医学の進歩は、各専門科別の診断と治療に関する技術の進歩をもたらしました。このように専門科別に細分化した技術が進むと、遂には患者さんは、一人のお医者さんだけでなく、各科を次々に紹介されて行き、一体、私の主治医は誰かということになります。
現実に最近、ある親しい患者さんから相談を受けました。心筋梗塞、前立腺疾患、腸疾患、眼疾患、難聴などあって、次々に、それぞれの専門科に紹介が繰り返されました。一人の主治医があって全体をコントロールするのではなく、専門家から専門家へといった形になってしまった様子でした。
もちろん、臨床各科の医師は、患者さんの専門科別疾患を診るのみでなく、患者さんを全体として診ているからこそ、次々と専門科への紹介が繰り返されたともいえます。
これとは逆に、早く一度は専門科へ紹介すべきところを実行しないで、A科では専門外だということで放っておかれ、ついに大変な状態になってから、そちらの専門のB科に紹介ということもあります。たとえば、何年も糖尿病を放っておいて眼科の治療が有効に働く時期を失うということが起こっています。眼科では1年に1回、半年に1回というように、必要に応じて診ておくべきであったという反省が起こることになります。
このように考えてみますと、ぜひ自宅の近くのホームドクターに主治医をお願いして、主治医の指示によって、必要な専門科へ紹介を受け、治療法が決定次第、それが主治医のところで可能ならば、再び主治医のもとで治療を継続という形が望ましいと思います。
主治医は患者さんの家庭環境も含めて、患者さんに関する全ての疾患の情報を、一番良く把握している先生といえます。主治医が決まっていれば専門各科は主治医へ情報を伝えることが出来ますし、主治医は患者さんの全体を把握出来るわけです。
糖尿病による高血糖が持続すると、水晶体内にポリオール蓄積による細胞内浮腫が生じ、白内障の進行は加速されるといわれています。40歳以下の若年糖尿病患者にみられ、両眼性で急速に進行する、いわゆる糖尿病性白内障の頻度はそれほど多くなく、大部分は中年以降の老人性白内障に類似した白内障でありますが、糖尿病者ではその進行が早いわけです。
糖尿病者の視力低下の主要な原因は、白内障と網膜症です。白内障が進行すると、視力が低下するばかりでなく、眼底の詳細な観察が不能になったり、網膜症が進行した場合に、レーザー光の透過不良により光凝固治療が不可能となったり、重症網膜症に対する硝子体手術が困難になることもあります。したがって、進行した白内障に対しては、視力改善ばかりでなく、網膜症の観察・治療のうえでも手術を施行したほうが良いわけです。眼科マイクロサージェリーの急速な進歩により、糖尿病コントロールを充分おこなえば、非糖尿病者に比べ、術中術後合併症共、差はなくなってきています。
視力予後は、網膜症の程度に左右され、また術後の網膜症の進行、続発緑内障の発生を防止するためにも、網膜症を有する例では、術前・術後の慎重な経過観察や、場合によっては光凝固が必要となります。
従来、糖尿病者に対する白内障手術は、水晶体嚢内摘出術がおこなわれてきました。しかし、手術機械・器具の進歩により、精密な手術操作が可能となり、硝子体や毛様体に対する影響の少なさ、水晶体後嚢を残すことによるバリアー機能保存などの利点により、水晶体嚢外摘出術が施行されることが多くなってきています。
さらに最近では糖尿病者でも、高齢者で網膜症がないか、あっても非活動性の網膜症の場合には、眼内レンズ移植術がおこなわれるようになってきています。白内障術後の分厚い眼鏡やコンタクトレンズから開放されるため、life quality の点からは、望ましい方法です。適応を選び、近年の眼内レンズ移植法(後房レンズ嚢内移植)は確実におこなえば、非糖尿病者と遜色のない良好な手術成績が得られます。
当センターでは、1988年(1月~10月)に125眼(うち眼内レンズ50眼)の白内障手術を施行しましたが、硝子体手術を目的とした症例を除くと、視力改善率98%、0.5以上の視力達成率68%(眼内レンズ症例では83%)という良好な成績を得ています。
糖尿病治療には、内科医、眼科医、産科医、教育ナース、栄養士等のチームワークが大切です。当センターでは、パラメディカル・スタッフの連携を密にしながら糖尿病患者さんの生活指導を行っています。
教育ナースの役割は、病棟と外来では異なっています。病棟では、退院後の日常生活に役立つように、患者さんひとりひとりにプログラムを作って個人指導を行っています。また、患者さん同志でも糖尿病治療に対する参加意欲が高まるようグループ指導も行っています。
外来には、教育ナースが5名いて、日常生活に関する諸指導の他、血糖の自己測定、インスリンの自己注射、尿糖検査、低血糖時の対処について、及び妊婦の生活指導を行っています。
教育指導を行っていて、苦心するところが沢山あります。例えば血糖の自己測定では、血液を採取し試験紙にのせるタイミングがどうしても3~5秒ずれたり、拭きとる際に強くこすったり、そっと押す程度だったりと、なかなか指導通りにいきません。こういう場合は、次回来院時に血糖測定器を持参してもらいます。検査室で測定した値と自己測定した値の比較をもとに、手技の再確認、再指導を行います。
インスリン自己注射の指導もスムースにできないことがあります。例えば、インスリンを採取する前には必ずバイアルの中へ採取量と同量の空気を注入しなければなりませんが、これを忘れる患者さんがとても多いのです。インスリン採取前にバイアルの中へ空気を注入しないとインスリンの正確な必要量を採取することができなくなります。
患者さんは、インスリン注射開始で動揺している場合も少なくありません。そのような場合には、初回指導時には、明日すべきことを理解してもらうことにとどめることもあります。また、家族の方と共に来院して頂いてフォローしたりしています。
尿糖検査では、試験紙を尿につけ、すみやかにとり出して静かに30秒まってから目視で測定します。しかし、デモンストレーションした後に同じ動作をくり返して頂きますと、試験紙をとり出さずに30秒間入れたままであったり、出し入れをくり返したり、といったようなさまざまな方法がみうけられます。したがって特に年配の方には、可能な限り時間をかけて説明しています。再来院時には、尿糖測定値と血糖値を関連させて、測定が正しく行われているかをみます。
妊婦の生活指導では妊娠の生理や糖尿病が妊娠に及ぼす影響を説明し、それにあった日常生活の工夫について指導をします。
糖尿病合併妊婦は、妊娠中の血糖コントロールを厳重にすることで頭がいっぱいで、お産のための準備が不充分になりがちです。従って教育ナースは、お産の時期を予測して分娩の時の呼吸法や育児用品の準備についても指導をします。これらのことを通して、糖尿病合併妊婦が心身共に準備できた状態でお産し育児ができるように援助しています。
外来・病棟共に、教育ナースは、患者さんの療養生活上の問題に対して適切な援助ができるように力を注いでいます。