DIABETES NEWS No.47
    No.47
     1996 
     AUTUMN 
 

「こどもは未来である」という言葉がある。いい言葉である。もと東京大学小児科学、小林登教授の書かれた本の表題にもなっている。この言葉の重みは一層、こどもを大切にしなければならないという気持ちを強くする。

IDDMのこどもたち
 夏休みになると、私たちの糖尿病センターには多くの糖尿病をもったお子さんたちが入院してくる。小学生から大学生まで、また社会人になった人など、さまざまな生活環境と、さまざまな糖尿病歴をもった人たちであるが、最近、特に若者のインスリン非依存型糖尿病(NIDDM)が著しく増加していることに驚かされる。
 春休みと夏休みをめがけて入院してくるこどもたちは主にインスリン依存型糖尿病(IDDM)で、コントロールの再チェックや合併症の精査を希望して来る人が多い。IDDM のお子さんたちは、本来インスリン注射が不可欠のタイプの糖尿病であるから、必ず主治医がいる。したがってコントロールが悪いといっても、それなりの治療がなされているものである。

こどものNIDDMの増加
 ティーンエイジャーから 20歳代の人々の間に増えてきた NIDDM は、症状がないために治療を行わず、増殖網膜症や壊疽にまでなって紹介されてくる人が多い。この治療放置は社会の糖尿病に対する知識の欠如によることが大きいように思う。
 先日、大学院の学生に糖尿病と妊娠に関する特別講義を行ったところ、ある医科大学を卒業した一人の医師が、「大学6年の病院実習のとき、産婦人科で、糖尿病があるから中絶しなさいと言われて、ワーワー泣いている患者さんをみて、ショックを受けたが、今日の講義で糖尿病でも出産可能なことがよくわかった」という主旨の感想を述べてくれた。

糖尿病者を守るための市民講座
 まだ胎内にあっても、もう生まれていても、等しく日本を背負って立つ、こどもは未来なのである。来年の糖尿病学会の時には、こどもを含めた、糖尿病者を守るための大きな市民講座をしようと、私は今、壮大なプランを練っているのである。
 


わが国の腎不全医療の現状
 糖尿病が原因で不幸にも腎不全にいたる症例は年々増加し1995年度中の新規透析導入者の約32%を占め、第一位である慢性腎炎の 39%に迫りつつあります。わが国の透析療法のレベルは世界的にみても最高水準に位置し、生命予後の改善はめざましいものがあります。しかし糖尿病透析患者の Quality of life は満足のいくものではなく、重度の起立性低血圧や水分、塩分およびカリウム制限と平行して血糖コントロールを行うことの困難さが問題になります。一方、腎臓移植を受けた糖尿病腎不全患者では全身状態の改善が明らかであり最も有効な治療法と考えられます。

糖尿病腎不全患者の腎移植
 米国では年間約9,000例の腎移植が行われ、移植患者の原腎疾患として糖尿病が30%以上を占め、第1位です。また原腎疾患別に見た移植腎の生着率も慢性腎炎や腎硬化症と殆んど差がありません。これにひきかえわが国の糖尿病腎不全に対する腎移植は極めて少数例にしか行われておらず、1991年度末までの統計では全腎移植患者 7,740例のうち僅か 0.5%、合計38名という成績です。
 このようにわが国で糖尿病に対する腎移植が少ない理由として患者が高齢で大血管障害の合併例が多いこと、移植後にステロイドを服用するために血糖コントロールの悪化が懸念されること、非糖尿病患者に比較し周術期のトラブルが多いと予想されることなどが挙げられます。これらの問題点の多くは糖尿病専門医が移植医と協力することで克服できます。

当院における腎移植
 東京女子医大では、糖尿病センターと腎臓病センターの医師が症例の選択から術前術後の管理まで共同で診療に当たり、現在までに 28例の糖尿病腎不全に対する腎移植例を経験しました。合併症の軽度な若年者が対象になるため半数以上はインスリン依存型糖尿病患者です。移植様式はわが国の特殊な事情から肉親や配偶者より提供を受けた生体腎移植が大部分です。生着率は米国同様に非糖尿病患者と全く差が認められず、患者の社会復帰、Quality of life の点からも透析療法に較べてはるかに優位です。
 懸案の血糖コントロールについても、透析療法から解放され規則的な食事療法が実行されること、活動性の拡大が運動療法につながること、肉親から臓器を提供され、血糖コントロールに対して新たな動機付けができることなどからむしろ良好です。したがってわが国においても糖尿病が存在するために腎移植が敬遠される必要はありません。

これからの腎移植
 透析療法中の糖尿病患者は、積極的に腎移植の適応を検討されるべきと考えます。将来的には脳死ドナーからの臓器移植に対してコンセンサスが得られれば、欧米なみに増加することが期待されます。そのためには全国的な移植医と内科医が協力できる体制づくりが急務と考えられます。
 


治療費公費負担は18歳まで
 御存知のように、小児期発症インスリン依存型糖尿病(IDDM)の患者さんの医療費は18歳の誕生日まで、小児慢性特定疾患として公費で負担されます。18歳を過ぎますと、一部の地域をのぞいて家族あるいは本人の負担となります。そこで、「18歳を越えても医療給付を受ける必要性とその根拠」を厚生省からの諮問というかたちで、日本糖尿病学会、日本小児科学会、小児内分泌学会を通じて同学会の小児糖尿病委員会に依頼されました。

18歳以上IDDMのアンケート
 北里大学小児科教授・東京女子医科大学糖尿病センター客員教授である松浦信夫会長が中心となり、日本糖尿病協会からの調査研究費の援助のもと、全国の18歳をこえた IDDM の皆さんに医療費その他生活全般についてのアンケートを昨年実施しました。数多くの IDDM 患者さんが受診している施設を中心に1,855通が発送され、1,013通の回答が送られてきました。これらの回答について、松浦教授が詳細な解析をおこない、本年の日本糖尿病学会でその全容が報告されました。その内容は、本年7月号の『さかえ』のトップ記事にもなっていますので、もうお読みになられた方も多いこととおもいます。
 これほど大規模で詳細な実態調査はわが国でははじめてのことです。よせられた IDDM ヤングの声は、もちろん日本人 IDDM 全員の意見が反映されているわけではありません。アンケートの届かない施設にもたくさんのヤングが通院していることが想像されますし、送られてきた回答は、自分の意見をしっかりもち社会に対して意見を述べたいと思っていたヤングからでありましょう。

回答にみられるヤングの姿
 以下に内容の概略をのべてみます。
 回答者は男性 354名、女性 659名で、就職状況をみてみますと、男女とも 60%以上のかたが就職していて、正社員は男性の 82%、女性の 72%でした。これは就職しているかたたちが多く積極的に回答したかもしれません。常勤のかたの 90%は社会保険にも入っていました。仕事をバリバリしているヤングの一方で、仕事と血糖コントロールがうまくいかず、合併症や精神面で苦しんでいるヤングの生の声も届きました。また、収入の面では同性同胞より少ない傾向ができました。これはむしろ正社員になれる道が狭いことを表わしているのではないかと、松浦教授は分析しています。
 就職のとき、糖尿病を告げたかたが 43%、うち拒否されなかったかたが 63%でした。これは私どもが実際ヤング外来で感じていることと合致します。最近はこちらが気づいたときにはもう就職しているヤングが多く、就職の時に相談されることがたいへん少なくなりました。
 医療費については、大体半数のかたは収入の5%、10~15%のかたが 40%ぐらい、15~20%、20%以上のかたがそれぞれ7%を占めると回答していました。アンケート本来の趣旨である医療費についてはこれらの実態をふまえて今、検討がなされています。

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