DIABETES NEWS No.129
 
No.129 2012 July/August 

チーム医療と療養の現状を
教えていただくこと

東京女子医科大学糖尿病センター
センター長
 内 潟 安 子
◆平田初代所長の「チーム医療」
  Diabetes News 8号に、平田幸正先生は、「血糖コントロールその他の方法によって合併症を防ぐための患者さんとのチームワーク、合併症の重症化を防ぐための各専門家を混じえたチームワーク、さらに進展してしまった合併症を持つ患者さんの Quality of life の向上、それぞれの人生と各種の複雑な治療を要する病態を持つそれぞれの患者さんと闘病して行くチームワーク、と考えてみますと、内科のみならず、眼科、小児科、産婦人科、と数え上げると実に各種の専門医、看護師、栄養士、その他多くの人々の存在が必要となります。これら専門家の活動する場、さらに充実した患者さんの教育や入院の場が求められることになります」と述べています。専門家の中に歯科医も入ってくることでしょう。
◆患者さん中心の医療とエンパワーメント
 チーム医療は患者さんの「こうありたい」という思いを中心に据えて、力量の伯仲した専門 家がお互いに敬意を持って知識とスキルを最大限に発揮することによって成り立ちます。米国 ベストホスピタルランキングの常に上位のジョン・ホプキンス病院のスタッフであった岡本氏の本に、ペイシェント・ファースト:患者さんが一番、医師はじめ医療スタッフは患者さんの声に耳を傾けなければならないという同病院のスタンスが書かれています。
 そして、最近あまり聞かれなくなった言葉、エンパワーメント。この言葉は糖尿病患者さんが自身の人生に対して自身で考えて糖尿病ととともに生きていく力であり、この考えは医療スタッフへの教育に多いに役立ちました。
◆そして療養の現状を教えていただく
  これまでの治療がよかったのか、どこかにもうすこし考える余地があったのではないか、もうすこし治療方針の変更に時間をかけてもよかったのかなど、多くの振り返りや反省や、将来を見据えた治療方針について、日々、医療スタッフは患者さんと、時にはご家族を混じえて検討します。
  このような時、一番必要なものは糖尿病とともに歩んでおられる療養のほんとうの現状です。1日3錠の服用が実際はどうなのか、インスリン注射の単位数、回数の実際はどうなのか、しびれ、痛みはないかなどなど。
  例えば、注射ができないのはできない理由があります。そこを教えていただくべく、糖尿病センターでは、これから毎年、療養の現状の調査をお願いしたいと考えております。
 

糖尿病とED―最新の話題―


東京女子医科大学東医療センター内科
 高 橋 良 当
 今年、日本のED診療ガイドラインが改訂されましたので、改訂点を中心に糖尿病とEDに ついて解説します。
 EDとは満足な性行為を行うのに十分な勃起が得られないか、または維持できない状態が少なくとも3ヶ月以上続く障害で、一時的なED(一過性の機能性EDなど)は除きます。EDは性欲低下、射精障害、絶頂感低下などと同様、性機能障害の1つです。
 我が国で中等度以上のED(中等度ED:時々、性交に十分な勃起と維持ができる、完全ED:いつも全くできない)は約1200~1500万人と推定され、その原因の5割は加齢、25%は高血圧、15%は機能性、6%が糖尿病といわれます。糖尿病性EDは糖尿病の合併症であり、長年の高血糖状態や血糖変動による自律神経障害や血管障害、血管内皮細胞障害や平滑筋や横紋筋障害などに起因しますが、心理社会的影響を強く受ける疾患でもあります。
 EDの診断は問診から容易ですが、EDを訴える糖尿病患者の1割は心因、薬剤、内分泌異常などに原因があり、治療に際してはこれらの鑑別が必要です。EDの診断にIIEF(International Index of Erectile Function)-5を利用する人がおりますが、この判定根拠は外国人データに基づくものであり、日本人への適応は慎重にすべきです。本来、IIEF-5はED治療の経過観察に、EDの調査やスクリーニング目的にはSHIM(Sexual Health Inventory for Men)を使うべきですが、日本人正常値はありません。
 糖尿病患者のED治療では禁煙と節酒、良質な血糖コントロール(HbA1cと血糖変動)を指導した上、EDの原因に合った治療を行います。
 一度の性交に失敗し、また失敗しやしないかという予期不安が強いときや、性行為時に精神的緊張が高まる例では精神安定薬(ブロマゼパム2~4mg)を性行為1時間前に服用します。PDE5阻害薬の併用は有効ですが、パートナーとの性行為のタイミングを合わせにくい例では長時間作用型のタダラフィルが良い適応です。抑うつが強かったり、性的関心が極端に低い例では男性更年期を疑い、テストステロンを測定します。
  糖尿病性EDを含め、ED治療の第一選択薬はPDE5阻害薬で、その有効性と安全性は証明済みです(推奨グレードA)。しかし、糖尿病性EDにおけるPDE5阻害薬の有効率は約6割に過ぎず、糖尿病性合併症が高度でなく、勃起機能が残存しており、血糖コントロールの良い例での効果が期待できます。PDE5阻害薬を処方する際は使用上の注意をよく説明した上で、2~3回で諦めずに5~6回繰り返して試すように指導します。シルデナフィル50mgで効果不十分例の7割は100mgまで増量すると有効になります。
  PDE5阻害薬の無効例や不適応例では陰圧式勃起補助具、陰茎海綿体内注射法、手術療法のような治療法があることを説明し、希望すればED専門医がいる泌尿器科を紹介します。
  新しいED治療に衝撃波療法があります。PDE5阻害薬の効果不十分なED患者29例(内21例は糖尿病)の陰茎に6週間衝撃波を与えたところ、EDと陰茎血管内皮機能の顕著な改善が認められました。まだ開発中の成績ですが、安全で画期的な結果であり、今後の進展が期待されます。
  我が国でのED診療は保険対象外の自由診療ですが、自費カルテを作成すれば、同日同科の保険診療との混合診療が可能です。EDはQOL疾患であり、common diseaseですから、一般医が診療すべきです。禁煙と節酒、良質な血糖コントロールを指導し、パートナーとの良好な関係のなかでの性行為を勧めて下さい。
 

若い糖尿病患者さんとの
グループミーティング

東京女子医科大学糖尿病センター
助教
 小 林 浩 子
"若い糖尿病患者さんとのグループミーティング"は、1型糖尿病患者さんと医療関係者が同じ目線で糖尿病との日々の生活について語り合う会です。4年目を迎え次回が15回となります。これまで、日本各地から約200名の患者さん、約130名の医療関係者に参加いただきました。新しい方が毎回参加されるので、毎回新鮮でそして和やかな雰囲気の中で行われます。発症間もない方は先輩患者さんから教えてもらったり元気をもらったり、医療関係者は実際の患者さんの気持ちを学ぶ場所となっています。
◆インターネットによる情報
  会は参加者全員で自己紹介しながら始まります。「自分と家族と担当医師の本当に狭い三角関係の中に閉じこもって糖尿病の治療をしている。このままでいいのだろうか...」と発症間もない方が不安な気持ちをよく訴えられます。パソコンに"1型糖尿病"と入力すると、様々な情報を簡単に入手できる時代です。簡単に入手できるのに、不安なのはなぜでしょう。いろんな情報がありすぎるから、かえって不安や孤独感を募らせてしまうのかもしれませんが、しかしいろいろ調べてみても、自分の考えや不安を聴いてもらえるわけではありません。インターネット上の情報は一方通行なのです。中には偏った情報もあります。
◆グループミーティングのプログラム
  自己紹介の後は数名のグループに分かれて、感じていることや疑問に思っていることを話し合います。ひとつのグループに発症して間もない方も罹病期間の長い方も入るように、ご家族や同じ医療機関から参加される場合は別々のグループになるようにします。
  グループで話し合っていますと、またさまざまな気持ちの動きがあるようです。発症して間もない方のご家族の「どうしてあげればいいのか」という思いを聴くと、自身が糖尿病を発症した時の両親の気持ちに思いを馳せ、改めて家族の大切さを実感したとの感想を述べておられます。外食や飲み会、スポーツ、旅行などになんとなく消極的であった発症間もない方が、ミーティングの参加をきっかけに自由に自分自身の生活を楽しめるようになったと、感想を述べておられます。
◆人と人との絆
  グループミーティングに参加すると、人と人との絆について考えさせられます。発症間もない1型糖尿病の方にとって、"自分以外にもインスリン注射をしながら充実した毎日を送っている人がこんなにもいるんだ..."という実感ほど心強いメッセージはありません。またインスリンや血糖値について、自分と同じく思っている人が他にもいたのだなあと知ると、それまでの不安な気持ちがすっとなくなります。未成年の女性患者さんが、「数か月前に診断されて毎日泣いてばかりでした。でも仲間から元気をもらい、ミーティングからの帰り道、母親とはじめて笑い合うことができました。」と話してくれました。
  人の心の隙間を埋めることができるのは情報ではなく、お互い理解し合おうという温かい気持ちなのだなあと思います。

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