DIABETES NEWS No.70
    No.70
     2002 
     SUMMER 
 

若年発症2型糖尿病患者さんの苦しみ
 外来通院中の患者さんの数に比べて、入院ベッド数が非常に少ない女子医大糖尿病センターでは、病床の多くは重い合併症に苦しむ患者さん達で占められています。病棟回診の折にいつも心を痛めることは、2型糖尿病の好発年齢というべき中高年に達する前に、すでに重い合併症が発症し、入院された若い患者さん達の苦しみです。網膜症による視力の低下におびえながら透析療法を受けている患者さん。足の切断手術を怖れながら、壊疽の治療を根気よく続ける患者さん。こうした若い人達の深刻な苦悩に接するにつけ、「なぜもっと早くよいコントロールを達成することができなかったのだろう?」と自問しています。

15歳以上では2型の比率が高くなる
 当センターでの集計によれば、30歳未満に発症した、または発見された若年糖尿病患者さんの病型の比率(1型:2型)は、15歳でほぼ1:1になっています。そして15歳を超える年齢層では2型が増えてきます。こうした若年発症2型糖尿病の患者さん達が、その後の長い人生で、糖尿病と上手に付き合って、よいコントロールを続けることができるか? このことが患者さん達の将来を左右する最大のポイントです。

放置や治療中断が合併症をひき起こす
 2型糖尿病では自覚症状がほとんどないために学校検尿やその他の機会に糖尿病が疑われた場合、どうしても放置してしまいがちです。当センターの統計でも、若年発症2型糖尿病の患者さんの合併症につながる大きな要因が放置と治療中断にあることが明らかになりました。
 最近、若年発症2型糖尿病の患者さんの治療状況について調べる機会がありました。初診時には未治療であった患者さん達の一定期間後の治療は、食事療法単独、経口糖尿病薬、インスリン注射がほぼ同数でした。糖尿病の家族歴のある人は全体の 80% に及び、若年で発症するという背景には遺伝が大きな要因となっていることが再確認されました。また、家族歴が濃厚で、肥満していない患者さんでは、より厳格なインスリン治療が必要な方が少なくないことも明らかになりました。私達は若年発症2型糖尿病患者さん達にもっと関心を向ける必要があると思います。
 


定義と分類
 間歇性跛行の定義は1.歩行や起立時または肉体的労働を行った時にだけ生じる症候群で、2.症状は休息により直ちに緩解する、3.症状は神経の刺激症状または欠落症状よりなる、4.典型的症状は両下肢の疲労と脱力で、知覚麻痺またはしびれ感が腰仙髄節の支配域にある、または座骨神経痛が両側にみられる、が1つ以上みられるとしています(Verbiest による)。
 間歇性跛行は、発生部位によって、a 脊髄性 b 馬尾性 c 神経根性 d 末梢神経性 に分類され、発生メカニズムによって、1.姿勢性 postural 2.阻血性 ischemic[a 脊髄性(黄色靭帯骨化症、後縦靭帯骨化症、椎間板ヘルニア) b 馬尾性(馬尾神経腫瘍) c 神経根性 d 末梢神経性 e 筋肉性 f 自律神経性]に分類されます。

特徴的な症状
 歩行しますと下肢にしびれ、疼痛、脱力を生じ、だんだん歩行困難が生じてきます。歩行を停止し休息しますと症状が消失します。休息時前屈位をとるとよりよく改善し、また歩行が可能となります。

理学的所見と診断方法
 客観的には異常な歩行、歩行距離、床反力計測等を用います。日本整形外科腰痛疾患治療成績判定基準(JOSスコア)が参考となります。確定診断は神経学的理学所見、画像診断を用います。画像診断は単純 X-P、 CTscan、MRI、ミエログラフイがあり、必要に応じて血管造影、核医学検査を選択します。

治療
 1.保存的治療:安静療法で患者の好む姿勢を保持。2.装具療法:間歇性跛行には flexion brace が有用。3.温熱療法、4.骨盤牽引、5.薬物療法―消炎鎮痛剤、筋弛緩剤、ビタミン剤、長期例は非ステロイド性抗炎症劑や抗血小板剤(プロレナール(R))を使用します。上記の保存的治療で困難な場合手術療法を行うこともあります。

鑑別診断
 虚血性の病態による間歇性跛行を鑑別すると、閉塞性動脈硬化症(Arteriosclerosis Obliterans、ASO)と閉塞性血栓血管炎(Thromboangitis Obliterans、TAO)があります。前者は動脈硬化症が原因でおこり、糖尿病、高血圧、高脂血症、肥満等が関与します。後者は血管炎で血管壁の炎症反応で血栓形成がおこります。喫煙は両血管病変のリスクファクターです。血管造影は鑑別に有用で、TAO は障害部位に一致した先細り途絶像を示します。下肢虚血には Fontaine 分類が広く用いられ、1度は足の冷え、しびれで2度は間歇性跛行、3度は夜間疼痛、4度は壊疽となっています。
 両血管疾患の治療は各種悪化因子を除外し、禁煙、適当な運動、薬物療法で行い、治療困難な場合に各種 angioplasty や血行再建を検討します。近年血管増殖遺伝子治療や自己骨髄血注射療法が行われ、よい成績を示しています。
 


ビグアナイド薬の開発と挫折
 中世の昔から、ライラック(リラの花)には、口渇や多尿などの糖尿病の諸症状を緩和する作用があることが知られていました。その薬効を担うものがグアニジンという物質であることが随分後に判りましたが、グアニジンは毒性が強く、そのままの形で治療に使うことは出来ませんでした。1950年代に入ると、グアニジン環を2つ結合させた化合物(そのため、ビグアナイドと呼ばれます)が米国で合成されて、糖尿病の治療に汎用されるようになりました。スルホニル尿素薬(SU薬)とは作用機序が異なるため、ビグアナイド薬は治療上、非常に重要な薬でした。ところが1970年代初頭に、ビグアナイド薬の一つ、フェンホルミンの服用者に乳酸アシドーシスによる死亡例が報告されました。このため、ビグアナイド薬は米国で発売中止に追い込まれました。

再評価されるメトホルミン
 メトホルミンが再び脚光を浴びるようになったのは、1995年のことです。肥満を伴う2型糖尿病患者さんを対象とした研究で、メトホルミンが血糖値の改善だけでなく、体重の減少や脂質の改善にも効果があり、また肝臓での糖新生を抑えることが明らかとなり、米国での発売が再開されました。次いで1998年には、UKPDS34 という英国の大規模臨床試験で、メトホルミンが心筋梗塞などの糖尿病に関連した死亡を大きく減少させることが報告されました。そして今年、メトホルミンの服用により糖尿病の発症自体も抑制されることが報告されました。薬価も極めて安いメトホルミンですが、唯一不安な点がありました。それは、作用機序が未解明のままであったことです。

解明される作用機序
 膵臓からのインスリン分泌を刺激する SU薬とは異なり、メトホルミンは、肝臓での糖新生の抑制、筋肉での糖利用の亢進、腸管からの糖吸収の抑制、脂肪組織での脂肪分解の抑制などの膵臓外での多彩な働きが知られていましたが、その機序は不明でした。そしてつい最近、メトホルミンの主要な標的分子が AMP活性化蛋白質リン酸化酵素(AMPK)であることが報告されました。AMPK は細胞内の酸素量やエネルギー状態を鋭敏に感知して、糖や脂質代謝の流れを調節する鍵となる分子です。この発見により、メトホルミンの代謝へ及ぼす多彩な作用だけでなく、低酸素状態で副作用を起こしやすい理由もよく説明されます。
 メトホルミンによる重篤な乳酸アシドーシスの1年当りの発症率は、10万例に3例位の頻度と云われ、そのほとんどは、腎障害や肝・心・肺機能低下を呈する高齢者に限られています。また、日本で認可されている用量は米国の1/3程度であり、注意して使用すれば決して危険な薬ではありません。

お知らせ

第13回 糖尿病センターと医療連携の会

日 時 平成14年7月18日(木) 19時15分より
会 場 東京女子医科大学臨床講堂I
テーマ 糖尿病と血管障害
★参加者には日医生涯講座参加証が交付されます。

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