らかにされました。

糖尿病性腎症に関する基礎的な研究の進捗
 腎症に関する基礎的な研究として、様々なサイトカイン、成長因子、ホルモン、さらには細胞内伝達経路を検討した細胞培養実験あるいは動物実験の発表は、例年同様多数みられました。しかし、少なくとも現時点では、腎症発症予防あるいは進展阻止に関して、臨床的にその効果が確立されているアンギオテンシン変換酵素阻害薬および前述した ARB と比べ、これらと同等ないしはそれ以上の効果が期待される治療法の開発には、まだまだ時間が必要であろうという実感を持ちました。
 


糖尿病チーム医療研修コース
 2002年10月30日から11月1日までの3日間、デンマーク、コペンハーゲンのステノ糖尿病センターで開催された糖尿病チーム医療研修コースに参加しました。日本、オランダ、アイルランド、ポーランドから合わせて30名の参加者がありました。
 コースは(1)ステノ糖尿病センターのスタッフによる糖尿病治療、合併症、栄養指導、妊娠と糖尿病、フットケアについての講演と施設の見学、(2)1型糖尿病を発症したつもりで食事を選び、1日4回のインスリン(生理食塩水)注射と血糖自己測定 (SMBG) を行なう、(3)現在のチーム医療の問題点をあげ、その解決策を講義と討論をまじえ考察する、の3つがあり、それぞれ並行して行なわれました。

現在のチーム医療の問題点
 (3)については特に、『患者さんは医療スタッフのいうことを何故守れないのか?』についてグループ内で討論しました。毎日の診療に追われてしまい、ただ忙しくノルマを淡々とこなして日々を重ねてしまっている現状。血糖コントロールが悪いという事実があっても、その事実を伝えるのに手一杯で、患者さんが直面している具体的な問題点まで共に考える余裕がない日々の外来。『とにかく患者数が多くて、時間とスタッフ不足が充分な医療ができない原因だ。』という意見がまずでてきました (DAWN study. Prac Diabetes Int 19:22-24, 2002参照。またはノボケアフレンド2003年30号参照)。患者さん側の問題というよりも医療者側の問題であるという認識を全員がもっていました。

解決方法をさぐり、実際に動き出しはじめてはいるが
『日本ではなぜ毎月外来受診するのか?もっと間隔をあけられないのか。外来での糖尿病教育は、グループで行えば時間の節約になる。スタッフ全員が協力して糖尿病教室を行なえばどうか?』という意見がありました。ちょうど時宜を得て、日本でもやっと2002年4月から1か月を超えて糖尿病関連の処方ができるようになり、2001年から誕生した日本糖尿病療養指導士は糖尿病教育のグループ化を促進する大きな力になるものと期待されます。

インパクトがあった実地経験
 フットケアの1例として、自分の足型を色紙になぞり、はさみで切ってみる。それを自分の靴にいれて合わせてみると、殆どの靴の横幅は小さいことがわかりました。自己注射と SMBG を1日4回行なってみると、たった3日間でも面倒くさいし忘れがちになりました。場合によっては痛いし痣になる。患者さんの気持を医療スタッフはどこまで理解し、インスリン注射の指導をしていますか?

患者さんを中心にしたチーム医療
 国によって医療システムが異なりますので、どれが最も優れた医療であるかを結論づけるのは難しいことです。しかし、どの国の参加者も、患者さんとの円滑なコミュニケーションは不可欠でもっとも基本的な要素である、しかしどの国においてもこれはまだまだ十分にできていないと意見の一致をみました。今回の研修は、医療の現場で働く上で最も基本的なことを再認識できた良い機会となりました。患者さんを中心としたチーム医療の必要性を改めて実感しました。

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