DIABETES NEWS No.121
 
No.121 2011 March/April 

いのちと地球の未来をひらく医学・医療
"いのちと地球の未来をひらく医学・医療―理解・信頼そして発展―"をメインテーマに第28回日本医学会総会が4月8日(金)~10日(日)の3日間、東京で矢崎義雄先生の会頭のもと開催されます。
 開会講演では、吉川弘之先生(元東大学長)が「科学者と専門家の役割」と題して、また閉会講演では「研究に取り組む姿勢や志」と題して、2010年度ノーベル化学賞受賞者の鈴木章先生(北大名誉教授)が講演されます。わが国の科学界をリードされた先生方のご講演は多くの聴衆に感銘を与えるものと期待しています。

糖尿病関連の講演・企画
 日本医学会総会では、日本人の健康に大きな影響を与える疾患の一つとなった糖尿病に関しても、さまざまな講演や展示が行われます(小誌4頁参照)。私は、順天堂大の河盛教授とともに「糖尿病合併症の成因と対策」(4月9日(土)8:30~10:00 ホール B7)と題するシンポジウムの座長を務めますが、本シンポジウムでは、網膜症(北野教授;東京女子医大)、腎症(羽田教授;旭川医大)、神経障害(中村先生;名古屋大)および心血管病(柏木教授;滋賀医大)について、それぞれ第一人者の先生方からご発表いただきます。多数ご参加ください。

学術展示テーマ:"糖尿病診療新時代"
 4月7日~10日の4日間、東京国際展示場(東京ビッグサイト)では「"知・技"プロフェッショナルの展開」をテーマに登録会員に向けた学術展示と市民向け博覧会が開催されます。糖尿病も学術展示のテーマの柱の1つとなっており、「糖尿病診療新時代」(監修:岩本安彦)と題する糖尿病の診断と治療に関するトピックスをとり上げ、多くの先生方のご協力を得て、展示の準備を進めています。4月7日(木)15:00~16:00 には「ほっとミーティング」を予定していますのでご参集ください。

私自身の最終講義/3月5日(土)
 
最終講義
「糖尿病急増時代を患者さんと歩んだ40年間の軌跡―糖尿病のトータルケアを目指した臨床と研究―」
3月5日(土)14:00~ 於:東京女子医大 弥生記念講堂(聴講自由)
 私は、1994年に東京女子医大に着任以来17年間に亘って仕事をさせていただきましたが、本年3月末日で糖尿病センター長/第三内科主任教授を退任いたします。
 


肥満の外科治療の目的
 肥満治療の根幹は、食事・運動療法に他なりません。しかし、最近、我が国においても病的肥満の方を対象にした減量手術が行われるようになりました。これは糖尿病や心臓病などの肥満合併症による生活の質の低下を予防する、死に至るのを予防する、また合併症を完治・改善するためです。肥満先進国の米国では減量手術は年間21万件以上施行されており、その有効性が認知されつつありますが、我が国における歴史は浅く、減量手術が適応となるのは、1)肥満度の指標 BMIが 32以上で糖尿病またはそれ以外の2つの合併症をもつ場合、ないし 2)BMIが 37以上の場合とされています。

減量手術術式とその効果
 減量手術は腹腔鏡下で行うため開腹手術のような大きな傷は残りません。しかし、極めて高度な技術を要するため熟練した医師が行います。術式には、腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス術、腹腔鏡下胃緊縛法(ラップバンド®)、腹腔鏡下袖状胃切除術、胃内バルーン挿入法があります。
 腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス術は胃を 20~30cc の小袋に分け、その小袋を小腸につなぐもので、これにより少量の食事で満腹感が得られ食事摂取量が制限されます。腹腔鏡下胃緊縛法(ラップバンド®)は胃の上部にバンドを巻き上方の小さな部分と下方の大きな部分に分け、上方の小さな胃の部分が満たされると満腹感をおぼえ食事摂取量が自然に制限されます。バンドの締め付けを調整する器具を皮膚の下に埋め込み、状況に応じて膨らましたりしぼったりできるそうです。腹腔鏡下袖状胃切除術は胃の大半を袖状に切り取り、バナナ一本程度の大きさの胃にして食事摂取量を制限して減量を図るものです。胃内バルーン挿入法は胃の中にシリコンでできた風船を入れ、胃袋の容量を減らすことで食事摂取量を少なくする肥満治療法です。これは手術ではなく胃内視鏡で行う処置なので、比較的軽度の肥満の方や手術に抵抗のある方に勧められます。

糖尿病との関連
 近年、食欲増進に働く胃由来のグレリン、血糖低下作用をもつ腸管由来のインクレチンが脚光をあびています。減量手術を行うと、グレリン低下による体重減少や抗糖尿病効果、中でも消化管バイパス術ではインクレチン分泌の亢進による抗糖尿病効果が期待されるため、この術式が選択される傾向があるようです。しかし、どの術式が最も適しているかは事前に担当医とよく相談し、理解する必要があります。

術後の安全性
 手術の成果を確実なものにするには、術後の骨粗鬆症やビタミン、ミネラル不足を解消するために食事、運動療法の順守のみならず、精神面のケアも極めて重要となります。"切ってしまえばそれで終わり"という単純な話でないことを肝に銘じなければなりません。
 現在、国内の手術成績は限られていますが、術後1年目の平均した分の体重減少率は 68.1%、2型糖尿病に関しては 91%の症例で血糖正常化、大部分の例で合併症の改善効果があり、短中期的安全性も確認されています。
 今後は、長期的安全性を待ちたいと思います。
BMI の計算法:体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)
 


 1型糖尿病と2型糖尿病の相違は教科書的には、自己抗体の有無、急性発症か否かという発症形態の違い、発症年齢の違い、遺伝との関連とともに、肥満との関連も鑑別項目に挙げられます。2型糖尿病は肥満と関連しやすいが、1型糖尿病は肥満とは関連しないといわれてきました。しかしながら、欧米の小児期発症1型糖尿病は発症直前に肥満していることが多いとか、インスリン治療中の患者さんも最近になるほど肥満体型になりつつあることが報告されてきて、教科書的な知識が揺れ動く事態となりました。

1型糖尿病を発症した患児は成長がよい?
 2001年英国の Wilkin らが、小児期では成長が早く体格のよい児が1型糖尿病を発症しやすいという accelerate hypothesis を提唱しました。教科書的な概念とは逆であったため、早期には受け入れられませんでしたが、後、様々な研究グループや人種での検討がなされ、その仮説は西欧人では正しいことが確認されつつあります。小児期発症1型糖尿病に関する9つの研究(計2,658 名)のメタ解析の結果、小児期に肥満がありその後1型糖尿病を発症するリスクはオッズ比 2.03(95%CI 1.46-2.80)と高値であり、また BMI が 1SD 上昇するごとにオッズ比が 1.25(95%CI 1.04-1.51)上昇することが判りました(Diabet. Med. 28,10, 2011)。肥満の後に1型糖尿病を発症しやすくなる機序は、肥満のためにインスリン必要量が多くなり、β細胞に過剰ストレスがかかり、サイトカインなどによる障害をβ細胞が受けやすくなるためと考えられています。しかし、15歳以下の小児肥満が世界的に増加している中で、日本や中国のように1型糖尿病の発症頻度の低い国や、ブラジル、アルジェリアなどでは同様の傾向は認められず、人種的な差異も関与しているかも知れません。

治療後は肥満しやすい
 インスリン治療後の1型糖尿病の体型にも変化が現れていると言われます。米国ピッツバーグの Children Hospital では、1986年から通院中の1型糖尿病患者 589名の予後調査を開始しています(Diabet. Med. 27,398, 2010)。18歳以上の患者では、調査開始時には 30<BMI の肥満者が 3.4%であったのに、2004年には 22.7%に、25≦BM<30 の過体重は 28.6%から 42%まで増加しました。原因の一つとして、強化インスリン療法(IIT)が考えられます。この調査開始時には IIT が全体の 7.2%だったのに対し、2004年には IIT が 82%まで増加していました。1型糖尿病の予後を前向きに調査した DCCT(Diabetes Control and Complications Trial)においても、IIT 群での体重増加は著明で、最初の1年間に平均5.1 kg の体重増加があったと報告されています。IIT は糖尿病合併症の予後改善のエビデンスを世に示しましたが、肥満の頻度が高くなる可能性も残しました。

肥満1型糖尿病と心血管疾患合併
 それでは、肥満1型糖尿病の予後はどうなのでしょうか? フィンランド人でのメタボリックシンドローム(IDF 診断基準)の1型糖尿病心血管合併症全体の危険率は 1.66(95%CI:1.30-2.11)、心筋梗塞 1.76(1.29-2.39)と高値であることが報告されています(Diabetes Care 32,950, 2009)。
 今後は肥満を招かぬようなインスリン治療が望まれます。
 

「第28回日本医学会総会2011東京」から
糖尿病関連プログラムの抜粋


●教育講演
 4月9日(金)10:00~10:30 第4会場:東京国際フォーラム ホール B7(2)
2型糖尿病・メタボリックシンドロームの分子機構と治療戦略 (演者)門脇 孝 先生
 4月10日(日)11:30~12:00 第4会場:東京国際フォーラム ホール B7(2)
国際的―とくにアジアにおける―糖尿病の激増と内外の対策 (演者)清野 裕 先生
●シンポジウム
 4月8日(金)15:00~16:30 第3会場:東京国際フォーラム ホール B7(1)
糖尿病の成因解明の最前線(演者)花房俊昭先生、安田和基先生、清野 進 先生、植木浩二郎先生
 4月9日(土)8:30~10:00 第4会場:東京国際フォーラム ホール B7(2)
糖尿病合併症の成因と対策(演者)北野滋彦先生、羽田勝計先生、中村二郎先生、柏木厚典先生
 4月9日(土)16:30~18:00 第4会場:東京国際フォーラム ホール B7(2)
糖尿病治療のアップデート(演者)渥美義仁先生、谷澤幸生先生、荒木栄一先生、稲垣暢也先生
 4月9日(土)14:30~16:00 第4会場:東京国際フォーラム ホール B7(2)
メタボリックシンドローム(―特定健診・特定保健指導開始後数年を経て―)
(演者)本田佳子先生、中川 徹 先生、土井康文先生、北村明彦先生、岡村智教先生
 4月9日(土)10:30~12:00 第16会場:東京国際フォーラム ホール G701
食事と健康増進(演者)早川富博先生、津金昌一郎先生、佐々木敏先生
●学術展示
  4月7日(木)~4月10日(日)東京国際展示場(ビッグサイト)
  テーマ展示:糖尿病診療新時代(監修:岩本安彦)ほか9テーマ


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