DIABETES NEWS No.24
    No.24
     1990 
     WINTER 
 

「日糖協」のあゆみ
 昭和36年、ある事情のため日本各地の糖尿病患者会は急に統合され、「日本糖尿病協会」ができました。略して「日糖協」と呼ばれています。当時の日糖協は、患者会の性質を持っており、会員相互間の親睦機関としての役割を持ち、「全国糖尿病週間」の開催、会誌『さかえ』の発行などを行って来ました。しかし、すでに会員以外の小児糖尿病サマーキャンプに対する援助を行うほか、失明や腎不全に悩む糖尿病者のためにも仕事をすることが必要であり、会員の福祉にとどまらず、広く糖尿病患者に役立つことを目指すように昭和58年、会則の一部変更がありました。

「社団法人日本糖尿病協会」の誕生
 さらに昭和62年、日糖協は「社団法人日本糖尿病協会」となり、新しい定款によって、全く新しいものに変わりました。旧協会の時代は終わり、新しい日糖協へ前進しました。
 とくに注目したいのは、この社団法人日糖協の定款に「糖尿病に関する正しい知識の普及啓蒙、糖尿病患者およびその家族の療育指導、糖尿病に関する調査研究を行うことにより、国民の健康の増進に寄与することを目的とする」と述べられたことです。糖尿病学会も協会に先立って社団法人となっていましたが、その定款には「もって我が国の学術の発展に寄与することを目的とする」と述べられ、学会の主目的は「学術の発展」と明記されました。学会としては当然のことといえます。

BDA、ADAと同じ内容に
 旧日糖協の会則では"日本糖尿病学会の指導のもとに"、"協会会員の福祉の増進をはかる"ことを目的とするという言葉に見られるように、極めて狭い考え方に立っていました。それがイギリス(BDA)、アメリカ(ADA)の協会と同じ内容、すなわち"全ての糖尿病患者の健康の向上を目的とする"協会に3年前に生れ変わり、単なる患者会ではなくなりました。この中には、多数の医療担当者その他を含むことが必要となったのです。
 


硝子体手術とは?
 硝子体手術は、眼球の角膜と強膜の境界(黒目と白目の境)から強膜(白目)の側へ約4mmのところに長さ1.3mm程の切開を作り、この孔を通して濁った硝子体を取り除くための器械、網膜剥離の原因となる瘢痕組織を切るための鋏や剥し取るためのピンセットなどを出し入れして手術操作をします。
 これらの器械は、全てが直径約1mmの太さに納まるように設計された精密器械で、その性能も安定していなければなりません。手術操作も極めて精密さを要求され、手術顕微鏡を使って 0.1mm単位での操作を行います。この手術手技は約20年前に始まりましたが、この10年間にめざましい発達を遂げ、さらにレーザー光凝固をも眼の中で手術中に行えるようになり、手術成績の向上に貢献しています。

硝子体手術の結果
 硝子体手術をしたことにより、どのくらい視力が改善するのでしょうか? 視力の改善率は、手術前に眼の中の状態がどの程度進んでいるかで決まります。
 ただ単に出血が硝子体に及んで濁っているだけの場合は、濁りを取り除き出血の原因になる場所を電気凝固するだけで済みます。このような場合には、当センターで手術を受けた患者さんを見る限り、ほぼ 95%が視力改善しています。反対に、瘢痕組織が強く、網膜剥離が広い範囲で形成され、しかも視力に最も影響のある黄斑部に網膜剥離が及んでしまった場合は、濁りを取ると同時に網膜剥離を治すためのかなり複雑な手術操作が必要になり、このような場合の視力改善率は当センターでは60%前後となります。
 当センターでは後者の重症例を手術する場合が多く、全体としての視力改善率は約70%になっています。

どの程度の視力改善か?
 比較的病状が軽い段階で手術を受け、経過が良好であれば仕事をするに充分な視力を回復する場合もありますが、神経自体にも大きな機能障害が生じているような場合は、正常の人と同じような視力を得ることはなかなか難しいのが実状です。しかし、両眼が見えず家族に手をひかれていた人が、手術後は一人で通院しているのを見ると、われわれ医療従事者の気持ちは救われます。
 


糖尿病性腎症における腎不全の治療
 糖尿病の三大合併症の1つである糖尿病性腎症が進行し、末期腎不全の状態となりますと、血液透析、腹膜透析、および腎移植のいずれかを行う必要があります。それぞれの治療法において、長所、短所があり、個々の患者さんの状態や希望に応じて、いずれかを選択することになります。わが国においては糖尿病性腎症から透析に至る患者さんが年々増加し、1988年に透析を始めた全腎不全患者さんのうち、糖尿病性腎症の患者さんは 24.3%と、4人中1人を占めるに至りました。
 最近は、CAPD(Continuous Ambulatory Peritoneal Dialysis の略)などの腹膜透析の進歩により、糖尿病の患者さんにおいても、安全に透析が行われるようになってきましたが、それでもなお、透析を受けている患者さんの精神的、肉体的負担は大きく、多くの患者さんが腎移植を希望しておられます。
 わが国では、糖尿病性腎症に限らず、腎不全患者さんの大多数が血液透析を受けており、腹膜透析や、さらに腎移植を受けた患者さんが極めて少ないのが現状です。わが国で腎移植があまり行われない大きな理由は、今問題になっている、脳死に対する国民的なコンセンサスがえられていないことや、心臓死においても、移植のための臓器提供が少なく、移植の大部分を家族からの提供(生体腎移植)に依存しているためと考えられます。

糖尿病性腎症における腎移植
 上に述べましたように、わが国においては、全透析患者数に対する腎移植者数が圧倒的に少なく、特に糖尿病の患者さんに対する腎移植は、1989年12月31日までにわが国で行われた総腎移植 6,951回中、29回(0.4%)にすぎません。欧米では、糖尿病患者さんにおいても、積極的に腎移植が行われており、特にノルウェーでは、インスリン依存型糖尿病の腎不全患者さんのうち、30%もの患者さんが、透析療法を経ず、腎移植を受けており、うらやましい限りといえます。
 われわれの施設では、全国の移植施設にアンケートを送り、この 29回の移植について調査しましたので、その概要について述べたいと思います。腎移植を受けた糖尿病患者さんは 28人で、1人の患者さんが、2回移植を受けており、移植の合計は 29回でした。移植時の年齢は 22~61歳、平均38歳で、28人の内訳はインスリン依存型糖尿病の患者さんが 17人、インスリン非依存型糖尿病の患者さんが 11人でした。29回の腎移植のうち、7回が死体腎移植であり、他の 22回は家族からの生体腎移植でした。

腎移植の実際
 死体、あるいは家族の方から提供された腎臓は、患者さんの下腹部の膀胱の近くに植えられます。移植後は、移植した腎臓に対する拒絶反応を抑えるために、ステロイドなどの免疫抑制剤を服用する必要があります。腎移植の初期の頃は、この免疫抑制剤による副作用が強く、また拒絶反応の頻度も高かったのですが、近年サイクロスポリンという強力な免疫抑制剤が開発され、この薬を使用するようになってからは、ステロイドの量も少なくでき、また拒絶反応により移植した腎臓の機能を失うことも、以前に比べ少なくなりました。

おわりに
 現時点においても、腎移植の患者さんがこれほど少ないわが国は、移植後進国といえます。今後わが国においても、腎移植の増加が期待されます。

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