DIABETES NEWS No.148
 
No.148 2015 September/October

糖尿病センター40周年を
迎えて

東京女子医科大学糖尿病センター
センター長
 内潟 安子
 平田幸正先生が東京女子医科大学に赴任され、東京女子医科大学に糖尿病センターが開 設されたのが、今を去ること1975年7月でした。よって、糖尿病センターは本年7月に開設40周年を迎えることができました。これも一重に先生方はじめ多くの患者さんのご支援の賜物と感謝申し上げます。昨今も、糖尿病センターの医師、ナース、検査技師への暖かいご支援のお言葉に溢れた投書をいただきました。

◆平田所長の理想とする糖尿病センター
 1985年のDiabetes News 創刊号(1号)に、平田所長はなぜ糖尿病センターを開設するに 到ったかを記載しています。『......一人の小児糖尿病児の成長を考えてみますと、一人の医師のみで全ての治療カバー出来るものではないことがわかります。本人はもちろん、小児科、内科のホームドクターと専門医、ナース、ケースワーカー、栄養士、家族、学校教師など、数え上げてみますと実に多数の人々の協力が必要となります。Diabetes Newsを発刊する目的は、患者さんを含めて治療に関与する各パートの連絡をより綿密にし、治療効果をあげることにあるといえます』。まだ、チーム医療という概念が定着していない時代。小児ヤングの患者さん、妊婦さん、腎臓の治療を重点的に必要な方、眼科治療を重点的に必要とする方、足病変の治療を重点的に必要とする方に、それぞれ専門の医師が養成され、そしてお互いのスキルを合わせる統合治療ができる糖尿病センターができあがってきました。

◆大森所長の理想とする糖尿病センター
 二代所長大森先生時代は糖尿病センターの発展する時代となりました。患者数の増加に対応できる外来・入院診療をめざしました。まだ、糖尿病センター建物の3階フロアに外来があった時代です。3階フロアを十二分に活用した外来業務をめざすように指示されたことを思い出します。患者さんを待たせない体制を作ることを厳命され、患者さんの血糖を測定したい時間帯にはいつでも測定できる体制ができあがりました。

◆三代岩本センター長の糖尿病センター
 糖尿病センターの成熟した時代を迎えたともいえましょう。そして、最も大きな変革は糖 尿病センター建物から2003年新設の外来センターに外来業務がすべて移行したことでした。

◆2015年1月の来院患者数が読売新聞に
 6月7日朝刊に上記が掲載されました。日本で最も多くの患者さんにお越しいただいている糖尿病センターをこの機会に見直し、これからの10年は、「充実した患者さんのための糖尿病センター」に向い、さらに改革していきます。
*読売新聞「病院の実力」2015年6月7日 29ページ

 

当センターにおける
フットケアと
足病変治療の取り組み
東京女子医科大学糖尿病センター
助教
 井倉 和紀
 糖尿病の最も重篤な合併症のひとつは、足潰瘍が悪化して下肢切断になることです。ちょっとした靴擦れや、熱傷、胼胝、巻き爪など様々な原因から足潰瘍を発症し、下肢切断となるとQuality of Life(QOL)低下とともに生命予後の悪化をきたすことが知られています。フットケア外来の目的は兎にも角にも救肢(足を救うこと)です。
 具体的には潰瘍を発症させないための「予防的フットケア」と、足潰瘍を発症した後の「創傷ケア」の二つがあります。当センターでは、「予防的フットケア」から「創傷ケア」を他科・他職種と協力しながら行っています。

◆予防的フットケア
 最も多いのがネイルケアです。他には胼胝の治療、末梢動脈疾患の診断と治療、神経障害・足の疼痛治療、白癬などの感染症治療、靴・中敷きの診断と処方があります。
 ネイルケアは、ニッパーによる爪切りやグラインダーによるトリミングだけではなく、必要に応じて巻き爪の矯正も行っています。
 胼胝の治療は、主にメスを用いて定期的に切除していますが、胼胝の発症には足底圧の異常が深く関わっているため、適切な靴や足底板(中敷き)の調整を検討します。
 また予防的フットケア看護専門外来では、資格を有する看護師のネイルケアと胼胝治療に加えて、爪やすりの使用方法、軟膏の塗り方などのセルフケアの支援も行っています。

◆創傷ケア
 足潰瘍を認めた場合、まず最初に行うのが足の血流障害の評価と治療です。Ankle brachial index(ABI)、Toe brachial index(TBI)検査や皮膚灌流圧検査などで下肢血流の評価を行い、血流不良が疑われる場合は、初診時同日内に当院循環器内科に依頼し、必要に応じて速やかに下肢血流を確保することが最も大事なこととなります。
 そして抗生物質の投与や血糖管理などの全身管理を行いながら、局所の治療を行っていきます。具体的には、洗浄、軟膏治療になりますが、創傷治癒には、デブリードマンにて壊死組織を除去する必要があり、必要な時はフットケア外来で速やかにデブリードマンを行います。また保存的治療の適応である足潰瘍の治療として、創部に陰圧を持続的に負荷する局所陰圧閉鎖療法を積極的に行い、より早期での創閉鎖を図ります。
 また創傷ケアの重要な点に、創部に荷重をかけないために免荷、圧分散があります。免荷をしなければ足潰瘍の再発する可能性は高く、靴・中敷きなどのフットウェアの作成は治療の一つとなります。当フットケア外来では、義肢装具士と一緒に足に適した靴や中敷きを保険診療にて作成しています。

◆今後の課題
 当センターフットケア外来では、チーム医療のもとに救肢を目指していますが、下肢切断となる糖尿病患者がいまだ多いのが現状であります。一人でも多くの糖尿病患者の救肢に向けて、今後は優れた予後予測因子の同定の研究や、新しい治療法の確立が急務となっています。

 

脂肪由来幹細胞シート
(ASCシート)を用いた
新しい糖尿病足潰瘍治療法の開発
東京女子医科大学糖尿病センター
医療練士・大学院生 加藤 ゆか
東京女子医科大学先端生命医科学研究所
准教授 岩田 隆紀
 神経障害や血流障害を背景とする糖尿病足潰瘍の治療は、創部が閉鎖するまでに長期間を要します。その間に創部感染を繰り返す症例を認めたり、安静による筋力低下からQuality of Life(QOL)が低下するなどの問題点が出てきます。そのため、治療期間の短縮を目的とした糖尿病足潰瘍に対する新たな治療法の開発が求められています。
 現在、当センターフットケアグループでは、東京女子医科大学先端生命医科学研究所の間葉系幹細胞シート開発グループとともに、脂肪細胞から抽出した幹細胞:脂肪由来幹細胞(Adipose derived stem cell:ASC)を用いた、新たな創部局所治療の開発を行っております。

◆脂肪由来幹細胞(Adipose derived stem cell:ASC)/脂肪由来幹細胞シート(ASCシート)とは?
 成人の組織にも幹細胞が存在します。幹細胞は様々な細胞への分化能を持ち、組織修復を促すことが報告されております。骨髄、脂肪、筋組織などの間葉系組織に含まれる幹細胞を間葉系幹細胞と呼びます。
 その中でも脂肪組織はヒトの体内に大量に存在している上、比較的低侵襲に採取可能であり、また、他の組織と比較し幹細胞(ASC)を豊富に含んでいます。またASCは、増殖が速く細胞活性も高いことから有用性が期待されており、多くの基礎研究が行われています。
 我々は、岡野らが開発した細胞シート工学(Okano et al., J Biomed Mater Res, 1993)と ASCを組み合わせて、足潰瘍の創傷治療に応用できないかと考えました。細胞シート工学において、培養表面に温度応答性高分子を重合させた温度応答性培養皿を用いて細胞を培養することで、温度変化のみによって細胞外基質を保持したまま細胞をシート状に回収し、そのまま移植可能となったため、局所に高濃度に効率良く投与することが可能となりました。

◆ASCシートの効果
 重我々が行った実験は、まず、正常ラットの皮下脂肪組織を採取し、抽出したASCからASCシートを作製します。作製したASCシートを、2型糖尿病モデルラットに作製した骨露出を伴う全層皮膚欠損創に貼付し、その上から人工真皮で覆いました。
 経時的に創部を評価したところ、人工真皮のみのラット群の創部閉鎖までの平均期間が約35日であったのに対し、ASCシート投与群では平均約25日と有意な短縮を認めました。ASCシートから多くの成長因子の分泌を認めており、これらが創部修復の促進を促したのではないかと推測されます。(Kato et al., Diabetes, 2015)

◆今後の展望
 今回、ラットの実験において、ASCシートが著明な創傷治癒促進効果を認めたことから、現在は、ヒト臨床への応用を目指してヒトASCシートの安全性と有効性の確認を進めております。
 細胞シート工学を利用してASCの組織修復効果を最大限に活用し、創部閉鎖までの期間短縮が実現すれば、二次的な感染リスクが減り、QOL上昇を認め、糖尿病足潰瘍患者の予後改善に寄与する可能性が期待されます。

このページの先頭へ