DIABETES NEWS No.28
    No.28
     1991 
     WINTER 
 

インスリン治療中の患者の国際間移動
 すでに何年も前から、アメリカのインスリン依存型糖尿病に罹った高校生が交換留学生として1人で日本に来ていることを知りました。その後、日本からもアメリカに行くインスリン依存型糖尿病の高校生の留学の相談を受けるようになりました。そのような経験をした1人の学生から、日本より外地の方がインスリン注射に関する学校や友人の理解が良いので、そのまま暮したいという話も聞きました。しかし、今は日本でも理解が進んで問題はないはずです。
 このようなインスリン依存型糖尿病に限らず、インスリン非依存型糖尿病でインスリン注射中の患者さんの渡航も増えています。それとともに英語圏以外にも行く人が増えましたので、スペイン語、イタリア語をはじめ、世界中どこでも通用するような、低血糖とかインスリン使用中とかを注意するカードの用意が必要になりました。

医師間の国際的医療連絡上の相互理解
 かなり進んだ合併症を持ち、仕事で世界中を廻っている白人の糖尿病患者から、アメリカに行った時アメリカ糖尿病を代表する医師に診てもらいたいという申し出がありました。ちょうど、ワシントンで開かれる国際糖尿病連合総会長の H.Rifkin 先生からの手紙がありましたので、早速、この先生へ紹介状を持たせました。
 ところが間もなく、夜中に Rifkin 先生から私の自宅へ電話があり、現在、総会準備で書類が遅くなるので一応電話で紹介患者の返事をしたいという長電話がありました。間もなく、厚い返信書類も届きました。現在の私には、国際間で紹介を受けたからといって長い国際電話をかけ、加えてこんな詳しい返事を書く時間も経済力もないと残念でした。
 診察、治療、入院食事などすべて均一というすばらしい日本医療の世界に冠たる誇りを知らせておかないと、誤解を受けかねないと思った一幕でもありました。今後、ますます医療の国際的の相互理解は、医学という学問以外にもぜひ必要になって来ています。
 


よくみられる皮膚病変
 内科医がよく経験するごくありふれた皮膚疾患に、湿疹、白癬、せつ腫病などがあります。これらが慢性化したり、再発再燃をくり返したりする場合には、糖尿病の存在を考える必要があります。また、健常人に同時に多種類の皮膚病変がみられる時には、やはり糖尿病のスクリーニングが必要です。
 糖尿病者に皮膚病変が存在する場合には、血糖のコントロールを良好に保つことが、皮膚疾患治療上の重要なポイントです。たとえば、白癬(水むし)は、健常者と糖尿病者で発生率においてはそれほど違いはないと言われています。しかし、糖尿病者の白癬症は、血糖値が高いと重症で治りにくく、「水むし」くらいと軽視して不潔にすると二次感染のために蜂窩織炎を起こしたり、それがもとで壊疽へと進展することがあるので注意が必要です。

糖尿病に比較的特異な皮膚病変
 特異的な皮膚病変とは、細小血管障害や代謝障害と関連のある皮膚病変で、いわゆる糖尿病の直接デルマドロームとみなされるものです。
 下腿伸側に好発する皮疹には、リポイド類壊死症や前頸骨部色素斑があります。
 顔面、頸部、四肢伸側に小丘疹が多発し、それらが環状に配列したり、時に融合して辺縁隆起性の局面を形成する播種状環状肉芽腫も糖尿病に多いとされています。
 手足に突然発生する糖尿病性水疱は、豆粒大から径 10cm に達するものもあり、2度の熱傷に類似しています。くり返し再発するのが特徴で、水疱が破れたあと感染を合併すると壊疽となることがあります。
 項部から背中や肩にかけて皮膚が厚くなる糖尿病性浮腫性硬化症の患者は、しばしば肩こりや首の運動障害を訴えます。肥厚した皮膚はつまむことができず、指圧痕を残さないことが特徴です。
 手指の伸展が困難となるデュプトレイン拘縮は、両手の手掌腱膜の結節、肥厚、腱膜の短縮、指の変形が第4指を中心に第3、5指に生じます。罹病期間が長く、コントロール不良の糖尿病患者に多いといわれています。
 このように、糖尿病では多彩な皮膚疾患を併発することを紹介し、好発部位を下図にお示ししました。(ホームページ上では、図は省略しました)
 


糖尿病性心筋症とは
 糖尿病における心病変は、従来は冠動脈硬化症を伴う虚血性心疾患が主であると考えられていましたが、近年糖尿病に特異的な心病変として糖尿病性心筋症が臨床的に注目されはじめました。1972年 Rublar らが、糖尿病で冠動脈疾患を認めずに高度心筋障害をきたした病理解剖例を報告して以来、冠動脈硬化症や高血圧症などに起因しない心筋障害、すなわち糖尿病性心筋症の概念が生まれました。その成因には、心筋内小動脈病変、心筋代謝障害や自律神経障害があげられています。

潜在性心機能障害
 負荷心電図の判定が陰性で、高血圧を合併していない糖尿病患者に負荷タリウム心筋シンチグラフィーを行ったところ、その 60%に一過性の灌流欠損を認めたという報告があります。当センターでも臨床的に心疾患、高血圧症、腎疾患を認めない 30歳以下のインスリン依存型糖尿病患者にドプラー心エコーを行ったところ、左室拡張機能の低下を認めております。このように糖尿病性心筋症では、臨床的に心不全徴候が全く見られない時期にすでに心機能障害が認められます。
 また、糖尿病性心筋症の診断は虚血性心疾患を否定することが前提でありますので、成人の虚血性心疾患合併例では糖尿病性心筋炎の存在を証明するのは困難になります。一方、糖尿病患者における心筋梗塞はうっ血性心不全など重症化する頻度が高くなってきています。この原因は明らかではありませんが、心筋の変化もこの病態に影響していることも考えられます。

予後と対策
 糖尿病性心筋症は、このような潜在性心筋障害から、安静時収縮能の低下が認められる状態まで漸次悪化すると考えられます。そこに、高血圧が合併しますと、心筋の病変はさらに重症化するといわれていますので、初期からの血圧の管理が重要となります。また、動物実験ではインスリン治療にてその改善が認められていますが、臨床的には短期の血糖コントロールのみでは左心機能の改善は認められておりません。従って、長期の安定した血糖コントロールが維持されなければ心機能の改善は期待出来ないものと思われます。

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