DIABETES NEWS No.134
 
No.134 2013 May/June

アドバンスコース/
病棟研修の紹介

東京女子医科大学糖尿病センター
センター長
 内潟 安子
 糖尿病センターに多くの患者さんをご紹介いただいております。ありがたいことと同時に、依頼された治療をしっかりと引き受けるべく医局員一同気持ちを引き締めております。

◆医療連携、連携パス、連携を推進する
 回復後ご紹介いただいた先生に引き続きご加療をお願いすることも多く、実臨床の第一線の先生方とは密にご連絡がしやすい関係でありたいと常々思っております。
 「連携パス」という考えが広まるようになりました。急性期をしっかり行う医療機関、急性期を過ぎた後の安定期をしっかり行う医療機関、そして近くのかかりつけの主治医がしっかり外来診療する、あるいは、専門医のいる医療機関で治療方針を決めてもらう、その後はかかりつけの主治医のもとに通院する、治療が合わなくなったらまた専門医のいる医療機関で診てもらうという連携。それぞれの医療機関が得意とする分野をしっかり担当するという考えです。糖尿病の治療におきましてもこの考えが広まっています。
 糖尿病センターでも古くから他の医療機関の皆さんと交流してきました。1983年から1995年までは糖尿病セミナーという会合を年4回計50回開催し、多くのコメディカルの皆さんと交流してきました。1998年から「糖尿病センターとの医療連携の会」という会合を年4回開催して、第一線の先生方と交流してきました。2011年から「糖尿病センターとの病診連携の会」と名称を変更し会合を継続しています。

◆医療連携の会のアドバンスコース
 医療連携の会を重ねてきましたら、それなら糖尿病センターの臨床の実際を見たいというご意見をいただき、2007年から「医療従事者のためのアドバンスコース」を設定しました。臨床の場での見学、症例検討会、眼科診療の見学が主なものです。詳細は糖尿病センターHPをごらんください。十分なお構いができませんが、糖尿病センターの実際の臨床を見ていただければと、設定しました。
◆糖尿病センターの病棟研修をしてみたい
 「病棟研修をしてみたい」、このような声も多く寄せられます。これまでも病棟で研修する医師を多く引き受けてきましたが、きちんとHPに記載することにしました。
 糖尿病の内科部門、眼科部門、ともに研修できます。内科医の研修は指導医とともに入院診療を行います。眼科医は眼科指導医のもとに眼科外来、入院そして手術を含めた糖尿病眼合併症すべての診療を内科的管理とともに研修します。
 多くの研修卒業生が地元の医療機関にもどられ、地域の糖尿病診療にがんばっております。この先生方とも、もちろん全国レベルで医療連携をしています。
 


黄斑疾患総合ケアユニット

東京女子医科大学糖尿病センター眼科
教授
 北野 滋彦

 人間の網膜には、黄斑という視力を司る重要な部分が機能することにより、中心視力が得られます。黄斑が障害されれば、患者さんのQOLを大きく低下してしまいます。社会的失明原因の第2位が糖尿病網膜症、第4位が加齢黄斑変性であり、このことからも黄斑疾患を克服することは社会全体の利益に直結するといえます。

◆第2位と第4位の有病率
 加齢黄斑変性の有病率は1998年に0.9%であったのに対し、2007年には1.3%と明らかな増加がみられました(福岡県久山町研究)。特に本邦では脈絡膜新生血管を伴い急激な視力低下を引き起こす滲出型加齢黄斑変性の頻度が高いのが特徴であり、2007年時点で本邦の滲出型加齢黄斑変性患者は久山町研究の結果から約70万人と推測されています。従って、今後の超高齢化社会の到来と共に加齢黄斑変性の患者が急増することは容易に推察されます。
 一方、糖尿病患者は世界的にもいまだ増加傾向で、本邦でも糖尿病の可能性の否定できない人は2210万人にのぼります。糖尿病患者の内科的管理の向上と網膜光凝固や硝子体手術などの眼科的治療の進歩により、糖尿病網膜症による失明は減少傾向にあるものの、中等度の視力障害の原因となる糖尿病黄斑浮腫は増加傾向にあり、また糖尿病網膜症を有する患者の約7%が糖尿病黄斑浮腫を合併していると報告されています。加齢黄斑変性とともに、糖尿病黄斑浮腫のマネージメントは非常に重要な問題といえます。
◆統合して黄斑をケアするユニットの設立
 加齢黄斑変性は総合眼科の飯田知弘教授が集中的に取り組まれ、症例数は飛躍的に増加することが予測されます。そこで、加齢黄斑変性や糖尿病網膜症だけでなく多岐にわたる黄斑疾患に対して総合的かつ集学的に診断、治療を行い、そして臨床現場から得られる情報に基づいた研究を強力に推進させるために、総合眼科と糖尿病眼科が共同して「黄斑疾患総合ケアユニット」を外来センター3階に設立することになりました。
◆変革する黄斑疾患の診断と治療
 黄斑疾患は、侵襲的な従来の蛍光眼底造影から光干渉断層計(OCT)や眼底自発蛍光撮影、レーザースペックルフローグラフィーなどの非侵襲的な手段を大いに駆使して、より専門的な疾患管理を必要とします。
 黄斑疾患の治療法は、従来の網膜光凝固や光線力学的療法のような視機能維持を目的としたものから、視機能改善を目指す抗血管内皮増殖因子(VEGF)療法が主体となり、より的確な治療方針の決定と密な経過観察が必要となっています。
◆変革する糖尿病黄斑浮腫の治療
 現状では光凝固療法や硝子体手術が主体的に行われていますが、近年、ステロイド局所投与の有効性が報告され、さらに視機能改善を目指す抗VEGF療法に期待が寄せられています。糖尿病眼科も多くの抗VEGF療法の臨床試験に加わり、その有用性を確認するとともに、市販後の臨床治験に主体的に取り組む体制にあります。2013年度には糖尿病黄斑浮腫に対しての抗VEGF療法が保険適応として認可されることになっており、より安全で有効な治療法の選択と詳細な経過観察が必要となっています。
 高度な診断機器と治療施設を兼ね備えたユニットを創設することにより、内科的および外科的に多岐にわたる黄斑疾患を有する患者に対して、円滑かつ適切な診断と治療が推進されることが期待されます。
 

食事療法に関するシンポジウム(日本糖尿病学会主催)
開催される
東京女子医科大学糖尿病センター
医療練士 栗田 守敏
講 師     中神 朋子
◆沖縄クライシス
 我が国の最長寿県とされてきた沖縄県が、生活環境の欧米化に伴ってその地位を後退したことは、よく知られています。全国平均と比較し、食事の総エネルギー摂取量に差はないが、全体に占める脂肪エネルギー比率が全国平均よりもはるかに上回ってしまったのです。交通手段の発達等による身体活動の低下と、脂質の過剰摂取が、日本人の肥満そして糖尿病の増加に大きく関与し寿命を短縮させているのではないか?と推測され、糖尿病予防の点からも対処すべき大きな栄養学的課題を提示しました。
◆日本人にふさわしい糖尿病食事療法
 2型糖尿病の予防と治療には、どんなに良い薬物が出てきても生活習慣の是正が最も重要です。しかし、実行しかつ継続することは決してたやすくありません。
 「食品交換表」の約十年ぶりの改訂を目前にした3月、日本糖尿病学会主催の"日本人にふさわしい糖尿病食事療法を考えるシンポジウム"が、開催されました。
◆推奨される炭水化物の摂取量
 肥満2型糖尿病者には主として脂質を制限すべきか炭水化物を制限すべきか、また心血管疾患を予防するのにどちらを制限すべきか、これらの課題は欧米では歴史的に長く研究され、議論されてきました。しかし、炭水化物を制限することによって起きるたんぱく質あるいは脂質摂取増加の影響が検討されていないことや、多くの交絡因子も存在するなどから、特定の栄養素が健康に及ぼす影響を見出すことは困難であることが指摘されています。
 2型糖尿病の食事療法は、総エネルギー摂取量の適正化によって体重を適正にし、高血糖のみならず糖尿病の種々の病態を是正するために行います。インスリンの作用は糖代謝のみならず、脂質ならびに蛋白質代謝などにも及んでおり、これらは相互に密接な連関をもつことから、血糖是正ばかりでなくあらゆる面からの食事療法の妥当性が、個々の病態に合わせて検証されなければなりません。
 低炭水化物ダイエットは長期的な食事療法の遵守性や安全性などの重要なエビデンスが不足しており、薦められないと提言されました。すなわち、糖尿病(腎症2期以降は別)における三大栄養素の推奨摂取比率は、特定の栄養素に偏ることなく、現在の日本人の平均摂取比率と同様に炭水化物は総エネルギー量の50~60%、タンパクは20%、脂質は25%に抑えることが強調されました。
◆改訂される食品交換表7版
 今度の新装なる7版食品交換表には、患者さんが自分の食事療法をいつでも確認できるような"私の食事療法"というページが設けられ、塩分、油分の多い食品には赤や黄色のマーク(多く摂らないように)、食物繊維の多い食品には緑のマーク(多く摂るように)が付くことになるようです。また、炭水化物エネルギー比率の下限が従来の55%から50%に引き下げられることになるのですが、現代日本人の食生活の変容を考慮したためです。
 糖尿病患者さんが社会生活の中で、食を楽しみながら食事療法を実践・継続していく―、食事療法とは、実行され継続できなければ意味のないものとなります。


  糖尿病センターからのお知らせはこちらをご覧ください。

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