DIABETES NEWS No.140
 
No.140 2014 May/June

女子医大糖尿病センターの
パスを利用ください

東京女子医科大学糖尿病センター
センター長
 内潟 安子
 「こんなのがあったらいいな」という地域の第一線の先生のご要望にお応えして、お手軽なパスを運用しています(http://twmudiabetes.jp/)。簡単な紹介状とともに受診予約下さい(外来予約受付:03-3353-8138)。

◆「食事負荷試験・集団栄養指導」外来パス
 初診時に、朝食負荷試験と集団栄養指導を一緒に予約します。当日は朝食負荷試験の合間の時間に集団栄養指導があります。腎機能軽度低下の方には糖腎食といった献立も勉強できます。結果はご紹介いただいた先生に郵送で返信します。
 負荷試験には、塩分、PFCバランスに気配りした「からだにやさしいお弁当」(400キロカロリー、糖尿病食品交換表表示付、東京女子医科大学糖尿病センター監修)を利用できます。このお弁当はファックスでお取り寄せもでき、普段のお食事にもご利用できます。

◆ CGMS外来パス
 初診時に、CGMSの機器をとりつける期間を予約します。4、5日間取り付けた後、当センターでとりはずして終了です。結果は紹介医に郵送いたします。

◆ CSII外来導入パス
 CSIIの適応のある患者さんに外来で導入いたします。外来のみでは無理な場合は入院で行います。

◆黄斑疾患総合ケア
 糖尿病黄斑浮腫治療をはじめとする黄斑疾患治療を安全に外来で行っています。

◆ 3日間短期入院パス
 月~水曜日入院と、木~土曜日入院の2 つのコースがあります。1日目は集団栄養指導、糖尿病教室、服薬指導、2日目は朝食負荷試験、個人栄養指導、3日目は医師からの説明です。CGMSも適宜行います(本ニュース118号)。

◆ 1週間短期入院パス
 日曜日に入院しその週の土曜日に退院です。糖尿病型の確認、血糖コントロールの現状把握、インスリン分泌能/抵抗性の評価、合併症の評価、糖尿病教育、治療内容の再検討、退院後の療養継続の指導などが入院目的になります。入院中は、糖尿病内科および眼科専門医、指導医、糖尿病療養指導士、糖尿病認定看護師が、診療・療養を担当いたします。退院後は紹介医に戻っていただきます。

◆パスの利点を利用して
 糖尿病センターのパスの利点をどうぞご利用ください。

 

国際糖尿病連合(IDF)による
高齢者のための
糖尿病治療ガイドライン
東京女子医科大学
糖尿病センター 助教
 石澤 香野
 2013年12月、国際糖尿病連合(IDF)が、新たに高齢2型糖尿病患者さんのための治療ガイドラインを発表しました。新ガイドラインでは、原則として70歳(発展途上国では60歳)以上の高齢の方を対象として、「診断、予防、教育」「栄養、運動」「薬物治療・管理目標値」「網膜症」「腎機能障害」「心血管リスク」「足病変」「性の健康と生活の質」まで、幅広い領域での指針が示されています。

◆栄養、運動
 適切な体重を維持するために、高齢者でも食事療法の継続が勧められました。一方、食欲の低下から低栄養や体重減少を生じたり、脱水に陥ったりすることがないよう、偏った食生活に注意して、夏季には十分に水分を摂取することも重要であることが示されました。運動は、自宅でできる比較的強度の軽い運動から開始することが大切です。特に「歩く力」を維持することが、血糖管理のみならず、転倒を防ぎ自立した生活を送る上で重要とされました。是非、主治医の先生とご相談の上、自宅でのエクササイズやウォーキングに取り組んでみて下さい。

◆薬物療法
 高齢患者さんの生活の自立度や認知・心理的背景に応じて、治療の目標値を定めることが提唱されています。例えば、自立した生活を送っている方の場合、HbA1cの目標値は7.0~7.5%ですが、何らかの介助を要する方の場合には、低血糖のリスクをより重視して、HbA1cの目標値を7.0~8%に引き上げるべきとしています。スルホニル尿素薬やDPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬、グリニド薬、インスリンを使用している場合には、低血糖に注意しつつ、良好な血糖コントロールを維持することが必要です。
 経口血糖降下薬では、第1選択薬はメトホルミン薬、またはスルホニル尿素薬かDPP-4阻害薬が推奨されています。但し高齢者では腎機能が低下するため、メトホルミン薬を継続する場合は腎機能に注意して、推定糸球体濾過量(eGFR)45ml/min以下で減量、30ml/min以下で中止するよう求められています。本邦では中等度以上(血清Cr男性1.3mg/dl,女性1.2mg/dl以上)の腎障害で禁忌ですが、高齢者では血清Crは低めになるためeGFRも参考に慎重に投与を継続する必要があります。新ガイドラインでは、これらの薬剤に加えてインスリンを併用する場合は、1日1回のBOT(Basal supported oral therapy)から開始して、徐々にインスリンの量・回数を調節することを勧めています。高齢で何らかの介助を要する方では、薬物療法を定期的に見直し、誤投与や重複投与を防ぐため、より簡便な方法を探すことも必要です。

◆合併症管理について
 高齢者であっても網膜症の危険はあるため、少なくとも1~2年に1回は眼底検査を行うよう推奨しています。微量アルブミン尿や高血圧を認める場合は、ACE阻害薬やARBといった降圧薬を使用するよう推奨しています。また、高齢で何らかの介助を要する方の場合は、足病変が重篤化しやすいことから、特にフットケアに注意するよう記載されました。
 新たなガイドラインは、世界中の高齢2型糖尿病患者さんが、より適切な治療・ケアが受けられるよう作成されました。患者さん一人ひとりの生理的、心理的、社会的背景を考慮したオーダーメイドの治療・ケアがますます求められる時代になったといえるでしょう。

 

糖尿病の負担を
軽くすること、これが第一

九州大学病院心療内科特任准教授
(前糖尿病センター非常勤講師)
 瀧井 正人
 糖尿病の治療がうまくいくためには、患者さんが糖尿病を「受け入れ」、糖尿病とうまく「付き合っていく」ことがとても重要なことだと言われています。しかし、それは決して簡単なことではありません。
◆糖尿病そのものがストレス
  患者さんは、糖尿病からくる多くのストレスを抱えています。(1)重大かつ「情けない」病気になってしまった、(2)治療上必要とされる「自己管理」という義務、(3)否定的な医学的情報:「不治の病」、合併症、(4)周囲の人達との関係:監視、干渉、特別扱い、糖尿病をめぐって互いにストレスをかけあう関係、(5)医療者との関係、(6)社会的な無知、偏見、差別、(7)経済的負担など、です。こういったストレスが患者さんの大きな負担となり、心理的な不調や病気も生じやすくなり、糖尿病のコントロールも難しくなります。

◆糖尿病に併発する"うつ"
 糖尿病患者さんに併発するうつ(病)は昨今大変注目され、しばしばトピックスのように扱われます。糖尿病でない人に比べて頻度が高く、血糖コントロール不良や糖尿病合併症の発症と関連しており、うつ(病)の治癒が困難で再発することが多いと報告されています。
 確かに、うつ(病)の心理テストをすると、うつ傾向は高く出ます。しかし、本当のうつ病かというと、典型的なうつ病だけではなく広く「うつ状態」といったものも含んでいるように思われるのです。
 「抑うつ気分を伴う適応障害」という病気があります。「適応障害」とは「明確なストレス因に反応し、情動面または行動面の症状が出現(悪化)する」というものです。糖尿病患者さんにおけるうつ(病)は、糖尿病に関するストレスが原因となった「適応障害」を多く含んでいると思われます。
 「適応障害」に対する主な治療はストレス因の除去です。「糖尿病自体がストレスだから」といって、糖尿病自体を除去することはできません。その負担をできるだけ軽くするという対応が望まれます。これは「糖尿病診療に関わる医療者」だけができることであり、糖尿病患者さんにおけるうつ(病)に対してとても有効な方法だと思われます。
 また、うつ(病)だけではなく、一般に糖尿病に伴う心理的不調や病気は糖尿病に関する心の負担と結びついていることが多く、負担を軽くする対応が重要だと思われます。

◆負担を軽くする方法
 糖尿病の負担を軽くする方法として筆者が行ってきたカウンセリングの要点を紹介したいと思います。これは筆者が多数治療してきた1型糖尿病に摂食障害を併発した患者さんへの基本的対応から生まれたものです。1型糖尿病や摂食障害に限らず、心理社会的問題を抱え、糖尿病とうまく付き合えない患者さん全般に適用できるものだと考えています。
 (1)糖尿病への思い・恨みを引き出し、時間をかけて聞く、(2)傷ついた自己評価の回復を援助する、(3)悲観的過ぎる糖尿病像を排し、希望が持て受け入れやすい糖尿病像を示す、(4)糖尿病と楽に付き合うことの大切さを教える、(5)家族とのコミュニケーションの回復・改善をはかる、(6)患者さんの自主性を尊重し、患者さんなりのセルフケア法を見つけていくことを援助する、の6つです。
 糖尿病診療に関わる医療者がこのような考え方で診療を行うことにより、患者さんの糖尿病の負担を軽減し、より良い糖尿病の治療成績を導けるのではないかと考えています。

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