DIABETES NEWS No.157
 
No.157 2017 March/April

IT, ICT, AIと
これからの糖尿病

東京女子医科大学糖尿病センター
センター長
 内潟 安子
 私たちは世界のだれも経験していない高齢化社会という「未知への遭遇」の場に立っています。その一方で少子化は進み、生産者人口は減少の一途をたどっています。

◆人工知能(AI)、ロボット時代の到来
 よって、高齢化社会での人的サポートは期待できにくく、情報技術(IT)や、それに伝達技術を加えたICT、人工知能(AI)、ロボットなどの技術工学に頼らねばならない時代が待ったなしといえましょう。再生医療と同様に必要不可欠な分野となってきました。
 なじみのない言葉が飛びかっていますが整理しますと、我々のなじみのパソコンは問いに対する回答を演算処理する装置、AIは莫大なデータを搭載したコンピュータが人間同様の知能を人工的に実現させる技術、ロボットはAIを基礎に人の代わりに作業を自律的に行う装置と考えてよいようです。パソコンレベルから大規模情報をネットワークにて保有するクラウド(コンピュータ)という言葉もあります。

◆在宅医療での血糖管理のひとつの形態
 指先の皮膚をプリックして血糖値を測定することが糖尿病治療に利用できるとわかったのが1980年前のことでした。2009年から腹部のなどの皮下組織の細胞間液の糖濃度(血糖値ではない)を持続的に測定する機器が臨床応用されています(現在は連続6日間)。本年早々、腕に貼りつけた小さなセンサーが皮下組織の細胞間液の糖濃度(血糖値ではない)を最大14日間保持し、かざした小型リーダーを通してダウンロードできる機器が日本にも登場しました。さらに、皮下埋め込み式のセンサー(3mm×16mm)を用いるものも最近報告されました(最大90日間)。
 医療機関を受診している患者さんの利用は言うまでもありませんが、実は大きな福音が訪れるのではないかと当方が期待しているのが在宅医療の場です。在宅や介護施設の場でも多くの1型糖尿病、インスリン治療不可欠の2型糖尿病患者さんがおられます。在宅医療に従事する先生が血糖管理に熟知しておられなくても、ITを利用して糖尿病専門医との「2人主治医制」で十分に血糖管理ができるというわけです。リーダーをかざす手技から将来クラウドを利用することになっても、高齢者社会には便利な、なくてはならないものになります。

◆糖尿病学習支援ロボットの登場
 やさしい看護師さんから糖尿病のことをいろいろ勉強するのもいいのですが、オランダでは1型糖尿病のお子さんにメディカルスタッフに代わり教育支援ロボットが登場したというニュースが昨年8月にありました。

◆高齢者にもやさしいインスリンポンプを
 是非、高齢者にもやさしいインスリンポンプが開発されることを望みます。未知への遭遇が手ごたえのあるものになりますね。

 

糖尿病性腎症とうつ

東京女子医科大学東医療センター
医療練士 髙﨑 圭子
東京女子医科大学糖尿病センター
助教 石澤 香野
東京女子医科大学糖尿病センター
准教授 馬場園哲也
 糖尿病と慢性腎臓病(Chronic KidneyDisease、以下CKD)は、いずれもうつを高頻度に合併することが知られています。しかし、糖尿病性腎症とうつとの関連、特に腎症病期別のうつの合併率や、腎不全治療がうつにおよぼす影響は不明でした。最近、腎症1〜2期の糖尿病患者で、アルブミン尿とうつが関連していることが報告されましたが(Yu MK, et al, 2013)、腎症1〜4期の全体に渡って、アルブミン尿および腎機能とうつとの関連を多くの患者さんを対象に検討した研究はありませんでした。

◆DIACETを用いた調査
 すでにDiabetes Newsで何回か報告しましたように、東京女子医科大学糖尿病センターは2012年10月から、「糖尿病診療の実態に関する前向き調査(DIACET)」を開始しました。患者さんの定期外来受診時に、自己記入式の質問票を配布し、糖尿病型、血糖管理・治療状況、糖尿病合併症に伴う自覚症状などに加え、Patient Health Questionnaire(PHQ‒9)という指標を用いてうつ症状の有無、重症度を評価しています。すでに私たちは、DIACETの初回調査に参加した65歳以上の糖尿病患者さん4,283名の解析を行い、うつの頻度および重症度と糖尿病性神経障害、網膜症、および末期糖尿病性腎症が関連することを報告しました(Ishizawa K, et al, 2016)。さらに、DIACETの1型および2型糖尿病患者さんを対象に、糖尿病性腎症とうつとの関連を横断的に検討しました。
 腎症病期は糖尿病性腎症病期分類2014に従い、尿アルブミン尿および推算糸球体濾過量(eGFR)によって1〜5期に分類、5期は透析と腎移植に分けて解析しました。PHQ‒9は、過去2週間における9つのうつ症状の頻度を問うもので、「全くない」、「数日」、「半分以上」、「ほとんど毎日」をそれぞれ0から3点にスコア化した上で合計スコア(0〜27点)を算出し、5点以上が軽症うつ、10点以上が中等度から重度のうつ症状と定義されています。

◆腎症病期の進行とうつの重症度が関連
腎症の評価が可能であった2,212名、女性928名、男性1,284名、1型糖尿病374名、2型糖尿病1,838名、平均年齢61歳、腎症病期別の患者数は1期(腎症前期)1,297名、2期(早期腎症期)317名、3期(顕性腎症期)120名、4期(腎不全期)251名、5期(透析)184名、5期(腎移植)43名のデータを用いて解析しました。腎症病期の進行に伴い、PHQ‒9スコアの平均値、うつの頻度(同スコア5点以上)および重症度が段階的に増加しましたが、腎移植を施行された患者さんではこれらがいずれも減少していました。また腎症1〜4期の1,985名だけで解析しますと、ロジステイック回帰分析および重回帰分析のいずれにおいても、アルブミン尿がうつの重症度と有意に関連しましたが、eGFRとの関連は認めませんでした。ROC曲線解析を行ったところ、アルブミン尿はeGFRに比較しうつに対する予測能が高い結果となりました(Takasaki K, et al. BMJ Open Diabetes Research and Care 2016;4:e000310)。

◆糖尿病性腎症患者さんのうつへの対策
 以上の結果から、糖尿病性腎症の進行とうつの頻度および重症度が関連すること、腎移植がうつ症状を軽減する可能性があること、また腎症のパラメータのうち、eGFRよりもアルブミン尿がうつとより強く関連することが明らかとなりました。
 本研究は横断研究であり、腎症の進行とうつとの因果関係は不明ですが、より早期にうつを発見し適切に介入することで、糖尿病性腎症の患者さんの生活の質の改善のみならず、腎症の進展予防が可能となるのではないかと考えています。
 当院では腎臓外科と泌尿器科がわが国で最多の腎移植を行っており、糖尿病性腎症患者さんに対する腎移植には、われわれ糖尿病医が血糖管理などのサポートをしています。こうした取り組みを積極的に推進することで、これからも、糖尿病患者さんの心身の負担の軽減に努めていきたいと思います。

 

糖尿病網膜症の硝子体中可溶性終末糖化産物受容体 (sRAGE)

東京女子医科大学糖尿病センター
眼科・助教 片桐真樹子
東京女子医科大学糖尿病センター
眼科・教授 北野 滋彦 
 持続的な高血糖下で促進的に作られる終末糖化産物Advanced Endproducts(AGEs)の蓄積が糖尿病腎症や網膜症などの合併症の発症・進展に関与することが知られています。近年、AGEsの受容体のうち可溶性受容体sRAGEの臨床的な意義が解明されつつあります。

◆終末糖化産物(AGEs)とは?
 AGEsは糖がタンパク質と不可逆的な脱水と縮合という反応を繰り返してできる物質で、食べ物から体内に入るものと、体内で過剰な糖がタンパク質を糖化して生成されるものがあります。AGEsは、加齢とともに体内に蓄積し、老化と関連することが言われていますが、高値になると受容体RAGEを介して活性酸素の生成、血管内皮増殖因子(VEGF)などの炎症性サイトカインの生成を介し、糖尿病網膜症の発症にも関与することが報告されています。

◆可溶性終末糖化産物受容体(sRAGE)
 RAGEのうち可溶性(細胞膜から離れて液体に溶けている)のRAGE(sRAGE)は、細胞膜のRAGEから酵素により切断・生成され、AGEと結合してデコイ(おとり)受容体となり、RAGEを介した病気の進行を抑制する可能性があります。培養網膜細胞にsRAGEを投与すると高血糖負荷によるRAGE発現・VEGF産生を抑制すること、糖尿病動物モデルにおいてはsRAGEの投与が網膜の白血球遊走や網膜血液関門の破綻を抑制することが報告されました。

◆硝子体中sRAGEの検討
 眼内ではAGEsは主に硝子体中に存在し、糖尿病の網膜細胞や増殖糖尿病網膜症の増殖膜でRAGE発現が亢進することが報告されていましたが、硝子体中sRAGEの検討は十分にされていませんでした。そこで私たちは、腎機能などの全身因子の影響も加味した硝子体中のsRAGEの臨床的な意義を検討しました(Int Ophthalmol. 2016, on line)。
 硝子体手術となった糖尿病網膜症患者さんの手術時に同意を得て硝子体の一部を用いてsRAGEを測定したところ、増殖糖尿病網膜症群は非増殖糖尿病網膜症群と比べて高値でした。血中sRAGE濃度は腎機能の悪化とともに上昇し、特に末期腎不全、透析で増加する特徴がありますが、硝子体中sRAGE濃度も腎機能悪化とともに上昇し、血中クレアチニンと有意な正の相関、推定糸球体濾過量(eGFR)と負の相関を示し、特に末期腎不全・透析患者で高い値を示しました。増殖糖尿病網膜症の中では、sRAGE濃度の低い群が高い群に比べて術後早期の再出血による再手術が多いことが明らかになり、硝子体sRAGE濃度は増殖糖尿病網膜症の活動性と関連することが示唆されました。

◆sRAGEの可能性と検討課題
 腎機能が硝子体中sRAGE濃度にも影響しましたが、腎機能障害を考慮に入れても硝子体中sRAGE濃度は糖尿病網膜症の病期および術後の再出血予測の指標として有用である可能性があります。透析患者さんで増殖糖尿病網膜症の活動性が低下してくることは眼科医が臨床でしばしば経験するのですが、デコイ受容体として働く可能性があるsRAGEが特に透析患者さんの硝子体で高値を示すことは、この現象の一端を担っている可能性も示唆され、興味深く、今後さらなる検討が必要です。
 硝子体中sRAGEの起源や、硝子体における濃度で網膜症の進展抑制の働きをするかについては今後の検討課題です。

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