2025年7月5日、6日、茨城県つくば市で第57回日本動脈硬化学会総会・学術集会(会長:島野 仁教授(筑波大学 医学医療系 内分泌代謝・糖尿病内科)、梶波 康二教授(金沢医科大学医学部 循環器内科学))が開催されました。会場となったつくば市は、わが国の最先端技術の研究開発拠点です。最新の設備を備えつつ、緑にあふれ、自然光が差し込む空間やゆったりとしたレイアウトの国際会議場には、初代館長で1973年のノーベル物理学賞受賞者・江崎玲於奈博士の業績を称えるコーナーが設置されており印象的でした。
2015年の初版以降、2回目の改訂版となる「脳心血管病発症予防のための包括的リスク管理チャート2025年版」が発表されました。本チャートは脳心血管疾患の一次予防に関して、複数のリスク因子の包括的な管理手順を1つのフローチャートにまとめたものです。2025年版では、各疾患関連の最新の診療ガイドラインの内容が反映され、詳しい情報に素早くアクセスできるように各所にQRコードが掲載されるなど、使い勝手が向上しています。
(www.j-athero.org/chart2025/houkatsu_chart2025.pdf)
会期中、学会場ではLp(a)の無料測定が行われており、臨床現場での普及が推進されていました。Lp(a)は、LDLと特殊なアポ蛋白であるアポ蛋白(a)[apo(a)]からなるリポ蛋白で、LDLに含まれるアポ蛋白B(apoB)にapo(a)が結合した構造をしています。apo(a)はプラスミノーゲンに類似した構造で、プラスミノーゲンの作用に干渉して血栓形成を促進します。さらにLp(a)は酸化リン脂質を取り込みやすく、血管壁に集積しやすく動脈硬化の発症や進展に関与すると考えられています。最近のスタチンを用いた大規模RCTのメタ解析では、Lp(a)とLDL-Cは、どちらも動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の独立した相加的な危険因子であり、スタチンでLDL-Cが大幅に低下してもLp(a)が高値の場合にはASCVDリスクが残存していました(Circuation,2025)。しかし現在使用可能な脂質低下薬はLp(a)を効果的に低下できないため、Lp(a)低下薬の開発が急ピッチで進み、近年、siRNA薬・オルパシラン(N Engl J Med,2022)とレポジシラン(N Engl J Med,2025)、アンチセンス医薬・ペリカルセン(JACC, 2022)、低分子化合物・経口ムバラプリン(JAMA, 2025)の第2相臨床試験でLp(a)値が80~90%以上低下したことが報告されました。2026年には、この中の3剤の第3相臨床試験が終了する見込みで、新薬の登場が現実味を帯びてきました。
本学会では、東京科学大学の研究者らが日本人の大規模コホートを解析し、日本人のLp(a)値は中央値20.88nmol/Lとする低値に偏った分布をしており、Lp(a) 25nmol/L以下を心血管イベント低リスク、25nmol/L超~75nmol/L以下を中等度リスク、75nmol/L超を高リスクとする「リスクの層別化」を提唱しました。この結果をもとに、学会のコンセンサスステートメントが発表される予定です。
糖尿病では、スタチンでLDL-C管理療法下、Lp(a)がプラークの不安定化に関連したという報告があります(Atherosclerosis,2022)。糖尿病の有無によらず、Lp(a)低下薬がASCVDの残余リスク解消への新たな一手となることを期待しています。
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糖尿病の治療において、健康的で規則的な食習慣が重要なのはいうまでもありませんが、長時間の仕事やシフト勤務などで食事時間に影響がでることが少なくありません。古いデータにはなりますが、2008年の国民健康・栄養調査では15歳以上の約12%、特に20-40代男性では30%前後が午後9時以降に夕食をとっていることが報告されています。これまで、2型糖尿病患者において、朝食を抜くと昼食後の血糖値のピークが上昇すること(セカンドミール現象)や、遅い夕食が血糖コントロール不良と関連していることが報告されています。 しかし1型糖尿病患者の食習慣の調査や、2型糖尿病患者の食習慣と血糖・体重管理に関する男女差についての報告はほとんどありませんでした。
糖尿病患者における不規則な食習慣として、朝食を抜く、夕食が遅い、食事時間が不規則であるといったことが挙げられます。私たちは当院通院中の1型および2型糖尿病患者の「朝食欠食」、「遅い夕食(21時以降)」、「不規則な食事時間(3食のうち1食以上で時間が一定しない)」が「規則的(前述3つがない)」な食習慣と比較し血糖・体重コントロールに与える影響を男女別に調査しました(Shimizu, Oya et al, J Diabetes Investig, 2025)。
当院通院中の1型または2型糖尿病患者4,421名を対象に質問票で食習慣を調査しました。食習慣の分布は、「朝食欠食」が2.1%、「遅い夕食」が7.8%、「不規則な食事時間」が7.4%でした。遅い夕食の割合は、1型糖尿病患者で2型糖尿病患者よりも有意に高くなっていました(12.2% vs 6.8%)。
1型糖尿病では男女ともに「不規則な食事時間」、女性で「遅い夕食」群でHbA1c が高値であり、いずれの食習慣でもBMIに有意差はありませんでした。2型糖尿病では男女ともに「遅い夕食」でHbA1cが高値であり、「朝食欠食」「遅い夕食」「不規則な食事時間」のほぼ全てでBMI高値でした(男性の「朝食欠食」を除く)。
血糖不良(HbA1c≥7.0%)のリスクは、「規則的」な食習慣と比べ1型糖尿病女性の「不規則な食事時間」で3.2倍、2型糖尿病男女の「遅い夕食」でそれぞれ1.7、2.2倍でした。肥満(BMI≥25 kg/m2)のリスクは「規則的」な食習慣と比べ、2型糖尿病男性の「不規則な食事時間」で1.6倍、2型糖尿病男女の「遅い夕食」でそれぞれ2.1、1.4倍でした。
本研究で朝食欠食と血糖コントロールに関連がみられなかったのは、朝食欠食の割合がこれまでの報告よりも少なかったことや、定期的に欠食することでセカンドミール現象がみられなくなる可能性があることが考えられました。遅い夕食は、長時間の空腹のため遊離脂肪酸が増加しインスリン抵抗性が高まることや、夜間の熱産生が低いことからエネルギー消費が減少することなどから血糖、体重管理不良につながると考えられます。不規則な食事時間は概日リズムがずれることによりインスリン分泌に影響を及ぼしたり、薬剤投与と食事のタイミングのミスマッチを起こしたりする可能性があります。1型と2型糖尿病の結果の相違には、外食などの食行動や食事に対する意識の違い、元々の肥満度の違いが影響していると考えられました。
不規則な食習慣が血糖や体重に悪影響を及ぼすことが、大規模なデータで示されました。様々な背景があり、食習慣を改善することが難しいことも多いですが、食事内容だけでなく行動にも意識を向けるよう留意したいものです。
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母体の高血糖は児の過体重を引き起こし、Large for gestational age(LGA)児として出生することがあります。LGA児は肩甲難産や分娩損傷のリスクが高く、臨床的に問題となります。一方、わが国では低出生体重児が増加しているという別の問題も存在します。さらに、出生時体重が低い児や、反対に4000 gを超える児は、将来的に2型糖尿病を発症するリスクが高いことが報告されており(Pediatr Diabetes, 2008, Am J Epidemiol, 2007)、児の出生時体重を適正に保つことは、将来の健康を守るうえで非常に重要です。
児の出生時体重には、血糖以外にも母体の妊娠前の体格や妊娠中の体重増加量が関連することが海外から多く報告されています。そこで、我々は日本人糖尿病合併妊婦から出生した児の出生時体重と関連する母体の臨床的因子を明らかにすることを目的に研究を行いました(Suzuki et al, Diabetol Int, 2023)。本研究において、栄えある「日本糖尿病・妊娠学会 第4回(2024年度)若手奨励賞」を受賞いたしましたので、紹介させていただきます。
本研究では、2014年4月から2020年12月までに東京女子医科大学病院で管理・分娩を行った糖尿病合併妊婦204人(1型糖尿病135人、2型糖尿病69人)を対象としました。出生時体重の標準偏差(SD)スコア(児の在胎期間における標準的な体重からどれくらい離れているかを数値で表したもの。たとえば、標準体重よりも1標準偏差(SD)低い体重で生まれた場合は、「−1」となる)と関連する母体の臨床的因子を検討するため、病型、分娩時年齢、糖尿病罹病期間、妊娠前のやせ(BMI 18.5未満)、妊娠前の肥満(BMI 25以上)、喫煙歴、網膜症、腎症、妊娠後期の平均グリコアルブミン(glycated albumin : GA)、後期総コレステロール、後期中性脂肪、妊娠中の体重増加量、最大インスリン量を予測変数として重回帰分析を行いました。
全例を対象にした重回帰分析では、児の出生時体重SDスコアは、2型糖尿病で高く、また妊娠後期平均GA、後期中性脂肪、妊娠中体重増加量と正の相関を、妊娠前のやせがあると低値でした。糖尿病の病型別の検討では、1型糖尿病妊婦では出生時体重SDスコアと妊娠後期平均GA、後期中性脂肪、妊娠中体重増加量との間に正の相関を、妊娠前やせがあると低値でした。一方、2型糖尿病では、妊娠中体重増加量とのみ正の相関を認めました。
児の出生時体重は1型糖尿病よりも2型糖尿病に関連して高くなる傾向がみられました。また出生時体重に関連する因子は病型によって異なり、1型糖尿病妊婦では血糖管理と妊娠前のやせ、妊娠中体重増加量が関連しているのに対し、2型糖尿病妊婦では妊娠中体重増加量のみが関連していました。本研究の結果から、糖尿病合併妊娠においては血糖管理のみならず妊娠中の体重管理が重要であることが示唆されました。病型により関連する因子が異なることの要因のひとつとしては、1型糖尿病と2型糖尿病のインスリン抵抗性の違いが考えられます。実際、妊娠糖尿病妊婦やそのスクリーニング陽性者を対象とした研究では、インスリン抵抗性とLGA児との関連が報告されています(Am J Obstet Gynecol, 2022, Diabetes Care, 2016)。
2021年に日本産婦人科学会より「妊娠中の体重増加指導の目安」が新たに発表されましたが、この目安が耐糖能異常を合併する妊婦に適しているかどうかは現時点では明らかではありません。そのため現在、日本糖尿病・妊娠学会では「妊娠糖尿病の体重増加指導の目安」を策定中であり、その発表が待たれます。本研究の結果からも、糖尿病合併妊娠においては、血糖管理に加え、妊娠中の適切な体重管理が児の健康にとって極めて重要であることが示唆されました。