DIABETES NEWS No.64
    No.64
     2000 
     WINTER 
 

糖尿病シンポジウム
 10月7日、日本糖尿病財団と日刊スポーツ社主催の第3回糖尿病シンポジウムが、「正しい知識で撲滅しよう糖尿病」をテーマに,女子医大弥生記念講堂で開かれました。当日は患者さんや家族、糖尿病予備軍、糖尿病に関心のある人、コメディカルスタッフなど600名を超える方々が参集されました。赤沼安夫先生(糖尿病学会理事長)の「正しく知ろう糖尿病」と題する基調講演に続き、糖尿病の予防、食事療法と運動療法、忍び寄る合併症の予防と治療、子供の糖尿病、糖尿病の薬物療法の進歩などに関する講演があり、聴衆から熱心な質問が寄せられました。
 糖尿病を21世紀の国民病にしないために私達が取り組むべき課題は決して少なくありませんが、それぞれの立場で着実に実践することが大切です。

ヒトゲノム計画と糖尿病
 ミレニアムプロジェクトの大きな柱であるヒトゲノム計画が激しい国際競争の中、急速に進展しています。やがてヒト遺伝子の全塩基配列が明らかになり、病気にかかりやすい体質(疾患感受性)と関連した遺伝子の座位も次々に明らかになると期待されています。糖尿病についても、これまで糖尿病をひき起こす遺伝子の異常が少しずつ明らかになってきましたが、それでもこれらの占める比率は糖尿病全体の数%程度にすぎません。今後は、ありふれた糖尿病の発症に関連する遺伝子が解明されていくと思います。さらには、糖尿病の合併症との関連が想定される遺伝子や糖尿病治療薬の効果と関連する遺伝子も解明されると期待されています。遺伝子の検査によって合併症の危険性が高いかどうかがある程度予測できれば、予防に力を注ぐことができます。また患者さんにもっとも適した治療薬を選択しうる可能性も開かれてくると思います。このような遺伝子診断と同時に、遺伝子治療も現実的な段階を迎えています。

21世紀へ向けて
 学問の進歩は目覚しく、糖尿病治療の将来が大きく変貌することは間違いありません。患者さんは、学問の進歩の恩恵を受けるためにも、よりよいコントロールを達成し、合併症のない状態を維持していくことが大切です。
 


計画妊娠の重要性
 糖尿病の治療の目的は合併症を防ぐことにありますが,妊娠時の糖尿病の治療も母児の合併症を防ぐことにあります。妊娠時の血糖コントロールが不良の場合には,母体はケトーシス・ケトアシドーシス、網膜症の悪化、妊娠中毒症、流産、早産、尿路感染症を合併しやすく、また胎児・新生児においても奇形、巨大児、新生児低血糖、高ビリルビン血症、低カルシウム血症、呼吸障害などの頻度が高くなり、治療せずに放置すると子宮内胎児死亡という結果になります。
 とくに児の奇形は、妊娠初期の器官形成期における高血糖が主な原因であり,妊娠が判明してから血糖値の改善に努力したのでは防ぐことは困難です。また、急激な血糖コントロールの改善により、糖尿病網膜症が悪化する場合もあります。妊娠前に糖尿病合併症が妊娠中に悪化しない状態であることを確認し、血糖コントロールも良い状態で妊娠すること、つまり計画妊娠が重要です。

妊娠糖尿病
 妊娠時には胎盤でインスリン拮抗ホルモンが産生されたり、インスリンが分解され、インスリン抵抗性になるため、血糖が上昇しやすくなります。このような変化は妊娠中期以後に出現しますが、正常妊婦では、膵臓からのインスリン分泌が増加し、血糖値が正常に保たれます。
 しかし、糖尿病になりやすい体質の女性では、妊娠前に高血糖を指摘されたことがなくても、妊娠中に血糖値が高くなることがあります。妊娠中の高血糖をみのがさないために、妊娠初期、中期、末期と血糖値を定期的にチェックし、血糖値が100mg/dL以上の場合にはブドウ糖負荷試験を行うことが必要です。結果が異常であった場合には、母体や児の合併症を防ぐために治療を開始しなければなりません。このように「妊娠中に発症または初めて発見された耐糖能異常」を妊娠糖尿病といいます。

妊娠前に血糖値の測定を
 しかし,糖尿病の症状がなかったり、尿糖や血糖値の検査を行ったことがないために、糖尿病があることに気付かずに妊娠し、妊娠中に発見されることがあります。私達の調査では、このような妊婦においては網膜症が悪化したり、奇形の子どもが出生する頻度が、妊娠前から糖尿病で治療を行っていた場合よりも高いという結果でした。肥満女性や、父親、母親、兄弟が糖尿病である女性は妊娠をする前に血糖値のチェックを行い、糖尿病の有無を調べることが大切です。
 


新規透析患者の第1位
 糖尿病性腎症による腎不全は増加の一途をたどり、平成10年度には新規透析導入患者の原腎疾患としてついに慢性腎炎を上回り、第1位となり、平成11年には差がまた広がりました。血糖コントロールの不良が腎機能低下を来たし、微量アルブミン尿期、持続性蛋白尿期と進行させ、腎不全から透析が必要な終末像まで至らせることは周知の事実と思います。糖尿病腎不全患者の予後は非糖尿病腎不全患者に比較すると不良であり、重度の血管合併症のためquality of lifeも著しく悪いと言えます。
 糖尿病による腎不全患者を増やさないためには、腎症を不可逆的な変化とされる持続性蛋白尿期に進展させない努力が重要です。

腎機能に影響する種々の因子
 血糖だけが腎機能を悪化させるのではなく、高血圧、高脂血症、肥満、高尿酸血症、凝固線溶異常、過度の運動、脱水、感染症、心不全、蛋白摂取量など多くの因子が腎機能に影響します。また薬剤の副作用による急激な腎障害も少なくありません。最近、糖尿病とともに生活習慣病として話題にのぼることの多い、高血圧、肥満、高脂血症のいずれもが腎症を進行させることに注目すべきです。WHOやJNC-VIでは糖尿病患者のより厳しい血圧管理基準が示されました。日本人における肥満症の基準も厳しくなりました。糖尿病というリスクファクターを持った高脂血症もLDLコレステロールをより低めに管理すべきとされています。腎症を尿中アルブミンの測定により早期発見し、腎機能に影響する種々の因子を総合的にきびしく管理しなくてはなりません。また検診などで種々の動脈硬化危険因子の指摘を受けながら、専門的な管理を受けず放置期間が長い患者さんも少なくありません。
 医療機関を初診した際、すでに腎不全状態というケースもあります。放置期間や、中断期間を作らないようにするべきです。

アンギオテンシンII受容体拮抗薬
 ACE阻害薬が腎症の進展阻止に有用であることは明らかですが、最も新しい降圧剤であるアンギオテンシンII受容体拮抗薬にも同様の効果が期待されています。臨床データはこれからの検討を待たなくてはなりませんが、尿中アルブミンを減少させる効果はACE阻害薬と遜色ないと思われます。咳嗽のためにACE阻害薬を飲めなかった患者さんへの投与も可能で、比較的副作用の少ない薬剤とされています。またACE阻害薬との併用することで相加的または相乗的な効果も期待されています。

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