DIABETES NEWS No.55
    No.55
     1998 
     AUTUMN 
 

"糖尿病の秋"
 読書の秋、スポーツの秋、行楽の秋、芸術の秋、そして食欲の秋......。日本の秋は何をするにも絶好の季節です。今年も糖尿病週間が近づきました。さまざまなメディアが糖尿病をとりあげることと思います。糖尿病はとくに季節性のある病気とはいえませんが、私達にとっては少し忙しくなる"糖尿病の秋"を迎えます。

全国糖尿病週間の行事に関心を
 毎年11月の第2週は全国糖尿病週間にあたります。糖尿病週間を中心に、全国各地で糖尿病協会、糖尿病学会さらに糖尿病財団などが主催・後援するさまざまな行事が繰り広げられます。"心地よい汗で追い出す糖尿病"―これは、今年の糖尿病週間のメインテーマの運動療法にちなんで糖尿病協会が募集した多数の標語の中から選ばれたものです。運動療法は食事療法とならぶ糖尿病治療の柱であり、その意義や効果の大きさはよく知られています。しかし、患者さんの療養指導にあたる医療スタッフの中には、具体的な指導法について苦労をされている方は少なくありません。

第34回糖尿病週間・東京'98
 東京都糖尿病協会が主催する糖尿病週間のイベントとして、今年も医療・栄養相談とパネル展示(10月27日・火~11月1日・日、日本橋三越)ならびに講演会(11月14日・土、午後2時~5時、九段会館)が開かれます。医療・栄養相談では、血糖測定や無散瞳眼底カメラによる眼底撮影、体脂肪率測定なども行われるので、例年人気を博しています。講演会では「運動の生理と効能」と題する講演と運動療法を中心としたパネルディスカッションが行われます。どなたでも参加できますので、患者さんや家族の方々ばかりでなく、多くの予備軍の人達に参加していただきたいと思います。

糖尿病の啓発活動の重要性
 糖尿病の患者さんの診療に明け暮れる私たちは、患者さんやその身近な人達への療養指導だけではなく、一般の人達の糖尿病に対する理解が深まることこそが、糖尿病を予防し、合併症を予防する上で大切であると痛感しています。糖尿病週間で行われる糖尿病撲滅に向けてのキャンペーン活動が実りあるものになるよう、大きな期待を寄せています。
 


170件余りの貴重なご意見
 初代所長平田幸正先生が昭和60年に始められた Diabetes News も55号になります。これまで皆様のご意見をお聞きしたことがなかったため、53号にアンケートを同封させていただきました。返信用の切手やハガキもなく、どのくらいの方々からお返事が頂けるか心配でしたが、7月25日現在174名、全送付者の約11%がご回答下さいました、厚く御礼申しあげます。当然ながらその方々は熱心な愛読者で、おおむね役立っているとの評価を頂きました。残りの90%の方々の反応が気になるところです。

約70%が内科、約10%が眼科
 Diabetes News 送付先は現在、当センターに患者さんをご紹介下さった医師や医療機関です。回答者の内訳では、約70%が開業あるいは勤務の内科医で、当センター眼科への紹介も多いため、約10%は眼科医でした。多くの先生方が最新情報の分かりやすい解説と、薬物療法や食事療法などのより具体的な記事、また real time の糖尿病センター情報を望んでおられるようです。網膜症やフットケアのような個々の問題に具体的に触れた記事や未受診患者についての記事も好評でした。これは糖尿病の患者さんが増加し、開業の先生方が診療なさる機会が増えているためかと思います。

医療連携に役立つことを願って
 今後は医療連携を広げる上でも Diabetes News が皆様のお役に立つものであるようさらに努めたいと考えております。当センターの FAX 番号を載せるようにとのご要望に前号から沿っております。引き続き FAX でご意見をお寄せいただければ幸いです。さらにホームページを開くようにとのご要望もありましたが、少し先になるでしょう。しかし時代はそこに来ていると感じられます。いずれにしろ双方向での交流が重要です。今後も Diabetes News を継続し、意義あるものにするには皆様のご協力が不可欠です。どうぞ宜しくお願い申しあげます。
 


国際間共同研究の伸展
 今年のアメリカ糖尿病学会はやや蒸し暑い中、6月13日より4日間の日程でシカゴで開催されました。会場はミシガン湖に面した巨大なコンベンションセンターで、あまりにも広いため会場内での移動はまるで町の中を歩いているようでした。
 例年のことながら、最先端の研究成果が世界中から報告されており、糖尿病学の細分化がますます進む一方で、国際間の共同研究が目立ってきたという印象をうけました。なかでも増加の一途をたどる糖尿病の原因遺伝子を見つけだそうというプロジェクトが世界的な関心を集めており、アメリカを中心に最新の成績が報告されました。
 罹患同胞対(同じ疾患を有する兄弟姉妹)を対象にした研究によりインスリン依存型糖尿病(IDDM)の原因遺伝子座位が見事に見いだされたことから、インスリン非依存型糖尿病(NIDDM)についても同様のアプローチによる遺伝的素因の解明に期待が高まっています。それらの成績の一部について御紹介したいと思います。

白人のIDDMと第20番染色体
 フィンランドとアメリカの共同研究で 716組の糖尿病の白人同胞対(兄弟・姉妹症例)について検討した結果、第20番染色体のある領域と糖尿病の有意の連鎖が示されました。連鎖があるということはその領域に位置する遺伝子が疾患の原因である可能性が高いことを意味します。また、ピマインディアンを対象とした研究では、第1番染色体と糖尿病の有意の連鎖が示されました。この領域にはアポ蛋白Aという遺伝子が存在するため、実際にこの遺伝子に変異があるかどうかがさらに検討されましたが、遺伝子の変異は見いだされませんでした。メキシコ系アメリカ人では糖尿病の原因遺伝子が第2染色体に位置することが既に報告されていますが、さらに糖尿病の診断時年齢と第10番染色体の間にも有意な連鎖がみとめられました。
 また、白人について報告された全てのデータを集計し、7,000組の同胞対について再検討した結果では、やはり第20番染色体上の一定の領域において糖尿病と有意の連鎖を示すことが示されました。

ヒューマンゲノムプロジェクトの進行
 このように原因遺伝子座位といってもまだかなり漠然としていますが、一方ではヒトの遺伝子配列を全て読み終えてしまおうというヒューマンゲノムプロジェクトも精力的に進行しているため、糖尿病の原因遺伝子そのものが解明される日もそう遠くはないと考えられます。
 原因遺伝子が明らかにされれば、まだ糖尿病を発症していないけれども遺伝素因を持つ人達に介入することにより糖尿病の発症を予防すること(一次予防)や新たな治療薬の開発にも応用することができ、日常の臨床にも大いに寄与するであろうと期待されます。

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