DIABETES NEWS No.41
    No.41
     1995 
     SPRING 
 

瓦礫の山と化した神戸の街
 3年に一回世界のどこかの都市で行われている国際糖尿病会議が昨年11月、神戸のポートピアで開催された。参加者は約5000人余で、日本式の心のこもったおもてなし、定刻通りのプログラムが進行する几帳面なスケジュールの運び、組織立てのうまさなど、数々の高い評価を得て成功裡に終了した。その美しい町、神戸が2ヵ月後に機能を失った瓦礫の山になるとは参加者の誰一人として想像したものはなかったであろう。
 かつて経験したことのない程、豊富な食べ物を中にはさんで、先進国、発展途上国をとわず、皆、心が一つになって行われた開会パーティーやサヨナラパーティーが夢のように思いおこされる。

災害時のインスリン確保
 生活のすべてのリズムを一瞬にしてかき消したこの大きな阪神南部地震が患者さんにもたらした恐怖の一つは、インスリンが手に入らなかったらどうすればよいかという不安である。震災後、一番多かった患者さんの質問は、このことであったように思う。
 自己のインスリン分泌が残存する NIDDM 患者さんはまだしも、NIDDM でも自己インスリン分泌能がすでに限りなく IDDM に近づいている患者さんや IDDM では、何らかの形で当座のインスリンを確保しておかなければならないことは事実である。災害時にどんな風にして、当座必要なインスリンを持ち出すかは、各自の生活の中で工夫のいることでもあるが、そんな時 300単位入りのディスポーザブルペン型インスリンは便利であろう。

大空襲を乗り越えたIDDM患者
 私は最近一人の貴重な症例報告を思い浮かべている。4~5年前、筑波大学内科から報告されたもので、患者さんは昭和初年で発病した IDDM の医師である。彼は、第二次世界大戦の空襲が激しくなった時は、庭にインスリンを埋めて冷蔵庫代わりに使い、一度も糖尿病昏睡になることなく、75歳の天寿を全うした。罹病期間 50年の IDDM でありながら剖検所見はどこにも合併症がなかったというのである。IDDM の治療に、たくさんのことを教えられる症例報告であった。
 


 足病変は糖尿病の合併症の一つであり、悪化し壊疽になると足切断に至ることがあるのでおそれられています。最近、糖尿病患者の足病変は増加しつつありますので、その理由と治療の進歩についてのべたいと思います。

糖尿病の足病変の特殊性
 糖尿病の神経障害と動脈硬化症による循環障害に、感染症が加わって足病変をおこします。このことは医師は勿論のこと患者さんにも理解されていますが、立位や進行の姿勢や物を持つことが関係している事についてはあまり知られていません。食事療法も十分なされ血糖コントロールが正常範囲に維持されていても足病変はおこりえます。逆に長期にわたり難治性の足病変で困った糖尿病者が、入院して安静を守り治療したら治った例はよくみられます。日常生活での立位歩行が鶏眼・たこ、爪のトラブルとなり、皮膚の乾燥より亀裂を生じさせたり靴ずれがおこるのです。糖尿病の運動療法や仕事の内容を主治医はよく把握することが大切です。

透析療法中の糖尿病患者は足病変に注意を
 糖尿病性腎症を有する者は、糖尿病歴が長く、高度の動脈硬化症が全身にみられます。レントゲン検査で石灰化が足趾先端にまでみとめられ、循環障害をきたしています。また神経障害による足の感覚障害より靴ずれや熱傷をおこしやすくなっています。透析による除水で、足の乾燥・亀裂がおこりやすく、足趾の微小循環障害がおこり、小さな外傷より足壊疽に悪化することがあります。透析をうけている糖尿病患者は毎日の足の点検と手入れが重要です。

足病変の治療の進歩
 血糖コントロールを最良に保つことが第一条件であることはいうまでもありません。
 局所の感染症に対しては、局所的消毒や各種軟膏製剤の使用と経口的抗菌剤の併用で良好な治療効果がえられています。一日一回の塗布で有用な抗白癬菌剤が登場して以来、患者さんのコンプライアンスはよくなっています。足潰瘍に対しては、成長因子を含めた肉芽形成及び上皮形成促進剤や潰瘍面の被覆材料の開発で治癒効果の促進が得られています。また虚血性足病変の治療に対しては抗血小板剤、血管拡張剤、赤血球変形能改善剤、抗凝固剤、抗脂血剤等の使用で重要な虚血状態の改善をはかります。
 足病変の早期発見、早期治療が望まれます。
 


重篤な糖尿病性腎症
 糖尿病性腎症は脳血管障害、虚血性心疾患などの大血管障害を合併することが多く、その死亡率は、腎症のない糖尿病患者の数倍と言われています。また、糖尿病性腎症のため人工透析へ導入される患者さんも増える一方です。そこで腎障害の早期発見、早期治療が課題とされてきました。

腎症の早期診断
 従来糖尿病性腎症の診断は、尿タンパクの有無でなされてきました。しかし尿タンパクが持続的に陽性にいたった腎障害は不可逆的で、腎機能低下は進行します。一方、尿中アルブミンは初期糖尿病性腎症のマーカーとして注目されています。Mogensen は尿中アルブミン排泄率を用いた病期分類を提唱し、微量アルブミン尿期の腎病変は、血糖コントロールその他の積極的な治療で可逆的であることを示しました。

ACE阻害薬
 厳格な血糖コントロールは尿中アルブミン排泄を減少し、糸球体濾過率の低下を予防しますが、高血圧の治療も同様の効果があることが明らかになりました。種々の降圧剤のなかでも、アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬の腎機能保持作用は最も優れていました。この効果は、降圧作用とは独立した ACE阻害薬特有のものと考えられます。ACE阻害薬が糖尿病性腎症に有効であるメカニズムは不明ですが、糸球体毛細血管の内圧を下げ、透過性を変化させることや糸球体の肥厚を防ぐこと、メサンギウム基質の増生を抑制することなどが推察されています。

NIDDMにも有効
 当初、ACE阻害薬はインスリン依存型糖尿病(IDDM)の腎症に有効とされ、インスリン非依存型糖尿病(NIDDM)に対してはその効果を疑問視する報告も見られました。しかし徴量アルブミン尿期で糖尿病性の変化が主体と考えられるような症例に対象を限定した場合、ACE阻害薬の効果は IDDM と同様と考えられます。

ACE阻害薬の適応
 微量アルブミン尿期で血糖コントロールを行ってもアルブミン排泄の減少しない症例には、ACE阻害薬の投与をこころみるのがよいと考えられます。顕性タンパク尿期も投与対象となりますが、腎機能低下がいちじるしい症例に ACE阻害薬を投与した場合、腎機能の急性増悪や、血清カリウム値の上昇などの電解質異常をきたす場合がみられます。特に血清クレアチニン 2.0mg/dL以上では慎重投与が望ましいでしょう。また一般的な ACE阻害薬の副作用である咳嗽、過度の降圧作用には注意が必要です。

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