DIABETES NEWS No.161
 
No.161 2017 November/December

1型糖尿病に対する膵島移植への期待

東京女子医科大学 内科学(第三)講座
(糖尿病・代謝内科)教授・講座主任
 馬場園哲也
 1型糖尿病に対する膵臓移植に関しては、当科からこれまでいろいろな機会で報告してきました(Diabetes News No.142など)。今回は、膵島移植の現状をお話しします。

◆膵島移植とは
 膵臓移植は提供された膵臓全体あるいは一部を血管吻合によって移植する方法ですが、膵島移植は膵臓から膵島のみを分離し、これを経皮・経門脈的に点滴の要領で肝臓内へ輸注する組織移植です。膵臓移植に比較し侵襲が少なくより安全性が高い治療法といえます。

◆海外における現状
 しかし膵島移植は膵臓移植に比べ成績が不良であり、2000年にエドモントン・プロトコールとよばれる新しいプロトコールが開発された以降でも、1回の膵島移植でインスリン治療から離脱することは困難でした。2005年にミネソタ大学の提唱した、抗胸腺細胞グロブリンと抗TNF-α抗体を用いた新しいプロトコールでは、短期的には1回の膵島移植でもインスリンの離脱が可能となるなど、移植成績の画期的な向上がみられるようになりました。
 北米での膵島移植第3相臨床試験の結果が2016年に発表され(Diabetes Care 2016;39:1230-1240)、1~3回の膵島移植を受けた1型糖尿病患者48名中42名(88%)で、移植の1年後にHbA1cが7.0%未満となり、加えて重症低血糖を認めなくなったことが報告されました。

◆わが国における現状
 わが国では2004年に初の膵島移植が行われ、以後複数の施設で臨床例が相次ぎましたが、しばらく良好な成績が得られませんでした。上に述べたミネソタ大学のプロトコールに従った高度先進医療が2012年に開始され、その後多施設臨床試験である先進医療Bとして継続されています。現在、京都大学など11施設が膵島移植の認定を受けており、このうち6施設で先進医療Bとして膵島移植が実施されています。
最近では、膵島移植後インスリン治療の中止は困難であったものの、血糖日内変動がほぼ正常化した1型糖尿病例が、わが国でも経験されるようになりました。このような患者さんでは、無自覚または重症低血糖から解放されるなど、QOLの著しい改善がみられています。

◆膵臓移植と膵島移植の選択
 現在わが国の膵臓移植のうち、膵腎同時移植の成績が良好であることや、2010年の改正臓器移植法施行後膵腎同時移植数が増加したことから、腎不全に至った糖尿病患者さんでは、臓器移植としての膵腎同時移植が勧められます。
 一方腎症の合併がない1型糖尿病患者さんで、血糖コントロールが極めて不良で低血糖を繰り返すような場合には、臓器移植である膵単独移植の成績がいまだ不十分であることから、侵襲の少ない膵島移植を選択肢として考えて良いと思います。今後わが国での膵島移植成績のさらなる向上が期待されます。

 

東京CDE、東京CDS発進!

東京女子医科大学糖尿病センター
准教授 中神朋子
◆東京CDE、東京CDSが発足
 「糖尿病と共に生きる人生をより豊かなものに」と願い、本年3月、療養指導に携わる新たな認定資格が誕生しました。東京糖尿病療養指導士(東京CDE)、東京糖尿病療養支援士(東京CDS)です(http://cde.tokyo/)。
 2016年の国民健康・栄養調査によれば、日本全体では糖尿病が強く疑われる人と糖尿病の可能性を否定できない人の合計が約2000万人。日本の人口が約1億人とすると実に約5人に1人の割合で、2008年以降減少傾向です。
 しかし東京に限りますと糖尿病有病率は上昇しています。2014年の東京都民全体の糖尿病が強く疑われる人の割合は、男性20.3%、女性16.3%で、全国平均の男性15.5%、女性9.8%を大きく上回っています。
全国平均を上回る東京のために、30年前から活動しておられる西東京CDEの皆さんとともに、糖尿病を理解・勉強してもらい、糖尿病が発症しないよう、また糖尿病を重症化させないよう、この組織は発足しました。

◆東京CDE、東京CDSの資格条件は?
 日本にはすでに日本糖尿病療養指導士(CDEJ)という認定資格があります。CDEJの資格条件は、看護師、管理栄養士、薬剤師、臨床検査技師、理学療法士に限られていますが、今回の東京CDEは、上記に加え、作業療法士、診療放射線技師、准看護師、健康運動指導士なども対象とし、東京CDSは上記職種に加えて社会福祉士、精神保健福祉士、介護福祉士、介護支援専門員(ケアマネジャー)、歯科衛生士、栄養士、臨床心理士、臨床工学技士、医薬品登録販売者、自治体職員(保健、健康増進担当)、医療事務、医薬情報担当者などと、幅広い職種に門戸を開いている事が特徴です。
 早期に糖尿病と診断されて一度医療機関を受診しても、その後通院を中断し、重症合併症が起こってから再診する方は後を絶ちません。国民健康・栄養調査では、治療中断と未治療の方が「糖尿病を強く疑われる人」の23%を占めています。これに加えて、膨大な数にのぼる糖尿病予備群や、歯科や整形外科など内科以外の診療科と連携を密にしていくためには、医師や看護師、薬剤師、理学療法士、管理栄養士などの医療専門職だけが釈迦力に頑張っても十分に対応しきれない時代になりました。幅広い他職種の専門職スタッフとともに、地域ぐるみのサポートが必要とされてきたのです。そのため、本制度ではCDSの認定資格を設けました。健康増進や福祉・介護の場でも、糖尿病についての専門知識を有するスタッフがいることで、よりよいケアのみならず思わぬ事故やトラブルの防止に役立ちます。医療施設で働く医療スタッフの方々に加え、健診機関や保健指導を行う専門職の方々、町のチェーン薬局や介護施設で働く専門職の方々などと全員で力を合わせて糖尿病療養指導をすることが狙いです。

◆今年の試験は12月
 受験者用の講習会にて糖尿病療養について学んだ後、今年は12月1日~12月14日の中から、都合のよい受験日を選択し、テストセンターで受験する流れとなっています(http://cdes.tokyo/flow‒acquirement)。

◆都道府県の地域CDE(CDEL)
 既に地域に特化したCDE制度を実施しているところが全国各地に存在します。地域に根付いた食文化や生活習慣などを理解した上での療養指導が求められているのです。糖尿病について相談できる人・場所が、身近に存在することが目指すべき姿であり、CDE(CDEL)のさらに活躍の場が広がることが期待されます。

 

今、注目の光干渉断層血管造影検査について

東京女子医科大学糖尿病センター
眼科助教 佐伯忠賜朗
◆新しい眼底造影検査
 ここ数年で急速に注目されるようになった眼科検査として、光干渉断層血管造影(Optical Coherence Tomography Angiography:OCTA)があります。そのもととなるのが光干渉断層撮影(OCT)で、大雑把にたとえるならX線の代わりに近赤外光を用いたCT検査と言えます。更に網膜の血流を撮影出来るようにしたものがOCTAです。原理としては短時間に同じ部位のOCT撮影を繰り返して、その間に位相や振幅が変化しなかったシグナル(神経や血管など移動しないものに相当)を減算する事で変化したシグナル(赤血球の移動に相当)をあぶり出して血流を描出するものです。

◆OCTAの特徴
 OCTAは網膜血流評価の標準検査であるフルオレセイン蛍光眼底造影検査(FAG)に比べて、造影剤を用いないことから造影剤アレルギーおよび腎機能悪化の可能性が無いことや、撮影が十数分かかるFAGと比べ、数秒間と短時間で済むことが特徴です。また網膜血流を立体的に捉えることが可能で、網膜の任意の層で血流を評価出来るという長所があります。一方で、ゆっくりとした変化は描出出来ないため血漿成分の漏出が検出不可能なこと、眼球運動がノイズの一因となるため短時間で撮像を済ませる必要があり、一回の撮影で得られる画角が3×3mm~9×9mm程と狭いことなど短所も挙げられます。

◆糖尿病網膜症との関係
 糖尿病網膜症に対しては、画角が狭いことから網膜全体の評価を一度にできず、網膜周辺部の血流不足領域を検出して網膜光凝固術の適応を判断するFAGの代わりにはなりません。また網膜浮腫の原因となる血漿漏出が検出できない、強い白内障や硝子体出血など撮影光が透過しない眼底は評価出来ないこと等が短所としてあります。一方撮影範囲内では、毛細血管瘤、網膜新生血管や網膜無灌流領域等の病的所見がどの深さに存在するかが詳細に分かります。OCTAにより新たに糖尿病網膜症の発症以前から中心窩無血管領域が拡大傾向にあることが示され、その評価が網膜症の早期発見に有用だと報告されました。 また網膜血管密度が浅層より深層で大きい場合に視力低下が強い傾向にあること、糖尿病黄斑浮腫に対する治療(抗血管内皮増殖因子薬の眼内投与)が効きづらい症例の特徴を示し、治療予後の判定にOCTAが有用であるという報告等が出始めています。

◆OCTAの今後の可能性
 このように新たな所見の意義が明らかになれば、OCTAは将来的に益々有用になると思われます。また今後、眼球運動に撮影を追従させる仕組み、光源の工夫やコンピューターの解析速度向上等によって撮影速度や画質の向上が見込まれているため、画角の拡大や周辺部網膜の評価が可能となる公算が大きく、行く行くは糖尿病網膜症診療にとって必須の検査になるものと思われます。一方既存のFAGとOCTAでは撮影原理が異なることから、両者で同一の病態を描出しているように見えても異なる病態であったり、同一の病態が異なった描出をされたりすることから結果の解釈に注意が必要であり、OCTA画像に基づいた糖尿病網膜症の新たな病期分類の必要性も指摘されています。

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