DIABETES NEWS No.174
 
No.174 2020 January/February 

腎症に対するたんぱく質制限食

東京女子医科大学  糖尿病・代謝内科学講座  教授・講座主任
馬場園哲也
 糖尿病性腎症を含めた慢性腎臓病に対しては、古くからたんぱく質制限食が推奨されてきました。黎明期におけるその意義は、単に高窒素血症の改善を目的とした、消極的な対処療法であったと思われます。近年では、腎機能低下を抑制するための、より積極的な腎保護治療として位置づけられています。ただしその効果に関しては、必ずしも高いエビデンスがえられている訳ではなく、不利な側面もあると思われます。最近日本腎臓学会から、「サルコペニア・フレイルを合併した保存期CKDの食事療法の提言」が発表されました。
 今回は、糖尿病性腎症に対するたんぱく質制限の有用性と安全性について、最近の当科からの観察研究の結果や上記の提言を踏まえて考察したいと思います。

◆たんぱく質摂取量の評価法
 たんぱく質制限の効果を検証することは、一般に容易でありません。その理由として、実際に摂取したたんぱく質量の評価が困難であることがあげられます。たんぱく質摂取量の評価法として、従来24時間蓄尿中の尿素窒素から計算するMaroniの式と、食事内容の記録から管理栄養士が計算する方法がありますが、いずれも煩雑であり、また正確性の点で限界がありました。そこで本学臨床検査科菅野宙子助教と東京医科大学腎臓内科の菅野義彦教授との共同研究で、24時間蓄尿ではなく随時尿中の尿素窒素から1日当たりのたんぱく質摂取量を予測する式が考案されました(Kanno H, et al. Clin Exp Nephrol 2016;20:258-64)。

◆たんぱく質摂取量と腎症進展との関連
 この予測式を用いて推算したたんぱく質摂取量と腎および生命予後との関連を検討した当科のコホート研究の結果が最近掲載されました(Tauchi E et al. Clin Exp Nephrol 2019 Oct 5 (online) )。当科の糖尿病性腎症3〜4期の2型糖尿病患者449名が実際に摂取したたんぱく質量と、腎代替療法(透析療法あるいは先行的腎移植)を必要とする末期腎不全への進展および死亡との関連を検討したところ、たんぱく質摂取量がより少ない患者で腎不全に至る可能性が有意に低い結果を認めました。

◆たんぱく質制限食の安全性
 一方、栄養状態が悪い患者でたんぱく質摂取量が少ないと、死亡リスクが有意に増加することも明らかになりました。筋肉量と筋力の減少として定義されるサルコペニアを合併した慢性腎臓病患者では、その生命予後が不良であることはすでによく知られています。最近発表された「サルコペニア・フレイルを合併した保存期CKDの食事療法の提言」においても、「サルコペニアを合併したCKDステージG3〜G5では、たんぱく質制限の緩和を検討する症例がある」と記載されています。

◆たんぱく質制限の功罪
 われわれのコホート研究の結果から、たんぱく質制限食が、進行した糖尿病性腎症患者に対する腎機能保持に有効である可能性が示唆されました。一方で、栄養障害がある場合には、たんぱく質制限食がむしろリスクを伴う可能性があることも同時に明らかになりました。
 腎症患者への食事療法に当たっては、画一的な指導を避け、サルコペニアや栄養学的指標、さらには年齢などを考慮しながら、個々の患者ごとにたんぱく質および総エネルギー摂取量を設定する必要があります。

 

糖尿病遺伝学の知識

東京女子医科大学
八千代医療センター
糖尿病・内分泌代謝内科 准教授
大沼 裕
◆糖尿病と遺伝
 糖尿病の多くは多因子性疾患であり、複数の遺伝因子の組み合わせ(体質)と環境因子との相互作用により発症すると考えられている。2型糖尿病はその代表であるが、2親等以内の血縁に40%から50%の頻度で糖尿病が見出されること、同胞に2型糖尿病患者を有する場合2型糖尿病発症リスクが約3.5倍になること、また1卵生双生児の研究などから、その遺伝因子の存在は以前より明らかであった。
 しかし、遺伝因子(特に2型糖尿病)の同定は、長い間「遺伝学者の悪夢」といわれるほど難しいものであった。

◆単一遺伝子病タイプと多因子遺伝子病タイプの糖尿病
 糖尿病には単一遺伝子病タイプのものと多因子遺伝子病タイプのものがある。単一遺伝子病タイプのものは、原因遺伝子の異常が遺伝子の機能や発現に強く影響し、細胞や組織に影響を与えて疾病を引き起こす。このタイプの糖尿病は遺伝形式がはっきりして、若年で糖尿病を発症することが多い。単一遺伝子病タイプの糖尿病としては、優性遺伝し若年発症するMODY(maturity-onset diabetes of the young)、母系遺伝と難聴を特徴とするミトコンドリア異常による糖尿病、ATP感受性Kチャネルやインスリンの異常による新生児糖尿病などがある。このタイプの糖尿病は、成因による糖尿病の分類では"その他特定の機序、疾患によるもの"に分類される。
 一方、多因子遺伝子病タイプのものは個々の遺伝因子の効果は弱いが、それらの遺伝因子の集積により疾病が引き起こされる。このタイプの遺伝素因は疾患感受性遺伝子と呼ばれ、その本体はSNP(一塩基多型)に代表されるゲノムの多様性である。SNPとはヒトゲノム上で約1000塩基対に1か所存在する1塩基の置換のことで、疾患感受性遺伝子を探索する有用なマーカーとなる。

◆糖尿病と一塩基多型(SNP)
 2型糖尿病などの多因子遺伝病を解析する場合、患者群と対照群とで疾患感受性遺伝子の頻度を比べ、統計学的に異なることを利用する関連解析(association study)が行われる。病態から、疾患への関与が予想される分子に着目して解析を行う候補遺伝子解析と全ゲノムを対象とした全ゲノム解析がある。候補遺伝子解析により、2型糖尿病の発症に関与すると考えられる SNPが複数同定されてきたが、糖尿病の遺伝の全体像を明らかするには至らなかった。
 これに対して、全ゲノムを対象とし、多数のSNPをマーカーとして用いて関連解析を行うゲノムワイド関連解析(genome-wide association study;GWAS)が大きな成果をあげた。GWASは、「頻度の高い疾患の遺伝性は頻度が高い変異によってもたらされる」というcommon disease-common variant仮説に基づいており、2007年以降盛んにおこなわれている。これまでに約100種の2型糖尿病感受性SNPが同定されているが、いずれも2型糖尿病発症リスクとの関連は弱い(せいぜい1.4倍程度)。また、これまでに同定された2型糖尿病感受性 SNPは、代表的なものを合わせても遺伝性のせいぜい10〜20%しか説明できないことが知られている。この残された遺伝性は"missing heritability(見失われた遺伝性)"と呼ばれ、Missing heritabilityを説明するものとして、エピジェネティクスや環境因子との相互作用などが研究されている。

 

CREDENCE studyからSGLT2阻害薬の腎保護作用について考える

東京女子医科大学 糖尿病センター
内科 助教
吉田直史
東京女子医科大学 糖尿病センター
内科 講師
花井 豪
 これまで、顕性腎症期以降の糖尿病性腎症の治療として確立されたものは、ACE阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬といったレニン・アンジオテンシン系阻害薬のみでした。しかし近年、EMPA-REG OUTCOME(N Engl J Med 2016;375:323)、CANVAS program(Diabetes Endocrinol 2018;6:691)、DECLARE-TIMI 58(N Engl J Med 2019;380:347)といった、心血管安全性試験(Cardiovascular Outcomes Trial, CVOT)において、副次評価項目ではあるものの、sodium-glucose cotransporter 2(SGLT2)阻害薬の強力な腎保護作用が報告され、非常に注目されています。さらにその効果は、進行した腎症病期の患者においても、同様に認められる可能性が報告されました。こうした中、顕性腎症期以降の2型糖尿病患者を対象とし、SGLT2阻害薬であるカナグリフロジンの腎保護効果を検証することを主要評価項目としたCREDENCE studyが発表されました。

◆CREDENCE studyの概要
 CREDENCE(N Engl J Med 2019;380:2295)は尿中アルブミン・クレアチニン比(ACR)300-5000mg/gかつeGFR 30-90mL/min/1.73m2である2型糖尿病患者4,401名を対象とした、無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験です。
 主要評価項目は、腎代替療法開始、eGFR 15mL/min/1.73m2未満、血清クレアチニン値の倍化、さらには、腎または心血管病による死亡からなる複合腎エンドポイントとなっています。
 中央値で2.62年の観察期間中、エンドポイントに達したのは、カナグリフロジン群で245例、プラセボ群で340例でした。プラセボ群に対するカナグリフロジン群のハザード比は0.70(95% 信頼区間 0.59-0.82, p=0.00001)であり、カナグリフロジンの優越性が証明されました。この結果を受けて、米国糖尿病学会のposition statementでは、「eGFR 30mL/min/1.73m2以上、その中でもとくにACR 300mg/g以上の患者では、心・腎イベントのリスク軽減のためにSGLT2阻害薬の使用を考慮するように」、と記載されています(Diabetes Care 2019;42(Suppl 1):S124)。

◆SGLT2阻害薬が腎保護効果を有する機序は?
 まず、SGLT2阻害薬の血糖改善効果に加え、体重減少、血圧低下作用が腎保護につながった可能性が考えられます。しかし、CREDENCEでは、プラセボ群に対するカナグリフロジン群の血糖改善効果はHbA1cで0.25%、体重および収縮期血圧はそれぞれ、0.8kg、3.3mmHgにとどまっており、これらとは異なる機序も考える必要があります。SGLT2阻害薬はグルコースとともにナトリウムの再吸収を抑制しますので、尿細管・糸球体フィードバック(TGF)システムを介して、輸入細動脈の拡張を軽減し、その結果、糸球体高血圧の改善につながると考えられています。実際、SGLT2阻害薬を開始した早期にinitial dipと呼ばれるGFRの低下が見られることが報告されています。CREDENCEにおいても、研究開始3週間でのプラセボ群のeGFR低下は0.55mL/min/1.73m2であったのに対し、カナグリフロジン群のeGFR低下は3.72mL/min/1.73m2と急峻でした。その後、カナグリフロジン群のeGFR低下はプラセボ群より緩徐となり、結果的にカナグリフロジン群のeGFRはプラセボ群と比較して維持されることになります。
 CREDENCE studyは、進行した糖尿病性腎症の治療において、SGLT2阻害薬という光明をもたらしてくれました。今後、eGFR 30mL/min/1.73m2未満といったさらに腎機能が低下した患者においても、同様の結果が得られるのかなど、さらなる研究が待たれるところです。

このページの先頭へ