DIABETES NEWS No.132
 
No.132 2013 January/February

欧州糖尿病学会(EASD)
@ベルリン報告

東京女子医科大学糖尿病センター
センター長
 内 潟 安 子
 経口薬、注射製剤とも、ここ10年あまり新薬の登場が華々しく、その一方で薬効が複雑になってきたのが、糖尿病分野であるといっても過言でありません。それは「糖尿病治療の標的にすべき臓器が少なくとも8つあるため」と本年の欧州糖尿病学会のプレカンファレンスでDel Prato EASD副理事長は説明しています。
◆8つの標的臓器
 8つとは、膵β細胞、膵α細胞、小腸、肝臓、脳、骨格筋、腎臓、そして脂肪です。膵β細胞はインスリン分泌不全、膵α細胞はグルカゴン分泌過剰(抑制不全?)、小腸はインクレチン分泌および作用不全、肝臓は糖産生過剰、脳は神経伝達不全、骨格筋は糖の取り込み減少、腎臓は糖再吸収過剰、脂肪は脂肪分解増強という特有の病態です。2型糖尿病をインスリン分泌不全とインスリン抵抗性という捕らえ方でなく、もっと広い視点から病態を考えそして治療を考えていく、ここまで糖尿病という病態がわかってきたといえます。ここに免疫担当細胞の動向も追加すれば1型糖尿病の理解も広がるでしょう。
◆インスリン感受性増強するFGF21
 さらに新しい標的とされる因子を用いた薬剤開発がなされています。その一つを紹介します。細胞分裂、成長、血管新生などに関連する線維芽細胞増殖因子FGFが20世紀末に発見されたのですが、そのうちのFGF21が糖代謝に関連していることが2005年に報告されました。
 FGF21は肝臓、膵臓、脂肪、骨格筋に発現しており、FGF受容体とともにKloto受容体にも結合するために、脂肪組織における糖の取り込みをMAPキナーゼリン酸化を介して増強させることがわかってきました。飢餓、ケトーシス状態で発現が増強し、PPARα-やγ活性によって調整されているといわれています。FGF21が体重減少、血糖低下、中性脂肪低下、インスリン感受性を増大させる作用をもつことから、これを標的とした薬剤開発をしようというわけです。β細胞増加、脂肪肝の改善、心血管系にも効力があるともいわれています。
 因みにFGF19は胆汁酸代謝に関連し、FGF23は骨代謝と関連することがわかってきたので、これからのFGFファミリー関連の薬物には今後注目です。
◆高脂肪食で視床下部の炎症がおこる?
 門脈内GLP-1が迷走神経を介してインスリン分泌に深く関与していることから脳も糖代謝の大事な臓器であることがわかりつつあるところですが、高脂肪食摂取動物において視床下部の炎症がみられるとの報告がありました。肥満自体でも高感度CRPが陽性になることは知られていますが、脳内細胞の炎症という概念も看過できないことといえます。
 

糖尿病透析予防指導の
運用をはじめました

東京女子医科大学病院
栄養管理部管理栄養士
 柴 崎 千 絵 里
 1998年に糖尿病性腎症がわが国の維持透析導入となる原疾患の第1位となり、その後も第1位を保持していることは周知の通りです。このような現状を鑑み、本年4月から、「糖尿病透析予防指導管理料 月1回350点」が新設されました。
◆算定要件
 HbA1cが6.5%(NGSP値)以上または糖尿病薬(インスリン製剤含む)治療中の糖尿病性腎症第2期以上(透析療法を行っている者を除く)の通院患者さんが対象で、透析予防診療チームが設置された病院(クリニックも含む)で行うこととなっています。透析予防チームは糖尿病指導の経験を有する専任の医師、日本糖尿病療養指導士か認定看護師の資格をもった看護師(又は保健師)、管理栄養士で構成されます。
◆透析予防指導は診察と同日に行います
 患者さんへの指導はこれまでも毎日行ってきましたが、看護師による療養相談と管理栄養士による集団・個人栄養指導を別々に行っていました。今度の「糖尿病透析予防指導」は、医師の診察日と同日に看護師と管理栄養士がともに指導するように義務化されました。「チーム医療」をさらに効率よく進めるというわけです。
 電子カルテの共通の用紙に指導内容をお互いが記載するのですが、当センターでは電話でも手短にエッセンスを伝え、情報を共有して指導を行うようにしています。患者さんには一見病院滞在時間の延長のように見えますが、療養への理解が深まることが感じられます。本システム導入後、我々スタッフもより密接な連携をとり情報交換をするようになりました。以前は栄養指導の際にも運動療法など生活全般の相談を受け指導時間が長引くことも多かったのですが、看護師の関わりによって指導分担ができ、より丁寧な療養相談を行うことができるようになりました。また、月1回は担当医師、コメディカルによるカンファレンスと上記のシステムの改善についてミーティングを開くことにしました。
◆どのような指導がなされるのか
 看護指導は、1)血圧の管理、2)血糖コントロール:血糖のふり返り、血糖パターンマメネジメント、3)体重管理、浮腫チェック、4)運動療法:病期に合わせた運動法、運動量など生活全般にわたり指導を行い相談も受けます。
 栄養指導は指示栄養量に基づいて行います。腎症第2期(早期腎症)では総エネルギー25~30kcal/kg/日、たんぱく質1.0~1.2g/kg/日、食塩血圧が高い場合は制限となります。第3期A(顕性腎症前期)では総エネルギー25~30kcal/kg/日、たんぱく質0.8~1.0g/kg/日、食塩7~8g/日、第3期B(顕性腎症後期)では総エネルギー30~35kcal/kg/日、たんぱく質0.8~1.0g/kg/日、食塩7~8g/日、カリウム軽度制限、そして第4期(腎不全期)では総エネルギー30~35kcal/kg/日、たんぱく質0.6~0.8g/kg/日、食塩5~7g/日、カリウム1.5g/日となります。
◆糖尿食から糖腎食(糖尿病性腎症の食事)への移行
 糖尿病性腎症時の食事療法のポイントは、食塩摂取量を減らすことと、たんぱく質を減らし、その減らした量に相当するエネルギーを炭水化物や脂質に振り分けることです。病期によっては総エネルギー量を増やすこともあります。当院ではこの食事を糖腎食と呼んでいます。患者さんは炭水化物、脂質が増えるために、この食事療法に慣れるには戸惑うことが多いようです。透析導入を予防するための生活改善に寄与するよう、このシステムをさらに活用していきます。
 

最近の運動療法のトピックス

東京女子医科大学糖尿病センター
助教
 大 屋 純 子
◆現在の運動療法の目標値
 運動療法は糖尿病治療において食事療法、薬物療法に並ぶ3本柱です。現在患者さんにお勧めする運動で最も多いのは「歩行:ウォーキング」でしょう。
 糖尿病治療に有益な身体活動量の目標値として、①中強度で毎日少なくとも現在より2,000歩(20分)の増加、あるいは②中強度で1日8,000~10,000歩を目指すことが勧められています。ただし、この中強度のとらえ方に個人差が大きく、低強度の運動を継続することで効果が得られないばかりか、飽きて運動をやめてしまうことがよくあります。
◆最近注目の高強度インターバル運動
 最近、より少ない時間で効果的な運動方法として、高強度インターバル運動が注目されています。これは、高強度の運動と休息(あるいは低~中強度の運動)を交互に数セット行うもので、もともとアスリートがパフォーマンス向上のため行っていたものです。
 糖尿病患者さんに高強度インターバル運動(1分間の高強度運動と1分間の休息を1セットとして10セット(計20分)を週3回)を取り入れたところ、食後血糖の有意な低下、筋肉ミトコンドリア関連蛋白の著明な増加が認められました。高強度運動により筋肉内のエネルギー需要が急激に高まり、ミトコンドリア機能が改善し、その結果筋肉でのインスリン抵抗性が改善されるものと推測されています。
 このように、高強度インターバル運動はこれまでに推奨されてきた週150分の中等度運動を行うよりも短時間で有益な効果が得られる可能性が示されています。
 ただし、高強度運動は最大負荷量の90%を超える運動を指しており、かなりきつい運動であるため、患者さんが個人的に行うには安全性やモチベーションの維持の問題があります。
◆インターバル歩行の効果
 高強度インターバル運動を歩行に応用したものとして、インターバル歩行の効果が本年10月にベルリンで開催された欧州糖尿病学会で発表されました。インターバル歩行は、速歩とゆっくり歩きを数分ずつ繰り返すといったものです。2型糖尿病患者を対照群、連続歩行群、インターバル歩行群に割り付け、後者の2群は1回60分、週5回実施するという介入が行われました。4か月の介入の結果、インターバル歩行群の終了時の平均血糖値と最大血糖値(CGMSによる)は連続歩行群よりも低い傾向にありました。
 また、β細胞機能を反映するディスポジション指数(DI値)は連続歩行群と比較しインターバル歩行群が有意に高くなっており、血糖改善に寄与した可能性が示唆されました。
 インターバル歩行は、めりはりがあるため飽きにくく、指導に専門的なテクニックも必要ないため、新しい運動療法の指導方法の一つとして期待されます。

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