時計はいつも同じスピードで時を刻み、誰にも平等に経過することはあらためて言うまでもありません。しかし、時の流れの感じ方が人によって、また時によって大きく違ってくるのも事実であります。
毎年、大晦日になると1日の大切さを思い出していますが、今年の大晦日にはことのほか時の流れを意識することになると思います。何しろ、"1000年に1度"の大きな節目ですから。いっもと変らぬ24時間には違いないのですが、歴史的瞬間に立会っている気分と言えば大袈沙すぎるでしょうか。
1000年前のことはわずかに歴史で知ることができますが、1000年後のことになるとまったく想像することができません。
糖尿病の臨床に日々たずさわっていますと時間経過の大切さをしばしば痛感させられます。何の症状もなく、何の苦痛もなかったがゆえに、高血糖状態を放置してしまった5年間、10年間の結果がどれ程多くの患者さん達を苦しめてしまうことか。
重大な合併症についての知識はもっていても、多くの方はご自身の問題としてはとらえていないのではないでしょうか。
高血糖を長期間に亘って放置することの結果について十分に認識している医療側スタッフは全ゆる機会をとらえて、患者さんが糖尿病に対する理解を深めていただくように努力しなければなりません。"時計を10年前に逆戻りさせることができたら..."と考えたくなる患者さんを1人でも減らすために。
わが国の糖尿病の臨床において1999年は特筆すべき年になりました。1995年から4年近くかけて論議された新しい分類と診断基準の報告がなされたことです。改訂の大きな目的のひとつは、糖尿病の早期診断に役立ち、早期治療につながるものを作りあげることでした。現時点では、ADA や WHO の報告に比べて、さまざまな点ですぐれたものと思います。
『糖尿病治療ガイド1999』の発行も大きな成果といえます。糖尿病の日常診療に役立つ小冊子の発行は学会の長年の懸案でしたが、これを基本に、年々新知見を盛り込んだ改訂が行われるものと期待されます。
第20回日本肥満学会が1999年10月14日、15日の2日間、近代的に改装された日本都市センターホールで開催されました。学会長井上修二先生(国立健康・栄養研名誉研究員、共立女子大学教授)のかかげたスローガンは「肥満対策で生活習慣病予防」でした。
第1日目の午後のシンポジウムで「肥満症の生活習慣病―診断と治療の指針」が、池田義雄教授(慈恵会医科大学)と松澤佑次教授(大阪大学)の司会で行われました。序言として池田先生より「肥満症診断基準の基本概念」が示されました。肥満は糖尿病をはじめとする多彩な疾患の基盤となっているので、肥満対策が 21世紀の予防医学の最重点課題とされること、日本肥満学会では疾病率の最も低い body mass index(BMI)22の+20%である BMI 26.4以上を肥満と判定していたが、国際的に整合性のある基準値を使う必要性を考慮して、肥満症検討委員会が組織され、日本人の肥満症の診断基準が検討されていることなどが報告されました。会長の井上先生からは WHO 分類では BMI 30以上を肥満と判定しているが、日本人にこれをあてはめると肥満は僅か3%以下となり、ここ 30年間でも微増しているのみであることや、15コホート15万人の会社員を対象とした大規模研究では、BMI 22を基準として、代表的な生活習慣病(糖尿病、高血圧、高脂血症など)の合併危険率(オッズ比)が2倍にあがる BMI をしらべたところ 25前後であったことなどが報告され、これらのことより日本人では BMI 25以上を肥満として、糖尿病、高血圧、高脂血症などの合併がある場合を肥満症とすると提案されました。そして本シンポジウムでコンセンサスが得られました。
現在日本では 3,300万人の高血圧、2,000万人の高脂血症、700万人の糖尿病患者が推定されていますが、これらの生活習慣病の3~6割が肥満に起因しております。またこれらの疾患はいずれも動脈硬化の危険因子であることから、医療費の増加に拍車をかけることになります。従って、ライフスタイルを改善し健康な生活を取り戻すことが急務と考えられます。そこで今回日本肥満学会では、行政機関に対して5項目からなる東京宣言を提言しました。
現在、世界的規模で肥満対策運動が開始されております。糖尿病患者においても肥満対策はもっとも重要な課題と思われます。
戦争している諸外国では、地雷による足の傷害での多数の足切断の報告があります。日本では交通事故や作業での外傷が誘因で足切断に至ることが多いのですが、足切断に到る疾病は、骨肉腫等の悪性疾患、各種脳脊椎疾患やハンセン氏病を除くと糖尿病が主です。糖尿病人口の増加と高齢化社会で、今後足壊疽は増加するものと思われます。糖尿病フットケアの最近の実情に関して報告します。
足白癬症、蜂窩織炎等の感染症、爪の肥厚・陥入や爪周囲炎、胼胝・鶏眼等の角質増加、足の外傷によるびらん・潰瘍、足末梢循環障害、糖尿病性神経障害による足の脱臼・骨折をおこすシャルコー関節等があります。これらの初期病変が悪化進行拡大し、最終的な非可逆的な状態に陥ったものが足壊疽です。
喫煙歴があり、心筋梗塞や脳血管障害を合併する糖尿病患者に足病変がおこりやすいことは注目すべきことです。長期血糖コントロール不良例は全例がハイリスク群といえます。糖尿病罹病期間が10年以上の人、糖尿病合併症では高度の神経障害、腎障害や動脈硬化性下肢閉塞症を有する患者さんに発症しやすいのです。足病変の部位としては足趾や前足部に好発します。
末期腎症患者は栄養障害、皮膚や筋肉の萎縮、動脈硬化性下肢動脈閉塞合併例が多く、感染症に対する抵抗力が低下しやすいこと、透析療法での除水で足の循環障害がおこりやすいこと、足の冷えより家庭用暖房器具の使用で熱傷が起きやすいためとくに注意が必要です。
壊疽になると入院治療が必要となります。保存的療法を基本とし、状況に応じて手術を行います。手術中・後に身体の急変が起こることがあり、全身管理が必要です。高度虚血性心疾患や脳血管障害の合併例は手術ができず、足壊疽の継続治療、感染症、疼痛管理その他全身管理目的で長期入院をしいられ、肉体的・精神的及び経済的な苦痛をもたらします。全身衰弱、褥瘡形成、虚血性心疾患、脳血管障害や感染症併発での死亡例は少なくありません。
血糖コントロールを厳重に行い、かつ血圧や血中脂質の正常化をはかります。さらに禁煙、適度の運動を実行します。また患者さん自身が、自分の足の神経障害、血流障害、変形等の程度を正確に理解し注意する事が大切です。毎日の足の点検、足浴や入浴による足の清潔、靴下のこまめな交換、保湿性軟膏による皮膚の乾燥・亀裂の防止、熱傷防止、靴擦れ防止に努めます。靴擦れが足壊疽の主な誘因となるため、靴の選択、使用時の注意が重要です。小外傷や何らかの足病変がおきたら、速やかに主治医に報告し、診察を受けることが大切です。足病変の治療開始時期の遅延が最も危険です。ハイリスク例は定期的な足の診察と継続的な治療が必要であり、神経障害合併例が多く、自覚症状が乏しいため自己判断は危険です。