DIABETES NEWS No.165
 
No.165 2018 July/August 

糖尿病薬の臓器保護効果

東京女子医科大学 内科学(第三)講座
(糖尿病・代謝内科)教授・講座主任
馬場園哲也
◆血糖コントロールの合併症予防効果
 糖尿病治療の目的は、いうまでもなく糖尿病合併症の発症、進展を阻止し、ひいては健常者と変わらないQOLや寿命を達成することといえます(糖尿病治療ガイド2018‒2019)。糖尿病合併症のうち、細小血管障害の発症に対しては高血糖の影響が大きく、厳格な血糖管理が腎症や網膜症の発症率を減らすことに対しては十分なエビデンスがあります。一方脳卒中や心筋梗塞などの大血管障害に対しては、高血糖以外の因子の影響も大きく、厳格な血糖管理のみではそれらを有効に予防することができなかったことはよく知られています。

◆糖尿病薬をどのように選択するか
 現在糖尿病薬は、経口薬7クラス、注射薬2クラスと種類が増えてきました。その選択に際し、糖尿病薬である以上、個々の薬剤の高血糖改善効果は選択の際の重要な根拠であり、一方低血糖やその他の副作用についても当然留意する必要があります。さらに個々の患者の病態、すなわち年齢や肥満度、インスリン分泌能、腎機能やその他の合併症、加えて薬価や服用・注射回数なども考慮する必要があります。
 以上は教科書的な記載ですが、実際に目の前の患者さんに対してこれらをどのように選択すればよいでしょうか。はじめに述べた、糖尿病治療の基本が合併症予防である点に立ち返り、糖尿病薬の合併症予防効果について考えたいと思います。

◆糖尿病薬の臓器保護効果
 糖尿病薬が、本来の高血糖改善効果を超えて、合併症の発症を有意に減少させたとの報告が最近相次いでいます。スタチンやレニン・アンジオテンシンII受容体拮抗薬のような、多面的(pleiotropic)作用による臓器保護効果といえます。細小血管障害のうち腎症予防に対してはDPP‒4阻害薬、SGLT2阻害薬およびGLP‒1受容体作動薬の、心血管イベント予防に対してはSGLT2阻害薬およびGLP‒1受容体作動薬の効果が報告されました。
 さらにネットワーク・メタ解析という手法を用いて、糖尿病薬間の心血管・腎イベント発症抑制効果を比較した研究も複数発表され、糖尿病薬の臓器保護効果に差がある可能性が指摘されています。
 今年の3月に第67回米国心臓病学会で発表され、同時にthe Journal of the American College of Cardiologyに掲載されたCVD‒REAL2では、日本を含めた6カ国の40万人を超える2型糖尿病患者さんを対象とし、SGLT2阻害剤と他の糖尿病薬が比較されました。その中で、日本人67,700名のみの解析で、SGLT2阻害剤が全死亡、心不全による入院および脳卒中の発症率を有意に減少させたことが示されました。
 このような臓器保護効果の違いも、糖尿病薬の選択の上で考慮する必要があると思います。今後日本人におけるデータの蓄積が必要です。

 

糖尿病と肝臓病

東京女子医科大学消化器病センター
消化器内科教授・講座主任
徳重克年
◆糖尿病と肝機能異常
 糖尿病においては、しばしば肝機能異常が認められ、NAFLD(非アルコール性脂肪性肝障害)、薬物性肝障害、肝硬変に伴う糖代謝異常、まれな病態としてヘモクロマトーシス、glycogenic hepatopathyが鑑別として挙げられます。また脂肪肝は、糖尿病による肝障害の初期病変とする考え方もあり、肝臓と糖尿病は密接な関わりがあります。本項ではNAFLDと糖尿病との関連について解説します。

◆NAFLD/NASHの疫学・病態
 NAFLDの頻度は地域・人種によって差を認めます。わが国では一般人口の20〜30%にNAFLDをみとめ、そのうちNASH(非アルコール性脂肪肝炎)は1〜2割であるため、一般人口の3〜5%と推定されます。NAFLDの多くは病的意義の少ない脂肪肝ですが、一部は肝硬変・肝細胞癌へ病態が進展する可能性のあるNASHに分類されます。
 NAFLDは、メタボリック症候群の肝病変ととらえられており、インスリン抵抗性が病態の本体と考えられています。また近年PNPLA3という分子の遺伝子多型が、NAFLD/NASHの発症・進展に強く関わっていることが明らかになりました。

◆NAFLD/NASHの診断
 NAFLDは①非飲酒者であること、②肝組織あるいは画像診断(エコー、CT、MRI)での脂肪肝の診断、③他の原因による肝疾患の除外、で診断します。非飲酒者はエタノール換算で女性20g/日以下(目安ビール500mlまたは日本酒1合)、男性30g/日以下と定義されています。
 NASHと診断するにはNAFLDに加えて、組織学的にsteatohepatitis(脂肪肝炎)を認めることが必要です。肝生検はNASH診断のゴールドスタンダードですが、全例に対して行うのはリスク、コストの面から現実的ではありません。肝生検はNASHへの進展リスクが高い症例・線維化進行例、他の慢性肝疾患との鑑別が必要となる症例で考慮するべきです。NASHへの病態進展を予測する因子として、高度肥満例、糖尿病合併例、FIB‒4 index高値例が挙げられます。FIB‒4は複数のパラメーターを組み合わせて計算する線維化の重症度を予測するスコアリングシステムで、感度、特異度ともに良好であり、FIB‒4 index計算サイト(lkaturakuno.xsrv.jp/JavaScript/FIB4/FIB‒4.html)から簡単に計算できます。また最近では、MRエラストグラフィーやフィブロスキャンなどの画像を使った方法で、肝硬度を測定できるようになりました。

◆NAFLD/NASHの治療
 NASHの治療は、合併する生活習慣病の治療が基本です。肥満によるNASHでは7%以上の体重減少で組織学的にも肝脂肪沈着は減少します。
 薬物療法に関しては、抗酸化療法薬としてビタミンEが挙げられます。成人非糖尿病患者を対象にビタミンEを投与すると、組織学的改善が認められるため、非糖尿病患者ではビタミンEが第一選択です。一方糖尿病合併NAFLDにおいては、すでにピオグリタゾンが、ビタミンEと同等の効果があると認められています。また、近年では、GLP‒1アナログ製剤、SGLT2阻害薬のNAFLDに対する効果も報告されています。今後大規模ダブルブラインド研究にて、長期的な効果、効果予測因子が明らかになることが期待されます。

◆今後の課題と展望
 NAFLDは生活習慣を基盤に発症しますが、遺伝的バックグランドも影響するため、これらの因子も含めた包括的な治療法の確立が必要です。

 

高齢者糖尿病治療ガイド2018

東京女子医科大学糖尿病センター
内科 非常勤講師
石澤香野
 日本が高齢化社会を迎える中、高齢糖尿病患者さんが増えています。当科で施行した糖尿病診療の実態を調査する前向き研究(Diabetes Study from the Center of Tokyo Women's Medical University, DIACET)の初回調査においても、アンケートにご回答頂いた当科通院中の患者さん8,509名中、65歳以上の患者さんが4,283名(50.3%)、75歳以上の患者さんが1,726名(20.2%)にのぼりました。
 このような高齢糖尿病患者さんの増加と、糖尿病診療における老年医学的知識の必要性の高まりを背景として、日本糖尿病学会と日本老年医学会は平成27年に合同委員会を設置し、平成28年に「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標値(HbA1c値)」を、平成29年に「高齢者糖尿病診療ガイドライン2017」を公表しました。本年、さらに広く治療の質の向上をはかるため、「高齢者糖尿病治療ガイド2018」(日本糖尿病学会・日本老年医学会編・著)が刊行されました。

◆高齢者総合機能評価(CGA)という視点
 同ガイドは、高齢患者さんの診断、治療および合併症(動脈硬化性疾患、サルコペニア、骨粗鬆症、歯周病、認知症、うつ病など)とその対策を示しています。内容は多岐に渡りますが、ガイドの根幹には、医療従事者が高齢患者さんの診察にあたって、高齢者総合機能評価(Comprehensive geriatric assessment、以下CGA)を行い、その上で個々の患者さんの糖尿病治療計画を立てるという視点が存在します。
 CGAでは、患者さんの①身体機能、②認知機能、③心理状態、④栄養状態、⑤薬剤、⑥社会・経済的評価を適切な方法で行い、評価に応じて従来の治療内容を修正することも検討します。例えば身体機能に関して、高齢糖尿病患者さんでは、糖尿病がない人と比べてADLが低下しやすく、筋力低下や転倒・骨折を起こしやすいことが報告されています。ガイドでは、ADLが低下している高齢患者さんでは、体重減少や低栄養を来さないようバランス良く食事を取り(標準体重1kgあたり25〜30kcal)、運動療法では、特にレジスタンス運動で筋力を維持することが推奨されています。また認知症やうつ状態を合併する患者さんでは、治療遵守が難しくなり高血糖や重症低血糖を来す危険性があるため、多剤併用や頻回注射を避けて簡便な治療に変更するとともに、家族や介護者など社会的支援の有無を確認して早期に介入する必要があります。

◆血糖コントロール目標と下限値の設定
 CGAの認知機能と身体機能(ADL)を軸として、高齢患者さんの血糖コントロール目標が定められます。例えば認知機能またはADLが軽度低下している患者さんで、インスリンやSU薬など低血糖が危惧される薬物を使用している場合は、HbA1c8%未満を目標として、7.0%を下回らないよう血糖コントロールを行います。これはHbA1c値が低いと、認知症、心血管障害のリスクになるとの報告が多いためです。ですが高齢糖尿病患者さんに関する研究ははじまったばかりで、今後さらなるエビデンスの構築が必要です。

◆ガイドラインの向上を目指して
 治療ガイドラインが公表され、臨床の現場で個々の患者さんにとっての最適な治療法は何か、という疑問と照らし合わすことができるようになりました。糖尿病センターでは、高齢患者さんと真摯に向き合い、きめ細かな診療を行うとともに、治療ガイドを検証し、高齢者糖尿病の治療を更に向上させていきたいと願っています。

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