DIABETES NEWS No.63
    No.63
     2000 
     AUTUMN 
 


忘れられぬ記念講演会
 糖尿病センター開設25周年を迎え、今年は恒例の糖尿病センター同門会を拡大し、学内外のご来賓、糖尿病センター同窓のコメディカルの皆様にも多数ご出席いただき、記念講演会と祝賀会を開催いたしました。
 記念講演会では私共の恩師の先生方にお話しいただきました。小坂樹徳先生は「2型糖尿病の臨床の近未来」と題し、糖尿病の診断、治療に関する先生のお考えと予防に向けた今後の研究の方向性を示されました。平田幸正先生は「インスリン自己免疫症候群の30年」の中で、本疾患発見の端緒から、その後の臨床研究の大きな発展とセンター開設当時のご苦労を話されました。大森安恵先生は「患者さんとの共感から生まれた糖尿病妊婦の臨床と研究」と題し、中山内科時代の昭和39年の糖尿病妊婦出産第1例から33年間に亘る糖尿病妊婦494例、640児の成績を発表されました。
 短時間に、ライフワークの一端を凝縮してくださった情熱溢れる先生方のご講演に、多くのことを学ぶことができました。糖尿病センターの歴史に忘れられぬ1日となりました。

患者さんのために、患者さんとともに
 記念講演会と祝賀会に向けて、糖尿病センター同門会誌『同門――糖尿病センター開設25周年記念号』を発行いたしました。
 「心温まるご祝辞や懐しい思い出を綴った短い文章の中に、糖尿病センターに寄せる皆様の大きな期待と励ましの声援を感じました。21世紀に向け、糖尿病人口の増加がさらに予測される中、糖尿病センターの存在意義は益々大きくなるものと確信しています。優れた先見性と多くの先輩・同門の先生方のご努力、そして学内外の皆様の温いご支援によって、糖尿病センターは発展してまいりました。
 良き伝統を受け継ぎ、内科と眼科、医師とコメディカルが一致協力して、『患者さんのために、患者さんとともに』を合言葉に、さらに一層頑張りたいと存じます。」
 糖尿病センター同門会誌『25周年記念号』の「あとがき」の一部をあらためてDiabetes News誌上でも述べさせていただきました。
 これまでと変らぬご支援をお願い申し上げます。
 


強化インスリン療法とQOL
 小児1型糖尿病のインスリン注射療法は血糖を出来るだけ正常に近づけ、合併症の発症を防止する治療、すなわち強化インスリン療法が進められています。小学校高学年から1日4回注射をする頻回注射法が取り入れられてきています。良い血糖コントロールを維持するには低血糖の頻度がふえたり、血糖の自己測定回数がふえたり、このような医療行為を学校で行うことにもなります。病気を公にすること、学校の理解が必要なことなども子ども本人のみならず、家族にとっても問題が少なくありません。
 このように強化インスリン療法を取り入れると、本人の生活の質(QOL)が低下するのではないかと考えられていました。また、両親、医療者が成長に伴って子どもの病気に対してどのように考えが変わってくるかについて、必ずしも明らかではありませんでした。

世界18カ国の共同研究
 Hvidore小児思春期糖尿病国際共同研究は世界18カ国、22施設の小児糖尿病専門家が集まって進めているグループで、私が日本を代表して参加しています。色々な共同研究を行ってきましたが、このたび血糖コントロールとQOLの関係について調べました。11歳から18歳までの小児 ・思春期糖尿病患者2,101人及びその家族,医療者を対象に調査を行い、次のことが明らかになりました。
 1.血糖コントロールが良いほど、すなわちHbA1C値が低いほど、患者、両親のQOLは高い。
2.男女とも年齢と共にHbA1C値は上昇してくるが、特に思春期年齢になると女子のHbA1C値は高くなり、QOLも低下してくる。
3.両親、医療者の患者に対する心配、不安は年齢と共に低下してくる。
4.施設間でHbA1C値の平均に大きな差が認められた。

課題は思春期糖尿病の治療
 すなわち、強化インスリン療法を行って、医療行為がより多くなっても、血糖コントロールが良くなればQOLは低下しないことが明らかになりました。思春期女子の血糖コントロールが悪いことは世界共通の現象で、これに合わせてQOLも低下していました。思春期糖尿病患者の治療は小児科から内科にかけて一番難しい問題で、小児科医も内科医もともに努力しなければならない課題であります。
 


無症状で進行する多彩な障害
 糖尿病性自律神経障害は循環器、消化器、泌尿生殖器、外分泌器と自律神経が支配する全身の臓器に多彩な障害が出現します。
 しかし、下痢や勃起不全などの一部の自律神経障害を除き、多くの糖尿病性自律神経障害は自覚症状のないままで進行し、高度で、非可逆的な状態になって、初めて症状が出現することが多いのです。症状がでるのも高度自律神経障害の一部であり、全く無自覚のまま放置されることも少なくありません。
 例えば、起立性低血圧は臥位から立位により、収縮期血圧が30mmHg以上低下する場合をさしますが、立ちくらみや失神などの自覚症状を伴うものは約半数で、半数は無症状です。高度な胃アトニーや膀胱アトニーでも、ほとんどの例が無症状です。すなわち、患者さんにとっても医師にとっても、糖尿病性自律神経障害は発見が困難で、見逃され易い合併症と言えます。

QOLに関わる障害
 糖尿病性自律神経障害はたとえ無症状でも、胃アトニーや下痢/便秘は血糖コントロールを乱し、起立性低血圧は網膜症に悪影響を及ぼし、膀胱アトニーは尿路感染症や腎障害などの誘因となり、発汗障害は皮膚の易感染性~壊疽の危険要因となります。頻回の下痢や立ちくらみ、勃起障害などはまさしくQOLに関わる問題であり、無痛性心筋梗塞、無自覚低血糖などは生命に関わる切実な問題であり、放置できません。
 このように、糖尿病性自律神経障害はたとえ無症状でも、患者のQOLに様々な悪影響を及ぼす障害であり、軽視できない合併症です。

早期診断・早期治療がベスト
 糖尿病性自律神経障害の治療はすでに非可逆的状態になっていることが多いため、対症療法ないしケアが主であり、治癒(完全な回復)をのぞむことは困難です。しかし、早期であれば血糖コントロールによる治癒は可能であり、早期診断 ・早期治療、さらには糖尿病初期からの血糖コントロールによる合併症の一次予防がもっとものぞまれます。
 早期診断のために、心拍や血圧変動検査や瞳孔計、発汗計などの高精度が、高感度の検査法を利用すればよいのですが、操作が煩雑で時間を要します。簡便法としては、一般外来でも可能な起立試験や心電図RR間隔変動検査(例えばCV%の測定や深呼吸負荷検査)などを定期的に行います。糖尿病性自律神経障害を早期に発見することがなによりも大切なこととなります。

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