DIABETES NEWS No.30
    No.30
     1992 
     SUMMER 
 

Diabetes News の発刊(1985)から
 昭和60(1985)年、Diabetes News の第1号が発刊されました。第1号で"多様化し重症化した糖尿病に対して、患者さんを含んだ治療に関与する各パートの連絡をよくし、治療効果をあげることを目的とする"と述べました。その後、1年4回の発行が続き、今回で30号となりました。
 この間に、昭和62年3月23日、現在の新しい糖尿病センターの建物に引越し、新システムに乗って現在に至りました。同年10月30日、新宿区医師会と話し合い、原則として毎月第4金曜日の午後6時から地区コメディカル糖尿病教育のための糖尿病セミナー第1回が開催されました。このセミナーは、以後ますます盛況になって今日に及んでいます。Diabetes News のお知らせ(第4面)に、時々この予告が出ていますが、毎回ご案内というわけには行かず申しわけありませんでした。いずれにしても、このように勉強された方には、何らかの資格がつくという考え方があり、全国各地でそのような動きが起こっています。このようなことは、中央から指令が出ることは望めずに下から盛上げ、自分たちで作り出すことが大切だと思います。

厚生省糖尿病調査研究事業と糖尿病協会
 平成元(1989)年、厚生省は糖尿病の重要性に着目、多額の調査研究事業費を計上しました。以後今日までこの事業は継続しています。糖尿病センターも、この研究事業の一部に従事することになりました。また平成2年、私は突然社団法人糖尿病協会の理事長に推されました。これは古い日本糖尿病協会(患者友の会)から、昭和62(1987)年に全く新しい公益社団法人(特定公益増進法人ではありません)となり、厚生省疾患対策課の所管となったものです。この2年間で、新しい出発の目途がつきましたので、任期1期(2年)で辞任致します。

新しい時代へ
 すでに大森安恵教授が糖尿病センター所長に就任され、1年のうちにすばらしい体制を作られました。この Diabetes News 30号を機会に、今までご支援を頂きました皆様のますますのご多幸を祈りつつ筆を擱くことに致します。
 


インスリンの効果が正常に現われない
 近年、欧米において、「インスリン抵抗性」という耳慣れない言葉が、大変重要な意味を持つことが明らかにされてきました。
 インスリン抵抗性とは体の中でインスリンの作用が正常に働かない状態をいいます。たとえば、血中のインスリンが正常レベルにありながら血糖が高い状態は、インスリン抵抗性であり、この状態は肥満者や NIDDM 患者の多くでみられます。

異常は主として糖代謝にみられる
 インスリンの働きの異常は糖代謝のみにみられ、脂質や蛋白質や水、電解質などの代謝や細胞増殖などに対するインスリンの作用はほぼ正常に保たれていると考えられています。インスリン抵抗性のある患者では、抵抗性の分だけ余計にインスリン分泌が高まり、そのため肝臓での脂肪の合成が過剰になり、血液中の中性脂肪が増加し、肥満(とくに上半身型)を生じ、一方、HDLコレステロールは減少します。また、インスリンの複雑な作用で高血圧も惹き起こされると考えられています。
 このようにインスリン抵抗性の強い患者さんでは、代償性にインスリン分泌が高まることにより、高血糖のほかに肥満、高血圧、高脂血症などが惹き起こされて、心筋梗塞の危険が増加します。
 欧米では心筋梗塞が NIDDM 患者の死因の第一位(50%以上)を占めるため、「インスリン抵抗性症候群」が大きな関心を集めているわけです。一方、わが国でも近年、心筋梗塞は NIDDM 患者の死因の上位に上ってきており、「インスリン抵抗性症候群」の病態解明が急がれています。

治療や合併症予防の努力
 当センターでも 200人近くの患者さんについて、1人1人インスリン抵抗性の度合を人工膵臓を利用した方法で測定し、治療や合併症予防のために役立てています。
 インスリン抵抗性は遺伝的に受け継いだ部分が大きいと想定されますが、体重を是正し、適正な運動を励行し、血糖のコントロールに努めることによりかなり改善することが分かっています。また現在、インスリン抵抗性を改善する新薬の開発も進行中で、近い将来治療に導入されるものと期待が寄せられています。
 


 すでに糖尿病と診断され充分な治療をうけている場合には、糖尿病があっても正常妊婦と同じ分娩結果を得ることが出来るようになりました。しかし児の先天性奇形の頻度は約4%で20年前と変わらないことが今問題になっております。

妊娠前からのコントロールが必要
 妊娠に気付いた時、健康な赤ちゃんを願う気持ちは、どの妊婦にも共通したものです。しかし血糖が高いまま妊娠すると、赤ちゃんが fuel mediated とよばれる先天性奇形になってしまう危険があります。奇形は妊娠の初期に決定されるので、妊娠に気が付いてから血糖をコントロールしたのでは間に合いません。
 また進行した網膜症を放置したまま妊娠してしまうと、急に悪化して失明することがあります。その危険を除くために、最近では糖尿病女性は妊娠前から糖尿病をコントロールして計画妊娠を実行することが薦められています。

糖尿病女性の計画妊娠
 妊娠を希望する場合、糖尿病を治療している医師にその意志を伝えます。そして必要な検査をうけ、血糖を正常近くに保ち、主治医に妊娠許可をうけてから妊娠することを計画妊娠といいます。自覚症状がなくても網膜症は進行していることがありますので、眼底検査は必ず受けることが必要です。

妊娠前からの患者教育の重要性
 近年、学校検尿が行われ、早期に糖尿病が発見されるようになりました。わが国では10代発症の糖尿病でもインスリン非依存型糖尿病(NIDDM)であることが多く、自覚症状がないのが普通です。そのためせっかく早期に糖尿病が発見されても、糖尿病の治療を中断したり、放置したりしていることが多いようです。放置すれば妊娠する年頃には罹病期間は10年以上になり網膜症、腎症が出現してくるようになります。
 ここ数年、このような患者さんが増えてきました。そのような患者さんは妊娠してから私共のセンターに紹介されて来るのですが、高血糖であることはもちろん増殖網膜症になっていることすら知らないまま妊娠している場合が多く大変危険です。この危険をふせぐには、妊娠前からの患者教育が重要です。
 糖尿病センターでは、妊娠中の方はもちろん、妊娠を希望している方のために、毎週火曜日午前中に妊娠外来を行っていますので利用して下さい。

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