DIABETES NEWS No.69
    No.69
     2002 
     SPRING 
 

2型糖尿病から1型糖尿病へ?
 糖尿病の二大病型である1型と2型は、それぞれ典型的な場合には病型の診断は難しいことはありません。最近、誰がみても2型糖尿病の患者さんが、高齢になって1型糖尿病を発症したと考えられるケースを続けて経験しました。
 Aさんは36年前から当科に定期的に通院され、食事療法と経口糖尿病薬で長期間に亘って比較的良好なコントロールが保たれていました。4年前からコントロールが悪化し、インスリン療法が開始されました。それでもコントロールが不十分なため、入院していただきましたが、入院中、血糖日内変動は不安定で、Cペプチド値も著しく低下していたため、抗GAD抗体を測定したところ、陽性と判明しました。
 Aさんの4年前に行った食事負荷試験ではCペプチドは比較的保たれており、当時採血した凍結保存血清の抗GAD抗体を測定したところ、陰性でした。色々な解釈が可能ですが、2型糖尿病に新たに1型が発症したと考えています。

病型鑑別とインスリン依存性の診断
 1型か2型かの鑑別は成因に基づくものであり、インスリン依存状態か非依存状態かの鑑別とは別の観点によるものです。1型の患者さんの多くはインスリン依存状態になりますが、膵β細胞の残存の程度によってはインスリン非依存状態にとどまっているケースもあります。逆に、2型と考えられる患者さんが何らかの原因でインスリン依存状態に陥る場合もみられます。「清涼飲料水ケトアシドーシス」と呼ばれる病態はその一例といえます。一時的にインスリン治療を必要とする場合が少なくありません。
 インスリン依存状態と非依存状態の相互の移行は決して稀ではありません。しかし、先のAさんのようなケースは、1型と2型のオーバーラップを示唆するもので、インスリン依存性の診断のみならず、1型・2型の病型診断も固定的に考えるべきではない場合があることを示しています。

    *来る5月25日に東京女子医科大学公開医学講座:「21世紀の国民病 糖尿病 の最新の治療―合併症の発症・進展の予防をめざして―」が開催されます。詳しくは「お知らせ」をご参照ください。
 


糖尿病と高血圧症の悪しき関係
 2型糖尿病患者さんが高血圧症を合併する頻度は、非糖尿病患者さんの約2倍であり、高血圧患者さんにおいても糖尿病の頻度は2~3倍という関係を認めます。このように、糖尿病と高血圧症を相互に合併しやすいのはインスリン抵抗性という共通の背景因子があることが一つの理由と考えられます。いずれにせよ、この2つの疾患は動脈硬化の重要な危険因子であり、その合併は虚血性心疾患や脳卒中などの発症に関与して糖尿病患者さんの予後を大きく左右します。さらに、糖尿病患者さんに高血圧が糖尿病細小血管障害としての腎症や網膜症を進展させる重要な因子であることが様々な研究により証明されています。

新しい高血圧のガイドライン
表1 成人における血圧の分類

 分類 収縮期血圧
(mmHg)
 拡張期血圧
(mmHg)

 至適血圧 <120 かつ <80 
 正常血圧 <130 かつ <85 
 正常高値血圧 130~139 または 85~89 
 軽症高血圧 140~159 または 90~99 
 中等症高血圧 160~179 または 100~109 
 重症高血圧 ≧180 または ≧110 
 収縮期高血圧 ≧140 かつ ≧90 

 1999年 WHO/ISHは、高血圧症の新しい分類を発表しました。それに伴い日本高血圧学会でも2000年に血圧の分類は細分化され、正常と高血圧の間にグレーゾーンである正常高値血圧を、また高血圧も軽症、中等症、重症に分けられています。また、至適血圧として120mmHg未満かつ80mmHg未満を提唱しています(表1)。さらに高血圧患者さんの予後には高血圧、高血圧以外の危険因子、臓器障害ならびに心血管病の有無が関与するため、リスクの層別化を行っています(表2)。ここで注目すべきは、危険因子の中で糖尿病が特別に扱われていることです。すなわち、糖尿病は喫煙、高コレステロール血症などの危険因子とは違い、臓器障害や心血管病と同等に扱われているのです。低リスク群、中等リスク群、および高リスク群の3群に層別されているうち、糖尿病があるだけで軽症高血圧でも、高リスク群に該当することとなります。
表2 高血圧患者のリスク層別化
JSH(the Jpanese Society of Hypertension) 2000

治  療
 日本高血圧学会のガイドラインでは、糖尿病患者さんの降圧目標血圧を130/85mmHg未満としています。そのための計画として、高リスク群の患者さんには生活習慣の修正とともに降圧薬治療を勧めています。虚血性心疾患、脳卒中や糖尿病細小血管障害予防のためにも、積極的に血圧をコントロールすることが必要です。
 


網膜症の活動性と治療
 糖尿病網膜症の眼科的治療として、網膜光凝固療法と硝子体手術が主に行われています。網膜光凝固療法の目的は、視力障害の原因となる増殖性変化の発症・進展を阻止することにあります。大規模な臨床試験により、増殖性変化の抑制に対する網膜光凝固療法の有効性が明らかにされています。しかし、時として網膜光凝固療法を施行しても、網膜症の活動性が十分に抑えられていない場合が認められます。網膜症の活動性には、血糖コントロールをはじめとした全身的因子が大きく影響します。網膜症の活動性の高い場合は、より早期に病変を診断し、光凝固療法のみならず硝子体手術を考慮にいれ、密度の高い治療を行う必要があります。

硝子体手術の進歩と限界
 網膜症に対する硝子体手術では、水晶体切除をして周辺部の増殖膜および硝子体を確実に切除し、さらに十分な眼内レーザー光凝固を行うことにより、硝子体出血や網膜剥離、血管新生緑内障などの術後合併症が減少し、手術成績は著しく向上しました。硝子体手術の適応も、従来の硝子体出血と牽引性網膜剥離から、黄斑部網膜前出血、黄斑偏位、黄斑浮腫、血管新生緑内障までと拡大しつつあります。今まで、光凝固療法によって網膜症の進展を阻止することができない症例や、光凝固後に黄斑浮腫が増悪する場合でも、硝子体手術を行うことにより、かなりの病態において鎮静化を得ることができるようになりました。しかしながら、硝子体手術が万能というわけではありません。硝子体手術の術後に、数%において網膜再剥離や血管新生緑内障など重篤な合併症が生じ、ときには失明という最悪の事態を招く場合があります。そこで期待されるのが、網膜の再生医療です。

再生医学への期待
 現在、当センターを含め、全国各地の施設で網膜の再生を目指して、盛んに研究が行われています。今のところ、毛様体に網膜を再生する幹細胞があることがわかり、毛様体から、網膜を構成する様々の神経細胞を、培養条件を変えながら再生することが可能となっています。しかしながら、光の情報伝達に重要なシナプスを、培養された神経細胞間に形成させるまでには至っておりません。元来、網膜の神経細胞間のシナプスは、互いに複雑に絡み合って構成されており、この構成により、色覚や立体感、時間的変化など複雑な視覚情報の処理を行っています。そこまで高度な機能は望めないまでも、ある程度の物体を識別できるシナプスが形成される網膜の再生が、今求められています。

お知らせ
東京女子医科大学 第21回公開医学講座

21世紀の国民病 糖尿病 の最新の治療

――合併症の発症・進展の予防をめざして――

日 時 平成14年5月25日(土)13:00~16:40
会 場 東京女子医科大学 弥生記念講堂
対 象 一般医家、コメディカル、医学生
参加費 無 料
 
主なプログラム
第1部 糖尿病の早期発見と早期治療
 1.病型の鑑別と初診時の治療方針のたて方(岩本安彦) 2.経口糖尿病薬の使い分け(佐倉 宏) 3.外来におけるインスリン治療の進め方(内潟安子) 4.チーム医療とコメディカルの役割(佐中眞由実)
第2部 合併症の診断と治療
 1.網膜症の治療-内科と眼科の連携(北野滋彦) 2.腎症の発症・進展予防をめざして(馬場園哲也) 3.神経障害診療のポイント(高橋良当) 4.糖尿病と心疾患(佐藤麻子) 5.足病変とフットケア(新城孝道)
★申し込み不要:当日会場にて受付けます。
★問い合わせ先:東京女子医科大学医学部学事課 公開講座係(162-8666 新宿区河田町8-1)
TEL 03-3353-8111 内線22112~3
★日本医師会の生涯教育講座に認定されていますので、ご希望の方に参加シールをお渡しします。
★糖尿病療養指導士の認定更新1単位を取得できます。

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