DIABETES NEWS No.18
    No.18
     1989 
     SUMMER 
 

サマーキャンプの子供たち
 今年の4月27日、NHK 総合テレビの午前8時半からのおはようジャーナルで感動的な放映に出合いました。私が山陰の大山で昭和49年に開設した小児糖尿病サマーキャンプに当時、小学生で参加していた子供たちが成人して結婚し、あるいは働いている様子が映されました。彼らは、ためらうことなく堂々と実名でカメラに向って自分の生き方を示していました。
 夏休の1週間、寝食をともにした子供たちが、糖尿病を乗りこえて、よく逞しく育ってくれたと嬉びで一杯になりました。すでに15年間、インスリンの自己注射、血糖の自己測定を続けたことになります。この子供たちに患者教育の題目をいくら長時間話しても、それは一緒に生活を共にすることには遠く及びません。

医師が子供たちから学んだものは
 私自身も、昭和44年、福岡で小児糖尿病サマーキャンプを開き、さらにかけもちで大山でも始め、おかげでこの子供たちから多くのことを身をもって学びました。
 糖尿病のように自分自身で治す病気であれば、医師と患者の間には共通する言葉と生活が必要であると思います。その意味では、ご近所のホームドクターこそ、糖尿病医療の第一線であると思います。

ホームドクターこそベストドクター
 患者さんは何卒ホームドクターに協力をしてほしいと思います。診察に来られた患者さんに、衣服を脱いでくださいと申しますと、折角、糖尿病の診察に来たのに裸になるのですかと驚かれることが少なくありません。裸になっていただいたおかげで、最近もごく初期の甲状腺の悪性腫瘍や膀胱の拡張(糖尿病性神経障害による)、初期の壊疽などを発見することが出来ました。また、時々、お目にかかる患者さんの声の異常に気づき、耳鼻科に診てもらい大事に至らなくてすんだこともありました。
 患者さんは、僅かな異常でも早くホームドクターに申し出て下さい。全ての異常に気を配って下さるホームドクターを身近にもっていることは、糖尿病に罹っている患者さんにとって大切なことです。
 


ルーツは網膜剥離の治療から
 光凝固法は、糖尿病性網膜症に欠かすことのできない治療法であることは言うまでもありません。光凝固療法と眼の関係は、1946年の Meyer-Schwickerath が開発したキセノンアーク光源による網膜剥離の治療にさかのぼります。偶然にもこの治療方法が糖尿病性網膜症に対しても有効であることがわかり、その後1965年ごろまで、キセノンアーク光源による網膜光凝固装置が糖尿病性網膜症の治療に使用されてきました。

アルゴンレーザー光凝固装置の開発
 1963年にルビーレーザー、つづいて1970年にアルゴンレーザーが開発され、より簡便かつ精密なレーザー光凝固装置が登場しました(アルゴンレーザーは、現在、眼科領域の光凝固装置の主流をなしています)。これにともない、1971年からアメリカで光凝固療法の効果を判定する Diabetic Retinopathy Study がはじめられ、15施設で 1,700人にのぼる観察がなされました。その結果、光凝固療法は重症網膜症への進行や視力障害の発生を減少させるあに有効な治療法であることが示されたのです。一般に増殖性網膜症に対する汎網膜光凝固の進行阻止効果は70%前後といわれ、非凝固列では改善は5%で10%に満たないとされています。今日では光凝固療法なしでは糖尿病性網膜症は語れないまで至っています。

治療不可能例の治療法も
 しかし、その一方で、アルゴンレーザーで糖尿病性網膜症を治療した症例の9.3%に、1から4段階の視力の低下がみられたとの報告があり、光凝固後に視力がかえって低下する例がしばしば認められます。この視力低下の原因の大部分は、黄斑部に浮腫が生じて黄斑機能が低下する糖尿病性黄斑症にあります。この糖尿病性黄斑症に対する治療方法は、いままでに光凝固療法、薬物療法、高圧酸素療法など報告されていますが、このうち光凝固療法は1978年にクリプトンレーザー、1986年に色素レーザーを用いた新しい網膜光凝固装置の出現により、今までにない治療効果をあげています。当センターにおいても、色素レーザー光凝固装置を導入して、今まで治療不可能であった黄斑症の視力低下症例の4割以上に改善がえられています。

さらなる進歩への期待
 糖尿病性網膜症に対する光凝固療法は、このようにレーザー技術の進歩にともない治療効果をあげています。今後も新技術の開発によりさらに向上が期待されます。
 


若年発症の成人型糖尿病
 MODY という言葉があります。これは、Maturity onset type diabetes in young の略で、若年発症にかかわらず成人型である糖尿病のことをいいます。この糖尿病は、Tatter-sall, Fajans によって見出され、次の3つの条件を満たすものと定義されています。
 (1) 25歳未満にインスリン非依存型糖尿病と診断されていること。(2) 本人を含めて少なくとも3世代にわたって糖尿病の遺伝が認められること。(3) 本人を含めてその兄弟の半数以上に糖尿病を認めることの3条件です。

検診の普及で診断率が高まる
 親の糖尿病まではわかっていても祖父母の代については不明のことが多く、10年位前まではわが国ではっきりと MODY と診断することは困難でありました。最近、学校検尿が定期的になされるようになり、10代もしくはそれ以前の年齢でインスリン非依存型糖尿病が発見される機会が多くなりました。また親が30~40代で職場検診や成人病検診、祖父母の代も老人検診などで糖尿病を診断されるようになったため、MODY とわかる率が高くなってきました。

人種の違いと合併症出現の差
 欧米における白人の MODY では、糖尿病の程度が軽く、また網膜症や腎症などの細小血管症がおこりにくく、また進行しにくいという事が報告されています。しかし日本人の MODY は白人と違い、比較的早く重症の網膜症や腎症を合併してくることが決して珍しくないということが、最近の私達の調査で明らかになっています。インド人でも同様に細小血管合併症が進みやすいという報告がされており、同じ MODY であっても人種により合併症の出現に差があるように思われます。

細小血管症予防のために
 糖尿病を治療する上での目標は細小血管症の予防にありますので、若年で発見された糖尿病や、学校検尿で尿糖を認められた場合には、糖尿病の症状が何もなくても、糖尿病の診断とともに細小血管症のチェックを行う必要があります。そしてその糖尿病が MODY ではないかどうか問診、及び必要に応じて家族の血糖検査を行うことが大切です。また、家系の中に糖尿病の者が多発する場合には MODY を念頭において、遺伝関係を明らかにしておく必要があります。
 ただし、すべて MODY で細小血管症が進行しやすいという訳ではなく、白人のように合併症がおこりにくいタイプの MODY もあります。MODY ではないかと思われる方の家族は、早く検尿を受けておかれるようにお願いします。

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