DIABETES NEWS No.53
    No.53
     1998 
     SPRING 
 

糖尿病受療者数の増加
 最近の厚生省の報告によると、わが国の糖尿病患者さんの受療者は 210万人を超えました。平成5年には157万人といわれていましたので、僅か4~5年の間に大幅に増加したことになります。この背景には実際に患者さんの数が増えたこともあると思いますが、これまで受診していなかった人達が受診するようになったことも大きいと思います。しかし、それでも推定糖尿病患者総数 600万人の3分の1に過ぎません。今も3分の2に相当する(400万人!!)大勢の患者さんは、診断されていないか、診断されても放置していることになります。
多くの未受診糖尿病者の問題
 未受診の糖尿病の患者さん達の多くが、発症して間もない方で、合併症もない軽症の患者さんであるという保証はどこにもありません。初診の患者さんですでに網膜症をもつ人の比率が 40%近いという糖尿病センターのデータは、紹介されて来院される方が多い大学の専門医療機関であることを割引いても、大きな問題であると言わざるを得ません。未受診の患者さんの中にも、いろいろな合併症が忍び寄っているという現実を直視する必要があると思います。

三次予防から二次予防へ
 糖尿病センターには、糖尿病眼科、糖尿病性腎症、フットケア、肥満、高脂血症、小児・ヤング糖尿病、神経障害、糖尿病妊婦などの専門外来があります。それぞれ医師のみでなく、看護婦、栄養士、助産婦、薬剤師なども一体となって、チーム医療を目指しています。重症の合併症に苦しむ患者さんの診療に当たるのは、専門医療機関に課せられた責務と考えています。しかし、臓器の障害や身体障害の予防という「三次予防」の段階から、糖尿病を早期に発見して早期に管理するという「二次予防」を充実することの必要性を日々痛感しています。
 21世紀の国民病、代表的な生活習慣病である糖尿病が、生活スタイルの欧米化に伴って今後ますます増加するものと危倶されています。糖尿病の予備軍といわれる人達に対する発症の予防(一次予防)を目指したさまざまな啓発活動にも力を注ぐ必要があります。病診連携を実現し、また保健衛生の行政とも一体となって糖尿病と対決すべき時だと思います。
 


依然として成人失明原因の第1位
 糖尿病の慢性合併症のひとつである糖尿病網膜症の治療において、網膜光凝固療法や硝子体手術といった外科的な治療法は、多大な成果をあげています。しかし、外科的な治療法の進歩にもかかわらず、糖尿病網膜症は依然として我が国の成人における失明原因の第1位を占めています。

現在の治療の限界
 厳格な血糖コントロールが、網膜症の発症と進展を抑制するということが明らかにされ、失明する危険の高い増殖網膜症への進展阻止には、血糖のコントロールが重要であることが広く普及しました。しかし、すでに増殖網膜症に進展してしまった糖尿病患者が後をたたず、このような例のなかには、たとえ外科的な治療が施行されたとしても、視力の予後は不良となることがあります。とくに黄斑浮腫、激症型網膜症、血管新生緑内障といった病態に対しては、現在の治療法では限りがあります。

新しい治療薬の開発
 今後の糖尿病網膜症の眼科的治療において、期待されるべきものは、確実な増殖網膜症への進展阻止にあり、この作用を有する糖尿病網膜症治療薬の開発が期待されています。このような治療薬の開発には、病態の解明が必要不可欠ですが、最近、糖尿病網膜症の病態解明の研究が盛んにおこなわれるようになり、ある程度のレベルまで解明されるようになってきました。これに基づき、糖尿病網膜症を予防する新しい治療法が試みられています。このなかで可能性のあるいくつかの療法についてあげてみましょう。

可能性のある治療薬
 まず、高血糖の持続により、糖が非酵素的に蛋白質と結合する反応、すなわちグリケーションが亢進し、糖化最終産物(AGE)が産生されます。AGE の産生は、網膜血管を損傷させる原因の一つとされています。この観点から、AGE の形成を阻害する薬剤が、実験的な糖尿病網膜症の治療に用いられ、その有効性が報告されています。
 次に、糖尿病網膜症の網膜血管の閉塞により、網膜の低酸素状態が惹起されると、虚血網膜から血管新生を引き起こす細胞増殖因子が放出されます。細胞増殖因子のひとつに血管内皮増殖因子(VEGF)があげられ、活動性の高い糖尿病網膜症において血管内皮増殖因子のレベルが異常に高いことが明らかにされています。現在、血管内皮増殖因子に拮抗する薬剤の研究が盛んに進められています。さらに、血管内皮増殖因子は、プロテインキナーゼCを活性化させ、血管透過性亢進を引き起こすといわれています。プロテインキナーゼCの活性を阻害することで、糖尿病網膜症の視力低下の一因である黄斑浮腫を予防する経口薬の開発が行われています。
 最後に、血管内皮の損傷を予防する抗酸化剤が糖尿病網膜症に有用ではないかということから、抗酸化剤であるビタミンEの高用量投与が糖尿病患者に対し行われ、その結果、網膜内血流を正常化する効果があったという報告がされています。

待たれる実現のとき
 治療薬の実現化には、いまだ相当の月日を要すると思われますが、研究成果は着実に進展しており、近い将来に糖尿病網膜症治療薬の登場が実現する可能性が期待されます。
 


 糖尿病センターでは若い糖尿病患者さんを対象に月1回グループミーティングを行っています。1995年3月に第1回目を行ってから、早いもので今年で4年目を迎えます。このグループミーティングは月1回第2土曜日午後1時30分から約2時間、センター3階外来の1室で行っています。参加は自由で、予約も何もいりません。毎回10名前後の18歳から35歳ぐらいの患者さんや、その友達や家族が参加しています。最近では当センター以外の患者さんも参加しています。

グループミーティングとは
 グループミーティングは聞いてもらいたい悩みを持ちより、自己紹介をしながら悩みをみなさんと自由に話し合い、自分自身にあった解決策をみつけていくものです。司会・アドバイザーとしてチャプレンの斎藤 武先生、精神科医1~2名、糖尿病内科専門医1名が常時参加しています。
 どのように話を始めたらいいのか、最初はとまどっていた患者さんたちも、斎藤先生の巧みなリードで自分の心のわだかまりを少しづつ話していくようになってきました。

患者さんの参加理由と満足点
『とにかく同じ病気を持っている友達が欲しい』『血糖コントロールがよくならず心配だ』『合併症が進行して心配だ』『親との関係がぎくしゃくしている』『恋愛・就職問題』など患者さんはさまざまな悩みを抱えて参加してきます。そして参加後の感想を聞いてみると患者さん同士で情報交換ができたり、今まで自信が持てなかった自分に自信が持てるようになった点で満足しているという答えが返ってきました。

糖尿病のある人生の充実
 糖尿病のある人生をしっかり歩んでいくための血糖コントロールは、ただ血糖自己測定をして、インスリン注射を行っていてもむずかしい場合があります。とくに青年期の糖尿病患者さん達は年齢的、社会的にも不安がつのり、その不安が血糖コントロールに悪影響を及ぼすことが少なくありません。少しでも不安なことがあったら、ひとりで悩まず、話をして仲間と一緒に問題を解決してみるのもひとつの方法だと思います。みんなで考えてひとつひとつの問題を解決し、ひとりでも多くの人に糖尿病のある人生を充実させてもらいたいとスタッフ一同願っています。
*チャプレン:病院付牧師でカウンセリングできる人のこと

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