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日本糖尿病学会、日本腎臓学会、日本透析医学会および日本病態栄養学会の代表者からなる糖尿病性腎症合同委員会は、2014年に発表された糖尿病性腎症病期分類の一部を改訂しました。私は新しい病期分類の策定に関与しましたので紹介したいと思います。なお詳細は、各学会誌に掲載された委員会報告1-4)を参照してください。
今回の改定に至った理由の1つとして、1991年にわが国で初めて策定された腎症病期分類から2014年分類まで、一貫して用いられてきた「腎症前期」および「早期腎症期」という病期名の変更が必要と考えられたからです。「腎症前期」は腎症の合併がない時期と解釈あるいは誤解される場合が多かったこと、また早期腎症期は腎症が軽症の時期と認識され、必ずしも早期治療に結つかないことが懸念されました。
このことから新分類では、「第1期(腎症前期を「正常アルブミン尿期(第1期)」、「第2期(早期腎症期)」を「微量アルブミン尿期(第2期)」、「第3期(顕性腎症期)」を「顕性アルブミン尿期(第3期)」、「第4期(腎不全期)を「GFR高度低下・末期腎不全期(第4期)」、「第5期(透析療法期)」を「腎代替療法期(第5期)」へ、各病期名を変更しました。
さらに今回の改定に際して議論になったのは、第1、2、3期と第4期を区分する推算糸球体濾過量(eGFR)のカットオフ値である30mL/分/1.73m2を変更するかどうかという点でした。CKD重症度分類では、CKDの定義の1つがeGFR60未満とされています。糖尿病性腎症もCKDであることから齟齬が生じるのではないかという意見がありました。
この点に関しては、現時点でeGFRによる定義変更の必要性を示唆する新たなエビデンスが発出されていないことや、eGFRのカットオフ値を引き上げることにより、特に高齢者の腎症有病率を著しく増加させること、またそのことが社会的なスティグマに繋がる可能性を考慮しました。今回の改定では、「正常アルブミン尿期(第1期)」はアルブミン尿が正常でeGFR 30以上のみで定義し、糖尿病性腎症あるいは他のCKDの存在を否定している訳ではありません。アルブミン尿が正常であってもeGFRが60未満の糖尿病患者では、糖尿病性腎症以外のCKDの鑑別が必要であることを明記しました。
この分類はわが国独自のものです。今後わが国からのエビデンスの蓄積を期待したいと思います。
1) 糖尿病2023; 66(11): 797-805
2) 日腎会誌2023; 65(7): 847-856
3) 透析会誌2023; 56(11): 393-400
4) 日病態栄会誌2023; 26: 195-202
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平成元年国民健康・栄養調査報告によると、40~50歳台男性の約4割がBMI 25.kg/m2以上、約1割がBMI 30kg/m2以上であり、減量により肥満に伴う健康障害の改善、生活の質の維持・向上を目指すことが求められます。
日本肥満学会は2006年より肥満症診療ガイドラインを発表し、2016年に改定しています。その後、肥満症に対する国内外の知見が増えたことや、高度肥満症への外科療法が保険収載され、その有用性が検証されていることなどから、2022年に6年ぶりの改訂が行われました。
改定の大きなポイントとして、「高度肥満症」、「小児の肥満と肥満症」、「高齢者の肥満と肥満症」、および「肥満症治療薬の適応および評価基準」の4章が追加となっています。また、前版では巻頭図表であった主要図表が解説付きで第1章として独立しており、まずこの章を一読することで全体像を理解することができるようになりました。また、肥満者に対する社会的・個人的スティグマ(オベシティスティグマ)解消への提言も記載されています。
BMI 35kg/m2以上の肥満を高度肥満、さらに健康障害または内臓脂肪蓄積がある場合を高度肥満症と定義します。高度肥満症では多くの方が心理社会的な問題を有し、オベシティスティグマが医療者にも蔓延し治療の発展を妨げていることが懸念されています。一方で内科的治療に抵抗性であることが多く、外科治療も検討されます。
2014年に保険収載された腹腔鏡下スリーブ状胃切除術は、2022年の診療報酬改定でBMI 32~34.9kg/m2でも、糖尿病・高血圧・脂質異常症・睡眠時無呼吸症候群のうち2つ以上を合併する場合に適応となりました。BMI 32kg/m2以上の2型糖尿病で、6か月以上の内科治療でも体重減少や血糖コントロール改善がみられない場合には外科治療の検討が提案されています。手術を検討する際には、術前後のメンタルヘルス専門職による心理的ケア・サポートが重要です。
高齢者では、身長が短縮するためにBMIが実際より高値になる場合があることや、筋肉量減少によるサルコペニア肥満が存在することに注意が必要です。減量は肥満による変形性膝・股関節症が改善しQOL改善に寄与する一方で、減量に伴う骨格筋量の減少によるフレイルや関連する死亡リスク上昇が危惧されます。そのため、減量の必要性を十分に検討する必要があります。65歳以上ではフレイル予防および健康障害の発症予防の両者に配慮し、目標BMIは22~25kg/m2とされています。
11章に追加された「肥満症治療薬の適応および評価基準」では、有効な薬剤を適切に届けるための臨床開発目標が示され、必ずしも今後発売される肥満症治療薬使用を推奨するものではない、とされています。
本ガイドラインの中で、薬物治療としては、糖尿病に適応のあるGLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬、またマジンドールについての記載があります。2023年2月に内臓脂肪減少のOTC医薬品(肥満症は適応外)として承認されたオルリスタットや、3月に肥満症の適応を承認されたセマグルチドなど新しい薬剤については今後のエビデンスの蓄積が期待されます。
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小児・思春期は肉体的・精神的・社会的な発達段階の途中であり、この年代で慢性疾患を発症すると、病を抱えた自分という存在をどのように捉えていくのかで悩み、心理社会的な問題を抱えやすいことが知られています。1型糖尿病の発症ピークは乳幼児期と思春期ですが、その年代の1型糖尿病患児は同年代の児と比較して、うつの頻度が高いと報告されています。
一方、成人においても1型糖尿病のある方は、ない方に比べて2.4~3.8倍うつが多いとの報告があります。東京女子医科大学糖尿病・代謝内科に通院中の7,000人以上の方にご協力いただいたDIACET2012研究では、1型糖尿病の方のうち、14.5%で中等度以上のうつ状態を呈していました(石澤ら 東女医誌:87, 2017)。
1型糖尿病とうつの合併について、発症年齢による影響を調べた報告はなく、わたしたちは発症年齢別にうつ状態の併発頻度を調査し、合併症との関連を検討しました(Takaike et al. J Diabetes Investig. 13:9, 2022)。
前述したDIACET2012では自己記入式質問票による調査を行っていますが、その中でPatient Health Questionnaire(PHQ‒9)という、うつ状態を評価する質問項目を含んでいます。PHQ‒9の総合得点(0~27点)から、中等度以上のうつ状態(10点以上)を呈した方の頻度を調査しました。対象は40歳以下で1型糖尿病を発症した1,279名(女性68%)で、調査時年齢.40±13(平均±標準偏差)歳、罹病期間.21±11年、HbA1c 7.8±1.2%でした。中等度以上のうつ併発頻度は発症時年齢12歳以下(413名)で21%、13~19歳(259名)で18%、20~40歳(607名)で13%であり、発症時年齢が低いほど有意に高率でした(p<0.05、Cochran-Armitage検定)。また19歳以下で発症した方のうち、うつ症状を認めた131名では、症状がなかった541名と比較しHbA1cが有意に高く(8.6±1.8% vs 7.6±1.0%, p<0.001)網膜症が多く(52% vs 32%, p<0.001)、神経障害による自覚症状が多く認められました(41% vs 15%, p<0.001)。ロジスティック回帰分析ではうつに対して無自覚低血糖の既往が有意に関連しました(オッズ比1.7、95%信頼区間 1.04-2.79,p<0.05)。
今回の研究の対象者は1型糖尿病の平均罹病期間が20年以上であり、1990年前後に発症した方々を対象としています。超速効型・持効型インスリン、カーボカウント、CGMがなかった時代に発症しており、近年に発症した小児・思春期1型糖尿病の方と比較し、治療の負担が大きかった可能性があります。このような糖尿病治療の進歩がうつ症状に対してどのように影響するかについて、今後明らかにする必要があります。
糖尿病にうつを併発すると、糖尿病治療への意欲が低下し、血糖管理が困難となるために、急性・慢性合併症の出現・進展のリスクが高くなります。一方慢性合併症への不安や合併症によっておこる身体機能の制限が、うつ病の要因や増悪因子となることが指摘されています。このように、うつと糖尿病は双方向性に関連することから、このような悪循環に陥らないことが重要です。
若年で1型糖尿病を発症すると、その後の長い人生をずっと病と共にすごすこととなります。成人診療科の医療者は、小児・思春期に発症した方が1型糖尿病との付き合い方に慣れていると思わずに、小児科から移行後も必要に応じてうつのスクリーニングを行い、心のケアを行うことが重要です。うつを早期に発見して介入・治療を行うことが、糖尿病の予後を改善することにもつながります。