DIABETES NEWS No.6
インスリンの自己注射を毎日行っている患者さんの中には、血糖値の変動が大きくて、コントロールの困難な方が少なくありません。
このように血糖の変動のはげしい方には、以前から血糖の自己測定をおすすめしていましたので、かなり多くの患者さんは、自分で血糖を測定することによって、血糖の調整に努めて来られていました。また、そのことによって、この数年来、激しい低血糖や糖尿病昏睡が明らかに少なくなってきていました。
かねて、糖尿病患者さんの妊娠に際して、この血糖自己測定によって、血糖を正常に保つ努力を行い、多くの方々が、立派に赤ちゃんを産むことができるようになっていました。
しかし、最大の難点として、血糖自己測定の必要な場合における費用の出どころがありませんでした。このような訴えを厚生省に繰り返して行ってきた結果、今年の4月、必要のある場合は、患者さんに血糖試験紙を渡して、自己血糖測定をして頂き、その記録にもとづいて治療の指導を行うことに対して、健保適用が認められることになりました。
この血糖試験紙は、インスリン自己注射の指導管理を行っている医師の管理のもとに、患者さんに給付されるものです。給付のためには、血糖の自己測定をする必要性のあること、充分な教育が行われていること、ほぼ毎日の血糖測定が行われていること、指導の根拠となる20回以上の測定値の記録がカルテに添付されていることなど、数多くの約束ごとがあり、インスリンの自己注射をしていると自動的に血糖試験紙が給付されるというような安易なものではありません。
すでにのべましたように、血糖自己測定によって、従来、不可能と考えられていましたインスリン依存型糖尿病の女性でも、正常の妊娠と分娩が可能となりました。この経験を生かして、今後、血糖の変動の激しいインスリン使用者に起こりやすい合併症の完全な防止ができることを望んでいます。
小児期に糖尿病が発病し、10年、20年の罹病期間をもった若い人では、慢性合併症の一つである糖尿病性網膜症を合併してきます。糖尿病を非常によくコントロールしておくと、網膜症の発症率は低くなります。しかし、小児糖尿病者は、思春期をむかえると旺盛な代謝やホルモン分泌等の関係によってコントロールがむずかしくなりがちです。また、卆業、就職、結婚等の生活の上で変化のおこる時でもあります。このため、コントロールを乱して増殖性網膜症へと進行してしまうことがしばしばあります。更に女性では妊娠によって網膜症が悪化し、最悪の場合には失明してしまうこともありますので、網膜症の有無および重症度は常にチェックし対策をたてねばなりません。
網膜症を発症させない方法は、良好なコントロールを保つことです。しかし、インスリン依存型糖尿病では、コントロールが困難で、一定の期間たつと網膜症がでやすいといわれています。そのため血糖の自己測定が必要となり、同時に定期的な眼底検査が必要です。特に若年者では、眼底の周辺部から新生血管の生ずる増殖性網膜症が生じ、後極部にはあまりつよい変化のないことがあります。そのため、充分に散瞳して検査しなければなりません。
もし網膜症がおこれば、早期治療です。網膜光凝固術の最も効果のあらわれる時期(前増殖期および増殖初期)をのがさず光凝固を行い、網膜症を鎮静化することです。最適期に光凝固を受けることにより、失明の心配から解放されることができるのです。この期を逃さないためにも、定期検査が必要です。
不幸にして重症の増殖性網膜症や大量の硝子体出血によって失明した場合でも、硝子体手術によって約半数の人は視力をとり戻すことのできる時代となっています。もちろん、最適な時期を失わない手術が大切です。
このように適切な時期に適確な治療をすれば、小児期から糖尿病があり、網膜症をもった青春期であっても光を失う恐怖から解放されるのです。また、たとえ増殖性網膜症のある女性でも、充分な糖尿病の治療とともに最適期に光凝固治療を行うことによって網膜症が改善されるならば、妊娠・出産が可能となっている現在です。
インスリン非依存型糖尿病(糖尿病)と肥満との関係は、古くから注目されてきました。事実、糖尿病患者さんに肥満が多く、また多くの患者さんが発症以前に肥満を経験しています。
白人では、治療中の糖尿病の80%に肥満があるといいますが、わが国の糖尿病者ではまだ欧米ほど肥満者は多くなく、また肥満の程度も軽度です。当センターの三原俊彦講師の調査でも、過去に肥満があったという糖尿病患者さんは76.3%ありましたが、調査時には35%に減っていました。
最近、全身的肥満とは別に、体型が注目されてきています。一般的に、男性は頸部、項部や腹部などに脂肪がたまりやすい上半身肥満で、女性は殿部や大腿部に脂肪がたまりやすい下半身肥満になるといわれています。しかしながら糖尿病では、性別にかかわりなく、上半身肥満が80~90%と多いのです。とくに上半身肥満女性は、耐糖能異常、高インスリン血症や高中性脂肪血症などがおこりやすく、糖尿病を発症する頻度が高いことが示されました。
上半身肥満の指標としては、簡単にウエスト(腰周囲)とヒップ(殿周囲)の比率(W/H)を用いることができます。W/Hが大きいことは、ウエスト周囲が相対的に大きいことを示し、上半身肥満を意味します。
私どもは、当センターの患者さんと健常人のW/Hを測定しました。W/Hは肥満や加齢で大きくなりますが、とくに糖尿病の女性では、健常人と比べ明らかにウエストの大きいことがわかりました。したがって、女性の上半身肥満傾向は、糖尿病の身体的特徴の一つであると考えられました。
上半身肥満女性は、一見して全体の割には下肢が細く、肥満がなくても殿部が小さくずん胴な感じがします。食後4時間以上たったところで、腰部の最も細い周囲と殿部の最大周囲をメジャーで測定し、その比率(W/H)をだします。肥満していない女性(20~50歳)でも、W/Hが0.85以上あれば糖尿病の危険が大きいと考えられます。
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