DIABETES NEWS No.71
    No.71
     2002 
     AUTUMN 
 

道路交通法の改正
 昨年、道路交通法が改正され、「運転免許を与えない者もしくは保留することができる者」の中に、「発作により、意識障害または運動障害をもたらす病気であって政令で定めるもの」が規定されました。この中にはさまざまな病気が含まれています。糖尿病患者さんに関連がある「無自覚性の低血糖症(人為的に血糖を調節することができるものを除く)」がそのうちに1つに加わりました。無自覚性の低血糖が運転免許取得の欠格事由の1つに加わった背景には、運転中に低血糖を起したドライバーによる重大な交通事故の事例があります。今年の6月から、各都道府県の運転免許の窓口では、改正道交法と施行令(政令)に基づいた対応が進められています。

運転免許が拒否される場合とは
 今回の改正に際し、当初の警察庁の素案では「低血糖による意識障害を伴う糖尿病関係」が示されていました。その後、「低血糖症(前兆を自覚しないまま、意識障害をもたらすおそれがあると認められる場合)」とした試案を経て、最終案が決まりました。
 現代に生きる私達にとって、運転免許証の取得は必須に近いものであり、素案や試案では多くの糖尿病患者さんが不利益を受ける可能性があると考えました。最終案に基づいて運転免許が拒否される場合としては、(1) 糖尿病の薬物治療による低血糖の結果、意識消失を認めた、(2) その際、前兆の自覚がなかった、(3) さらに、血糖の自己管理ができなかった、という極めて限られた患者さんということになります。

大切な主治医の判断
「無自覚性低血糖症」と診断される糖尿病患者さんは、インスリン分泌能が枯渇した、血糖コントロールが困難なケースであり、このような患者さんの主治医には、糖尿病の治療に熟達した経験豊富な医師が望まれます。運転免許を申請する患者さんの状態については主治医が最もよく把握しているので、診断書を作成する医師として適切です。また運転を控えるべきか否かの判定には、病型の診断、これまでの病歴、最新のデータ、血糖自己測定データも含む血糖コントロール状況、治療内容などの十分な資料に基づいた、総合的な判断が重要です。
 


「糖尿病食事療法のための食品交換表」(以下交換表)が 2002年5月にほぼ9年ぶりに改訂され、第6版が出版されました。この改訂は交換表作成の基準である「日本食品標準成分表」が 2000年11月に、最近の食品生産・消費の動向を考慮して大きく改訂されたことを受けたものですが、糖尿病の食事療法に関して時代の求める変革も盛り込まれています。

1単位の食品重量の増減
 表1(炭水化物)のご飯は1単位 55g でしたが 50g に、赤飯も 45g から 40g に減りました。1単位で5g の相違は大きいので注意を要します。逆にジャガイモは 100g から 110g へ増量されました。
 表2の果物では、すいかが 250g から 200g に大きく減量されました。表3のたんぱく質では、脂肪の多い魚や、やや多い魚の重量が減り、貝類の多くは増えています。
 表4の乳製品では、普通牛乳が 140ml から 120mL に減り、200mL で 1.4単位だったのが 1.7単位となります。し好品の日本酒も 75mL から 70mL に減っています。このように1単位の重量の増減がかなりありますので、第5版で覚えていた重量では正確なエネルギー計算が難しくなります。この際第6版を入手して、しばらくは重量をチェックしながら食事療法を指導していくことが必要となります。

エネルギー配分
 総エネルギー量1200キロカロリー(15単位)を指示されている方は、表3のたんぱく質が4単位から3単位に減りました、表3には1単位で5g の脂質が含まれているので、糖尿病と関連が深い動脈硬化予防の観点から脂肪エネルギーを減らすことを目的にしたとのことですが、腎保護の観点からもたんぱく質が多すぎないことは重要と考えられます。
 調味料の1日使用量が 0.5単位に減りました。
 果物や牛乳は間食ときめずに食事指導の範囲とし、血糖の状態をみて好きな時間を選ぶことになりました。インスリンや経口薬を使用している方は、低血糖予防のために食間に摂るのが良いと考えられます。

その他の工夫
 食塩・コレステロール・食物繊維が多い食品別の1単位当たりの含有量の表は第5版にもありましたが、第6版では食品数が増え、字も大きく読みやすくなっています。また巻末には、食品1単位のほぼ実物大の目安写真が取り外せるように付いており、視覚に訴えるように工夫されています。 以上のように、食品の成分の変化に応じた改訂部分の他に、合併症・併発症予防、進展阻止の観点から、脂質・塩分の減量、食物繊維の増量などを促すよう配慮し、見やすさ読みやすさも考えた改訂になっていると思います。第5版と比較するのも面白く、気軽に利用し、はやく慣れたいものです。
 


超速効型インスリンの次に控えるインスリン製剤
 超速効型インスリン製剤が、昨年から日本の市場にようやく出回りました。超速効型インスリンを使用すればもっといい血糖コントロールが容易にできるような印象を与えましたが、やはり速効型インスリンを十分に使いこなす力が超速効型インスリンの場合にも必要とされるようです。
 超速効型インスリンとともに以前より開発されてきたのが吸入式インスリンです。我々の肺胞総面積がテニスコートの半分に相当すること、微粒子ならば肺胞から血中への移行が早いことより、インスリンを吸入して体内に入れるという考えは古くからありました。その後、肺から吸入しても皮下注射にても血中濃度が同等であり、作用時間もほぼ同等であること、肺からの吸収の個体差は皮下注射によるそれと同程度であったことより、吸入はインスリン投与方法の希望的ルートとして研究されてきました。

吸入式インスリンの開発はどこまで?
 吸入式インスリンには、現在粉末インスリンを肺胞から吸入可能な微粒子にして吸入する方法と液体インスリンを肺胞から吸入可能な微粒子にして吸入する方法があります。いずれのインスリン製剤も海外では臨床試験段階に入っています。
 第3相試験が済んだ粉末インスリン製剤の1つである Exubera(R)の結果が今年のアメリカ糖尿病学会で報告されました。1型糖尿病患者において[中間型+速効型]インスリンの1日2回注射群と比べ、[毎食前吸入式+眠前持続型]インスリン群は低血糖頻度は低め、空腹時血糖も低め、HbA1C値は同等でした。同じく1型糖尿病患者において[毎食前速効型+眠前中間型]インスリン群と比べ、[毎食前吸入式+眠前中間型]インスリン群は血糖コントロールにおいては同等で、低血糖の全般的頻度も同等でした(重症低血糖頻度は多い傾向あり)。ただ、インスリン必要量に変化はなかったがインスリン抗体が吸入群で有意に増加したとのこと。また、種々の指標を用いて治療満足度を測定したところ、吸入群において有意に治療満足度が改善されたという結果が得られたようです。2型糖尿病において経口血糖降下薬と一緒に吸入インスリンを使用するのもよい結果が出ていました。総じて、吸入インスリンは超速効型インスリンと同等のインスリン血中動態を示し、食後にも使用できる可能性を示し、1型ないし2型糖尿病にも使用できる可能性が報告されました。日本においては第1相試験が終了し、次の段階に向けて準備が進められているようです。

開発中の他の新しいインスリン製剤
 本学会では経口インスリンスプレーの報告もありました。これはエアロゾル化インスリンで、口の中に毎食前にスプレーして粘膜から吸収させて食後血糖を抑制させようとするものです。2型糖尿病の経口薬2次無効群に使用して食後血糖抑制がなされたと報告しています。1型糖尿病への臨床試験はこれからです。

このページの先頭へ