DIABETES NEWS No.36
    No.36
     1993 
     WINTER 
 

「糖尿病談話会」
 去る10月30日、糖尿病談話会100回記念講演会という会が催された。講演内容は、日本側から慈恵医大の森豊先生による「糖尿病モデル動物に学ぶ」と、後藤由夫先生の「糖尿病治療研究の将来」、カナダのトロント大学ジンマン教授の「インスリン依存型糖尿病の管理」、ソウル大学ミン教授による「日韓糖尿病への絆と治療への将来」であった。記念講演会であるから、内容はインターナショナルである。
 この糖尿病談話会は、糖尿病学の研鑽をつもうという人達のために、ヘキスト社がスポンサーになって出来た会である。第1回は、昭和33年12月10日に阿部正和先生の座長で、腎症と経口糖尿病薬の講演がもたれている。したがって、東京地方で「ヘキストの談話会」といえば、糖尿病談話会を指しており、爾来、今日まで営々と続き、ついに100回に至ったというわけである。
 糖尿病の勉強会は、今、全国各都道府県にたくさんあるが、その勉強会の先鞭をつけたのがこの会であるともいえる。

100回の積み重ねに想う
 この会が発足したとき、私はちょうど医学部を卒業して、入局したばかりであった。以来、一流の臨床家や研究者から、幅広い視野にたった講演を聞き、いろいろ学ばさせていただいたものである。
 一口に100回といっても、それは人の人生の100年にも相当するようなもので、貴重な積み重ねである。私は、この会によく出席したものの一人として100回記念の挨拶を依頼された。私は1000年、2000年と生きつづける桜の花にちなんで、この会が紀元2000年を超えて末永く持続することを祈念してお祝いの言葉とした。持久力をもって長くつづけることが、いかに貴く偉大であるかを改めて認識したものである。

患者教育もくり返しと持続
 若い頃、恩師から「研究に大切なものは持続で、持続こそ力である」ということを教えられた。マンネリに抵抗しつつ、くり返しくり返し行わなければならない患者教育もまた然りであると思う。
 


糖尿病合併症の増加
 1921年のインスリンの発見以来、糖尿病は不治の病ではなくなりました。しかしインスリン治療が普及して人々が長生きするようになると、全身の臓器、特に神経、腎、眼に重症の糖尿病合併症が出現するようになりました。
 今、糖尿病の合併症を予防することが強く求められています。合併症をおこしやすい遺伝的背景も否定できませんが、以前よりヨーロッパの各施設からの報告で、高血糖状態自体が合併症をひき起こすのではないかといわれていました。
 一方、この15年間に血糖を正常化する方法のすばらしい進歩がありました。ペン型注射を用いた4回注射やインスリンポンプによる CS I I(持続皮下インスリン注入法)などの方法です。

DCCTとその研究目標
 これらの実績のもと、1982年から Diabetes Control and Complications Trial (DCCT) という大事業が180億円をかけてアメリカで始まりました。この結果が、本年6月のアメリカ糖尿病協会の学術会議と9月のヨーロッパ糖尿病学会で発表され、センセーションを巻き起こしました。
 DCCT の目的は3~4回法や CS I I などの強化療法が従来の1~2回注射をする治療法より糖尿病性合併症を予防するか(第一次予防)、この強化療法が従来の治療法より合併症の進展に良い影響を与えるか(第二次予防)の2つです。

DCCTの成果
 13歳から39歳までの1400余名のI型糖尿病の方がこの研究に応募しました。強化療法群の9年間の平均 HbA1C値は、目標を上回り 7.2%にとどまりました。しかし9年後に、一次、二次予防を合わせて、強化療法群の網膜症の発症はこれまでの治療法より 70%減少、アルブミン尿の出現は 56%減少、腎症の発症は 60%減少、という結果がでました。強化療法群では低血糖症状の頻度は逆に増加しましたが、致死的なものは1例もありませんでした。
 DCCT の結果は、よい血糖コントロールをめざせば合併症はおこりにくく、また一度発症した合併症も進展はないことを我々に知らせてくれました。この研究はI型糖尿病を対象に行われましたが、I I 型糖尿病でも同じことがいえましょう。

毎日の血糖管理が合併症を防ぐ
 日本の糖尿病人口は、ますます増加の一途をたどっています。厚生省も糖尿病予防キャンペーンに本格的にのり出しました。DCCT は、糖尿病になりやすい体質があっても毎日の血糖をよくしておけば、合併症がおきにくいことをはっきりと示してくれました。
 


書名を変え装いも新たに
「糖尿病の治療のための食品交換表」が改訂され、「糖尿病食事療法のための食品交換表」(5版)と書名も変え、装丁と判型も新しくなりました。
 従来、糖尿病の食品交換表は小型で、第1版は昭和40年9月発刊され、現在使用しているものは昭和58年6月に第4版補として作られましたが、すでに約10年が経過しています。
 この食品交換表は糖尿病の正しい食事療法を実施する上で、医師や栄養士が指導しやすく、患者に理解しやすいように配慮して作られたものですが、一部には理解しにくいという声もありました。

改訂は患者サイドに立って
 新しく改定された交換表は、患者サイドにたって、わかりやすく、親しまれやすいようにとの主旨で作られたため、医師や栄養士に必要であっても、患者に必要でないものは記載されていません。また本のサイズもB5判となり、活字は大きく、印刷もカラーで、食品の写真も実物の約1/2になって、より視覚に訴えるようになりました。

改訂のポイント
新しい食品交換表
 改訂のポイントをいくつか挙げてみます。
(1) 基礎食の削除――基礎食は献立の作成を容易にするために設けられたもので、指導者には便利であっても患者には特に必要がないとの理由から削除されました。
(2) 基礎食+付加食も削除――この記載は誤解をまねきやすく、付加食を表3、表4、表5からとることが多くなり、その結果が脂質エネルギー比が高くなるので、動脈硬化防止のためから削除になりました。
(3) 解説文の変更――「糖質の量は一般の人の食事に比べるとかなりの制限になります」という記載は、糖尿食の栄養素組成が一般食とほとんどかわらなくなった今日特に必要ないという理由で削除されました。
(4) 野莱の分類変更――糖質の少ない野菜とやや多い野菜に分けられ、それぞれ有色野菜とその他の野菜に分けて表示されていましたが、これを緑黄色野菜と淡色野菜に表現を改めて記載されています。また、海草、きのこ、こんにゃくも表示されています。
(5) 付録について――付録という名称をやめ、付録1は調味料と改め、次に「外食料理、インスタント食品」と、「嗜好食品」がそれぞれ掲載されています。
(6) 参考資料――参考資料として食塩の多い食品、コレステロールが多い食品、食物繊維が多い食品が巻末に表示されています。
 なお今回改訂された交換表は携帯に不便なため、表の部分をまとめた携帯用の縮小版もいずれ発行される予定です。

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